独立系発電事業者の契約変更交渉拒否事件が差戻し審へ 長生等9社に対する公平交易委員会の処分に係る上訴を最高行政裁判所が支持

2016-06-27 2015年
■ 判決分類:公平交易法

I 独立系発電事業者の契約変更交渉拒否事件が差戻し審へ
長生等9社に対する公平交易委員会の処分に係る上訴を最高行政裁判所が支持

■ ハイライト
行政院公平交易委員会(訳注:日本の公正取引委員会に相当、以下「公平交易会」)は2013年、長生電力股份有限公司(Star Energy Power Corporation)を始めとする独立系発電事業者(Independent Power Producer、以下「IPP」)9社が台湾電力股份有限公司(Taiwan Power Company、以下「台電公司」)との契約変更交渉を共同して拒否した件について、IPP側が(行政訴願の棄却部分を)不服として訴訟を提訴したところ勝訴したため、公平交易会が上訴していたが、最高行政裁判所から公平交易会の主張を認める判決が下され、台北高等行政裁判所で差戻し審が行われることとなった。【最高行政裁判所判決-104,判,329/104,判,330/104,判,339/104,判,340-20150618】
2013年から2014年までに間に争議が発生した長生等IPP 9社と台電公司との契約変更交渉拒否事件について、9社が公平交易会による課徴金63億新台湾ドルという重い処分を受けて行政訴願を提起したところ、行政院訴願委員会により課徴金の部分が取り消されたため、公平交易会は改めて60億新台湾ドルの課徴金を課した。ただし、IPP9社は公平交易会からのカルテル(訳注:原文は「聯合行為」)排除命令の部分について行政訴訟に切り替え、台北高等行政裁判所で勝訴したため、今度は公平交易会が上訴を提起していた。公平交易会は最高行政裁判所で勝訴し、上訴には理由があると認められ、全案が台北高等行政裁判所へ差し戻されることになった。(公平交易会によると、)台北高等行政裁判所が先般の判決で公平交易会敗訴の判決を下した主因は、カルテルの主体が競争関係にある事業者間であるという構成要件について、台北高等行政裁判所がIPP同士には競争関係がなく、発電市場も存在しないため、IPPと台電公司との契約後は市場システムではなく、契約によるシステムであり、カルテルの構成要件を満たさないと認めたことにある。それに対して、最高行政裁判所は、電力購入契約(Power Purchase Agreement、以下「PPA」)は双方の交渉、検討、改正を経る必要があり、さらにIPPの取引相手方はいずれも台電公司であり、台電公司は地域を越えて電力を給電することができ、また又非発電保証時間帯における電力の経済的給電原則に基づき価格レートのより低いIPPから電力を購入できるため、発電市場と競争関係が無いとする原審判決の判断には疑義があるとの見方を示した。【2015年7月2日/経済日報/A16面/税務法務】

II 判決内容の要約

【裁判番号】104年度判字第369号、その他関連判決の一覧は下表の通り。
【裁判期日】2015年7月2日、その他関連判決の一覧は下表の通り。
 
番号  裁判番号                 裁判期日         被上訴人
1 104年度判字第361号 2015年6月26日 星能電力股份有限公司(Star Energy Power Corporation)
2 104年度判字第347号 2015年6月25日 星元電力股份有限公司(Star Buck Power Corporation)
3 104年度判字第346号 2015年6月25日 長生電力股份有限公司(Ever Power IPP Co., Ltd.)
4 104年度判字第340号 2015年6月18日 森霸電力股份有限公司(Sun Ba Power Corporation)
5 104年度判字第339号 2015年6月18日 和平電力股份有限公司(Ho-Ping Power Company)
6 104年度判字第330号 2015年6月18日 新桃電力股份有限公司(Hsin Tao Power Corporation)
7 104年度判字第329号 2015年6月18日 国光電力股份有限公司(Kuo Kuang Power Co., Ltd.)
 
【裁判事由】公平交易法

上訴人 公平交易委員会
被上訴人 嘉惠電力股份有限公司(Chiahui Power Corporation)

上記当事者間における公平交易法事件について、上訴人は2014年10月29日台北高等行政裁判所102年度訴字第1714号判決に対して上訴を提起し、当裁判所は次のとおり判決する。

主文
原判決を破棄し、台北高等行政裁判所へ差し戻す。

一 事実要約
経済部は台湾電力股份有限公司(以下「台電公司」)が住民からの発電所建設反対による電力不足問題を解決するため、国内で審査を受けて許可され運転を行っている民営発電所と、つまり1999年から順に麥寮汽電股份有限公司(以下「麥寮公司」)、長生電力股份有限公司(以下「長生公司」)、和平電力股份有限公司(以下「和平公司」)、新桃電力股份有限公司(以下「新桃公司」)、国光電力股份有限公司(以下「国光公司」)、被上訴人、森霸電力股份有限公司(以下「森霸公司」)、星能電力股份有限公司(以下「星能公司」)、星元電力股份有限公司(以下「星元公司」)等計9社の独立系発電事業者(以下「IPP」)と電力購入契約(以下「PPA」)を結び、電力がPPAで定められた電力購入価格レートで台電公司に売却されていた。
その後2006年12月に発電用の天然ガスが値上がりし、被上訴人、長生公司、新桃公司、森霸公司、国光公司及び星能公司のIPP6社が連名で台電公司に対してPPAにおける燃料コスト(価格レート)の調整システムを変更するよう要求した。(麥寮公司、和平公司は天然ガス発電所を経営しており、星元公司は当時まだ稼働を開始していなかった)。台電公司は2007年8月から次々と6社と交渉会議を開き、2007年9月11日の交渉会議において、双方は燃料コスト(価格レート)調整システムをリアルタイムに価格を反映する調整システムに変更、さらに今後電力購入価格に影響を及ぼす各要因(利率、割引率)については引き続き交渉して購入価格の公平性と合理性に適合させることで合意した。
次に台電公司は前述交渉会議の結論と麥寮公司、和平公司がそれぞれ2007年12月に書簡で電力購入価格レートの調整を求めたことにより、2007年10月から2008年まで次々と前記エネルギー電力価格算出式を調整した後、台電公司はIPP各社と電力購入価格レート構造の利率引き下げ部分による調整システム検討について交渉を行い、2008年には3回にわたる「利率変動に伴うIPP電力購入価格レートの調整システム交渉」会議を開き、2012年にも経済部能源局(Bureau of Energy, Ministry of Economic Affairs、以下「能源局」)が4回にわたり協調処理会議を召集したものの、被上訴人とその他IPP8社は能源局が提出した協調処理案受入れに同意しなかった。
本件は上訴人により自主的に案件として調査された結果、被上訴人とその他IPP8社は台湾地区において政府が設立を許可し台電公司に電力を供給する少数の事業者であり、互いに同一の生産、販売の段階にあり、水平的競争関係を有する国内の発電事業者であり、それらは2008年から2012年10月までの4年間に「台湾民営発電業協進会」(以下「協進会」)を組織して集会し、互いに台電公司と電力購入価格レートを調整しないことで合意に達し、事業活動を相互に拘束し、「引き延ばし」等の方法で、台電公司との交渉を共同して拒絶したことは、需給に関わる国内発電市場機能に影響するに足るものであり、行為時の公平交易法第14条第1項の「事業者はカルテルをしてはならない」とする禁止規定に違反していると認められ、同法第41条第1項前段、第2項と「公平交易法第10条及び第14条違反の状況が重大である案件に対する決定処分の課徴金算出方法」の規定に基づき、2013年3月15日公処字第102035号処分書(以下「原処分」)を以って被上訴人とその他IPP8社に対し原処分送達日から前記カルテルの排除が命じられた他、それらに対してそれぞれ課徴金の決定処分(被上訴人に対する課徴金は4億新台湾ドル)が下された。
被上訴人とその他IPP8社はいずれもこれを不服として行政訴願を提起し、訴願決定は原処分の課徴金に係る部分を破棄し、上訴人に改めて適法の処分を行うよう命じ、その他の部分は訴願を棄却した。被上訴人は行政訴願の棄却部分を不服として、行政訴訟を提起し、原審裁判所は本件と原審裁判所102年度訴字第1701号、第1715号、第1731号、第1739号、第1743号、第1744号、第1750号、第1757号等8件の公平交易法事件について、同一の事実上及び法律上の原因に基づいてそれぞれ提起された複数の訴訟を行政訴訟法第127条第1項規定により弁論の併合を行い、各々判決した。本件は原審裁判所102年度訴字第1714号判決により、訴願決定及び原処分で被上訴人に行為時の公平交易法第14条第1項のカルテル禁止規定違反があったと認め、被上訴人に即刻違法行為部分を排除するよう命じる部分が取り消されたため、上訴人はこれを不服として、本件上訴を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:原判決を破棄する。被上訴人の第一審請求を棄却する。
(二)被上訴人の答弁:上訴を棄却する。

三 本件の争点
本件は公平交易法が適用されるか否か。原処分が被上訴人にはカルテルの禁止規定に違反があったと認定したことに誤りはあるのか否か。
(一)訴状における主張:
1. 被上訴人及びその他IPP8社は台電公司とは競争関係になく、共同で競争市場を構成することはできない。なおかつ被上訴人は電力価格、数量、技術を自ら決めることができず、その他IPPと水平的競争関係を築くことはできない。つまり被上訴人とその他IPP8社はカルテルの主体ではない。
2. 被上訴人及びその他IPP8社が協進会において類似するPPA問題について意見を交換する又は研究機関に専門家意見の提出を委託する等の行為はいずれも価格又は数量の決定には関わりがなく、被上訴人又はその他IPPを拘束する効力はなく、カルテルには関わっていない。
3. 台電公司が被上訴人及びその他IPP8社と契約変更の協議を達成しようとするものは、購入価格レートにおいて、発電保証時間帯の保証発電量と関連する容量価格レート(訳注:発電業者の固定コストを反映した価格レートで、主に資本費を含む)の割引率であり、台電公司とそれらとが結んだPPAに基づき、発電保証時間帯の発電量については、台電公司が給電したかどうかにかかわらず、容量価格レートにより支払う必要があり、経済的給電原則とは関わりがなく、台電公司の電力購入対象及び数量の決定には影響が及ばず、市場の需給にも影響がないため、本件は市場の需給に影響する事がない。

(二)上訴人の主張:
1. 発電事業者の発電方法に関わらず、電力需要者である台電公司にとって、いずれも需要代替性を有しており、また供給代替性については、被上訴人及びその他IPP8社が電業法(訳注:日本の電気事業法に相当)で許可された電気事業者であり、かつ電力システムにおける発電段階の業務にのみ従事している。よって被上訴人を含む発電事業に従事し、台電公司に電力を販売する事業者は、同一市場であると特定でき、かつ「発電市場」と特定されるべきである。また被上訴人及びその他IPP8社の発電所は異なる地域に位置するが、台電公司は電力システムの安全を考慮し、「経済的給電」原則により、わが国本島の単一電力網における電力の統一給電を行い、全国のこれらIPPから取引対象を選択又は切り替えることができるため、本件の地理的市場は全国と特定すべきである。さらに被上訴人及びその他IPP8社はいずれも国内発電市場における事業者であり、それは発電業務に従事し、提供する商品・役務はいずれも電力であり、取引相手方はいずれも台電公司で、明らかにそれらは同一の生産・販売段階にあり、提供する商品又は役務には代替性があり、被上訴人とその他IPP8社との間には水平的競争関係があると認められる。
2. 協進会の会議記録から、幾度にもわたってPPA価格レートに関わる議題が討議され、かつコンセンサスを得ており、さらには交渉に関して分業や任務の分配を行っていることが分かる。また被上訴人及びその他IPP8社は共同で協進会を通じ2機関に研究を委託し、研究の結論を一体として適用し、一致した立場を表明する決議も行っている。さらに台電公司の法廷における陳述内容からも、被上訴人及びその他IPP8社は確かにそれらが協進会を通じてコンセンサスに合意し、調整に同意しない、価格算出式に触れない、実質的な討論を避ける、議題を複雑化したり引き延ばしたりするという種々の方法で、購入価格レート調整の交渉を共同して拒絶したことが証明できる。よって被上訴人及びその他IPP8社は協進会の運営を通じて、事業活動を互いに拘束することに合意している。
3. 被上訴人及びその他IPP8社が共同して台電公司との交渉を拒絶したのでなければ、各事業者と台電公司との間には個別に異なる取引条件が決められる可能性がある。このため被上訴人及びその他IPP8社の合意は本来であれば個別の事業者が交渉するか否か、いかなる条件で交渉を進めるかを自ら決定したであろう行為を制限し、市場における競争を取り除くもので、需給に関わる市場機能に影響するに足る。

四 判決理由の要約
(一)公平交易法は電気事業の目的事業主務官庁がすでに積極的かつ厳密な管制を実施している事業行為に対して、その適用が抑制され、目的事業主務官庁の政策の貫徹に不利となることを避けるべきか否か。電力の提供は、国家産業政策、エネルギー計画、及び各種環境問題の議題に関わるもので、経済部によってトータルな計画が行われている。上訴人が競争政策を優位とする角度から介入したことは、果たして規定機能を打ち消すのか、それとも良性競争によりエネルギー規定効果がさらに高まるのかについては、さらに調査、分析する必要がある。
(二)被上訴人等IPP9社の発電設備の総供給設備容量は原則的に台湾電力システムの総供給設備容量の20%という開放枠内にあり(例外として経済部は必要に応じて調整してもよい)、台電公司のトータルな計画による給電に電力を卸売しており、それらはいずれも台湾電力システムにおける発電段階の業務のみに従事し、提供する商品はいずれも電力で、取引相手方はいずれも台電公司であり、台電公司は地域を越えてトータルな計画による給電を行い、それらの商品を台湾本島の契約世帯に使用させてもよく、かつ非保証時間帯に契約の経済的給電原則に基づきエネルギー価格レート(訳注:変動コストを反映した価格レートで、主に燃料コストを含む)がより低いIPPとの取引を選択できるため、エネルギー価格レートは非保証時間帯の競争ファクターである。従って、原判決がそれらは同一の生産販売段階になく、水平的競争関係がなく、提供する商品には代替性がなく、発電市場を特定することができず、台湾本島を地理的市場の範囲としてはならないと認定したことには、なお疑義がある。
(三)本件の商品市場を特定する時、取引相手方、即ち台電公司が被上訴人等のIPP9社の商品の間で転換コストの大小、商品価格の調整を行う時に台電公司が価格変動により購入を移す程度、台電公司の商品間の代替関係に対する見方等の関連因子を考慮する必要がある。さらに本件の地理的市場を特定する時も、台電公司が異なる地域で商品を購入するする取引コストの大小、台電公司にとっての商品獲得の利便性、台電公司が商品価格を調整する時に異なる地域での購入を選択できる状況、台電公司が商品地域間の代替関係に対する見方等の関連因子を考慮する必要がある。ただし原判決の理由及び上訴理由を比較すると、上訴人等のそれらに対する証言が原審の解読とは異なることや原審の誘導尋問であると認められることが分かる。被上訴人等IPP9社がカルテルの主体の構成要件を満たすか否かを判断する時、該社が被上訴人等IPP9社の商品の間で転換コストの大小、商品価格の調整を行う時に価格変動により購入を移す程度、該社の商品間の代替関係に対する見方(商品市場の関連因子の考慮)、並びに該社が異なる地域で商品を購入する取引コストの大小、該社にとっての商品獲得の利便性、該社が商品価格を調整する時に異なる地域での購入を選択できる状況、該社の商品地域間の代替関係に対する見方(地理的市場の関連因子の考慮)を含む取引相手方、即ち台電公司の真意が一体いかなるものなのか。これらはすべて発電市場の特定に関係し、調査により明らかにする必要がある。
(四)被上訴人等IPP9社の間に一つの発電市場が構成されるのか等については事実証拠が明らかではなく、原審が、それらの間に一つの発電市場が構成されないことに基づきそれらは協進会に参加したものの、各自の立場に基づき各コスト因子を考慮した後、台電公司(経済部)が提出した交渉(調停・処理)案の決定に同意せず、外形上の協調性がみられたが、それらが共同して電力購入価格レートの合意を拒否したと俄かに言うことはできず、またいわゆる生産、商品の取引の需要に関わる市場機能に影響するに足るところはなく、カルテルの合意及び特定市場に対する影響等の構成要件を満たさない云々と認定したことは、軽率な判断である嫌いがあり、これも調査により明らかにする必要がある。
(五)証人蔡〇孟の原審における「私は契約執行の担当だったため、IPP契約変更について私はIPPと連絡して会議を開くこと、そして関連の交渉過程における一部内容の案の研究分析、公文書の判断などを担当していた。現時点でIPP9社のPPAはいずれも契約変更が完了している。2013年1月28日台電公司は先ず国光、森霸、星能の3社と台北地方裁判所において現場で合意に達し、和解の筆録で契約変更に代替した。星元とは同意の返信により2013年 3月6日契約を変更し、長生とは同意の返信により2013年3月13日契約を変更し、新桃とは同意の返信により2013年6月21日契約を変更し、嘉惠とは同意の返信により2013年7月30日契約を変更し、麥寮とは同意の返信により2013年8月23日契約を変更し、和平とは同意の返信により2013年8月28日契約を変更した」等の証言から、上訴人が原処分を行った時、被上訴人等IPP9社間のカルテルの有無が十分に分かり、上訴人が行為時の公平交易法第41条第1項前段規定により被上訴人に該違法行為の即時排除を命じる必要が有ったのかについても、調査により明らかにする必要がある。
(六)以上をまとめると、原判決には上述の疑問点について調査により明らかにされていない箇所があり、上記の状況は本件の判決結果に影響するため、上訴人が原判決には法令違背があり、破棄すべきとする指摘には理由がある。また本件の事実証拠は明らかではなく、原審裁判所は改めて調査する必要があるため、原判決を破棄し、原審裁判所に差し戻して詳細に調査、審理を行い、適法の裁判を行うものとする。
(七)以上の次第で、本件上訴には理由がある。行政訴訟法第256条第1項、第260条第1項に基づき、主文のとおり判決する。

2014年7月2日
最高行政裁判所第四法廷裁判長 侯東昇
裁判官 江幸垠
裁判官 沈應南
裁判官 楊得君
裁判官 闕銘富
 

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