共同行為の判定、公平会は今後の法執行において「実質的認定」に限らず、「協調的行為」理論を採用し、「間接証拠」で推論できる

2018-07-24 2017年
■ 判決分類:公平交易法

I 共同行為の判定、公平会は今後の法執行において「実質的認定」に限らず、「協調的行為」理論を採用し、「間接証拠」で推論できる

■ ハイライト
    国内の三大工業用紙メーカーである正隆股份有限公司(以下、「正隆公司」)、栄成紙業股份有限公司(以下「栄成公司」)及び永豊餘工業用紙股份有限公司(以下「永豊餘公司」)が2009年11月から2010年3月までの間に工業用紙の協調的値上げを行い、国内工業用紙市場の需給機能に影響を及ぼして、行為時の公平交易法(訳注:日本の不正競争防止法、独占禁止法に相当)第14条第1項規定に違反しているとして、公平交易委員会(訳注:日本の公正取引委員会に相当)は2010年5月5日に合計1000万新台湾ドルの過料を科した。前記3社はこれを不服として、いずれも行政訴願及び行政訴訟をそれぞれ提起した。7年間の審判手続きを経て、最高行政裁判所は2017年5月25日に前記3社には確かに共同行為があったと認め、公平交易委員会勝訴の判決を下した。全件について判決が確定した。
    最高行政裁判所は間接証拠を以て共同行為の合意の存在を推論できると認めた。共同行為の合意は当事者の心の中にあるため、主務官庁は証拠を掌握するのが容易ではない。よって共同行為の認定において、たとえ直接証拠がなかったとしても、間接証拠の採用と分析を通じて、事業者間で共同行為を採用したのでなければ市場における協調的行為(外形的に一致する行為)という現象を合理的に解釈できない場合、共同行為の合意が存在したと推論できる。
【公平交易委員会ニュースリリース2017年6月30日】

II 判決内容の要約

最高行政裁判所判決
【裁判番号】106年度判字第265号
【裁判期日】2017年5月25日
【裁判事由】公平交易法

上訴人 正隆股份有限公司(Cheng Loong Corp.)
上訴人 永豊餘工業用紙股份有限公司(YFY Packaging Inc.)
上訴人 栄成紙業股份有限公司(Long Chen Paper Co.,Ltd.)
被上訴人 公平交易委員会

上記当事者間における公平交易法事件について、上訴人は2016年1月28日台北高等行政裁判所104年度訴更二字第46号、第48号及び第49号判決を不服とし、上訴を提起した。当裁判所は次のとおり判決する。

主文 
上訴を棄却する。
上訴審訴訟費用は上訴人の負担とする。

一 事実要約
    国内の工業用紙産業は川上、川中、川下に区分されて、川上の「一級紙廠(一級製紙業者)」は工業用紙の原紙(中芯紙、テッシュペーパー)を、川中の「二級紙廠(二級製紙業者)」は板紙(段ボール板)を、川下の「三級紙廠(三級製紙業者)」は各種紙器等をそれぞれ生産している。上訴人の正隆股份有限公司(以下、「正隆公司」)、栄成紙業股份有限公司(以下「栄成公司」)及び永豊餘工業用紙股份有限公司(以下「永豊餘公司」)は「一級紙廠」、「二級紙廠」を兼ねており、3社が2009年台湾の工業用紙の原紙総生産量に占める比率はそれぞれ51.2%、28.2%、19.1%であった。被上訴人(公平交易委員会)は台湾省紙器商業同業公会連合会(即ち「三級紙廠(つまり紙器メーカー)」の同業組合、以下「三級紙廠同業公会」)から上訴人等が生産する原紙価格に対して協調的値上げが行われ、「三級紙廠」は負担に耐えられないとの陳情を受け調査を行った。被上訴人は調査の結果、上訴人3社は2009年11月から2010年3月までの間に原紙に対する協調的値上げを行い、上訴人の正隆公司と栄成公司はさらに垂直統合の優位性を利用して、2010年1月から3月までに二級のボール板紙に対する協調的値上げを行い、国内工業用紙市場の需給機能に影響を及ぼし、公平交易法第14条第1項規定に違反していると認め、同法第41条前段規定に基づき、2010年5月5日に公処字第099054号処分書(以下「原処分」)を以て上訴人の正隆公司と上訴人の栄成公司、上訴人の永豊餘公司に対して直ちに上記違法行為を排除するよう命じるとともに、上訴人の正隆公司に過料500万新台湾ドル、上訴人の栄成公司に過料300万新台湾ドル、上訴人の永豊餘公司に過料200万新台湾ドルをそれぞれ科した。上訴人等はこれを不服として行政訴願をそれぞれ提起したが、いずれも棄却されたため、その後本件行政訴訟を提起した。台北高等行政裁判所が訴願決定及び原処分を取り消したため、被上訴人はこれを不服として上訴を提起し、当裁判所は原判決を破棄し、原審に差し戻した。再び原審が訴願決定及び原処分を取り消したため、被上訴人は不服として上訴を提起し、当裁判所は第一次差戻し審判決を破棄し、原審に差し戻した。その後原審は上訴人等の請求を棄却し、上訴人等はこれを不服として本件上訴を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:第二次差戻し審判決を破棄し、訴願決定及び原処分を取り消すことを請求する。
(二)被上訴人の請求:上訴棄却を請求する。

三 本件の争点
(一)上訴人の主張理由:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被上訴人の抗弁理由:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
    行為時の公平交易法第7条第1項乃至第3項には「(第1項)本法でいう共同行為とは、事業者が契約、協定又はその他の方法による合意を以て、競争関係にある他の事業者と共同して商品又は役務の対価を決定し、又は数量、技術、製品、設備、取引対象、取引地区等を制限し、相互に事業活動を拘束する行為をいう。(第2項)前項でいう共同行為は、事業者による同一の生産・販売の段階における水平的共同が、生産、商品取引又は役務の需給に係わる市場機能に影響するものに限る。(第3項)第1項でいうその他の方法による合意とは、法律上の拘束力の有無を問わず、契約、協定以外の意思の連絡によって事実上共同行為の成立に至らしめるものをいう。」、第14条第1項前段には「事業者は共同行為をしてはならない。」、第41条前段には「公平交易委員会は、本法規定に違反した事業者に対し、期限までにその行為の排除、改善又は必要な是正措置を講ずるよう命じることができると共に、5万新台湾ドル以上 2500 万新台湾ドル以下の過料に処することができる。……」とそれぞれ規定されている。
    共同行為に対する規範については実質的な認定方式が採用されて、即ち二又は二以上の事業者が明確に認識し、意識して相互の意思の連絡を通じ、その未来の市場行為について法律上の拘束力がない共通認識又は理解を達成して、外形的に市場における一致した行為を形成するものである。もし調査の結果、意思の連絡の事実が確かにあるとき、又はその他の間接証拠(誘因、経済的利益、類似する値上げの時期又は数量、発生回数、持続時間、行為が集中する程度及びその一致性等)を以て事業者間に意思の連絡があったと判断でき、かつそれが外形上の行為の一致性に対する唯一の合理的な解釈であるとき、それらの事業者間に共同行為があったと認定できる。いわゆる「意思の連絡」とは、客観的に事前に予定された計画が存在する必要はなく、直接的又は間接的方法によるものであり、例えば市場情報の公開、競争に関連するセンシティブな市場情報の間接的な交換、又は営業戦略の相互伝達、又は直接的なビジネス情報の交換等を利用するものはすべてそれに該当する。
    次に共同行為規定違反の事実を認定する証拠は、直接証拠に限らず、間接証拠も含まれる。間接証拠を採用する場合、共同行為を成立させる証拠は、直接的関係においては他の事実を証明できるにすぎないが、他の事実から推理の作用において経験則と論理法則に適合する推論判断を為し、違法事実を認定する基礎とすることができる。共同行為の認定において、たとえ事業者間に共同行為の合意があった事を証明できる直接証拠がなくても、間接証拠の採用と分析を通じて、事業者間で共同行為を採用したのでなければ市場における協調的行為を合理的に解釈できない場合、共同行為の合意が存在したと推論でき、即ち共同行為が事業者間における外形上の行為の一致性に対する唯一合理的な解釈であるという状況において、それら事業者間には共同行為があったと認定できる。つまり市場において多数の事業者が同時かつ同じ幅の値上げを行ったが、市場において合理的に(その値上げを)説明できる客観的な需給の変化等の要因がないならば、事業者はその値上げにおいて共同行為の合意があったと合理的に推定できるはずである。
    上訴人正隆公司、永豊余公司及び栄成公司の説明によると、それらが2009年末と2010年初めに値上げした主な原因は国際古紙相場上昇の圧力を反映したものである。さらに前記被上訴人調査資料によると、工業用紙の主な原料は古紙であり、工業用紙コストの約65%前後を占めている。前述の比率に基づいて計算すると、上訴人等が輸入する古紙の数量は顕著な割合に達しておらず、かつそれらが受ける国際古紙相場上昇による値上げ圧力は互いに異なり、それぞれ輸入する比率が同じではないため、古紙相場上昇に対応する価格調整戦略も理論上、異なってくるはずである。ただし上訴人等が上記期間に行った値上げ幅には一致する傾向がみられ、明らかに常軌を逸している。国際古紙相場は上昇傾向にあったが、国内古紙需給には明らかな変化はなく、上訴人等は輸入量を増やしていない状況において、国際原材料の相場上昇を理由に値上げするのは明らかに不自然である。ましてや上訴人等の工業用紙の値上げ幅は国際市場における同じ製品の値上げ幅より明らかに高く、それらの輸入原材料使用率の対比、及び上訴人等による工業用紙価格値上げの期間と幅がほぼ一致していること等の状況から、それらの値上げ行為と動機には確かに不合理な箇所がある。
    本件第二次差戻し審判決は証拠の調査結果に基づき、2009年に上訴人等3社の一級紙廠(工業用紙の原紙)市場における占有率は98.5%に達しており、互いに価格競争をしない誘因と動機があり、価格調整過程において相互の信頼協調関係を築き、さらに価格調整過程の一致性を促進したと認めた。上訴人等の一級紙廠はコストの構成が異なり、被上訴人が調査期間に上訴人等に「各自」の値上げ幅算出の根拠、及びコスト上昇の程度に対する対応の程度を説明するよう要求したが、上訴人等はいずれも口を揃えて古紙原料の値上がりとその他のコスト要因が主な値上げ事由であるとのみ説明した。被上訴人は上訴人等の製品販売価格を調査した結果に基づき、上訴人等のそれぞれ対応するコストは合致せず、とくにそれらがそれぞれ受けた古紙コストの圧力は明らかに異なり、一致して値上げした行為はそれぞれの経営コストを考慮して行った自主的な値上げではないと認めた。さらに上訴人等は頻繁に会食し、順番に席を設けて討論したり親交を深めたりしていることを認めており、証人、業者は上訴人等がしばしば集まっている等の事実を証言しており、上訴人等に合意がなかったという事実を排除しがたく、上訴人等は前記の大幅な工業用紙値上げを行った期間にいかなる上訴人も合理的な競争行為を以て市場を奪い合った状況はみられず、上訴人等の間には工業用紙の見積価格の値上げ幅を維持し、価格競争を避けるという共謀の暗黙の了解があったはずであると間接的に推理して証明することができる。よって原処分が上訴人等の間に一級工業用紙について2009年11月から2010年3月までの間に違法に共同して値上げを行い公平交易法(行為時第14条第1項の共同行為禁止規定)に違反したと認定したことには違法性等はない等と判決している(判決第二次差戻し審判決第83頁乃至第85頁を参照)。その判断結果は経験則、論理法則及び証拠資料に関する倫理法則に反していないと認める。
    寡占市場の競争者は互いに価格の均衡点を確定するため、意思の連絡を通じて合意を達成する他、実務上、価格決定戦略を通じて情報を連絡する方法がよく見られる。本件被上訴人が上訴人等に提出を要求した処分期間において発行した発票(領収書)資料と、さらに川下メーカーに提出を要求した発票等の関連資料とを対比した結果、上訴人等は「発票」の発行を通じて情報を交換し、それらが見積もりした「発票価格」を「実収価格」の算出の基準とし、この操作方法で毎月同時に、同じ形式で協調的値上げを行ったと認めた。これにより上訴人等には確かに共同行為の合意があったと分かり、これらの共同行為は市場競争のシステムにダメージを与えるに足りる。それらは事後、個別の取引時に個別の顧客に対して割引の実収価格を適用しているが、元来の共同行為の成立に影響を及ぼすものではない。
    行為時公平交易法第7条第1項乃至第3項の規範目的は、市場の公平な競争を維持し、商品や役務の価格を人為的に操作したり、若しくは数量、技術、製品、設備、取引対象、取引地区等を制限したりすること等を禁止することである。つまり最も重要なのは、競争者が合意という方法で上記の事項を人為的に操作することを禁じることである。そのなかの価格操作の部分については、合意を以て共同行為を行う競争者によって各自調整される価格は完全に一致している必要はなく、たとえ競争者が調整した後の価格が完全に一致していなかったとしても、その価格の形成が市場の自由競争によって自然に生じたものではなく、競争者間の協定による合意で生じたものであれば、前記公平交易法で禁じる共同行為を構成する。競争者の間に意思の連絡による合意の事実が有ったか否かについては、証拠の調査と検討・判断により結論を出す必要があり、この時競争者による客観的に一致した値上げ行為は即ち判断するための証拠の一つとなる。事実上、共同行為の有無の判断には当然ながら競争者による同じ金額の値上げ行為が必要ないが、同じ金額の値上げ行為は共同行為の存在を確認する積極的な証拠となる。
    被上訴人は調査期間において上訴人等に価格調整の要因を説明するよう通知したことがあり、上訴人等は古紙相場上昇に対処した値上げであるといずれも回答している。被上訴人はその後上訴人等に対して、資料を補充し、どの企業が最初に値上げを行ったのか、どの企業が追随したのかを説明するよう通知したが、上訴人等はいずれも関連資料をさらに提出して参考に供することはしなかった。被上訴人は上訴人等がその製品価格を引き上げた原因は原材料である古紙相場上昇だけではないと認めており、これは根拠がないものではない。
    以上をまとめると、第二次差戻し審判決は前出の趣旨に基づき、上訴人等が2009年1月から2010年3月までの間に、たとえ原材料である古紙相場上昇等のような一部のコストの増加が値上げの要因であったとしても、その協調的値上げにおける価格の一致性はそれらが属する産業の状態及び市場需給の状況に合理的に対応できず、上訴人正隆公司と上訴人榮成公司はさらに垂直統合の優位性を利用して、2010年1月から3月までに二級のボール板紙価格を共同で操作し、国内工業用紙市場の需給機能に影響を及ぼしており、公平交易法第14条第1項本文の共同行為禁止規定に違反していると認め、被上訴人が原処分を以て上訴人等に原処分書送達の翌日から直ちに上記違法行為を排除するよう命じるとともに、上訴人の正隆公司に過料500万新台湾ドル、上訴人の栄成公司に過料300万新台湾ドル、上訴人の永豊餘公司に過料200万新台湾ドルを科す処分を下したことは違法ではない。維持の訴願決定にも誤りはなく、よって上訴人等の原審における請求を棄却したこと、それが適用した法規と該事件が適用すべき現行法規に違背はなく、判例解釈にも抵触しておらず、いわゆる第二次差戻し審判決に法令違背の事情はないと認める。
    以上の次第で、本件上訴には理由がない。行政訴訟法第251条第1項、第98条第1項前段、第104条、民事訴訟法第85条第1項前段により主文のとおり判決する。

2017年5月25日
最高行政裁判所第一法廷
裁判長 劉鑫楨
裁判官 胡方新
裁判官 程怡怡
裁判官 張國勳
裁判官 汪漢卿
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