製紙業者3社の協調値上げに対する処罰で公平会が敗訴

2014-03-24 2012年

■ 判決分類:公正取引法

I 製紙業者3社の協調値上げに対する処罰で公平会が敗訴
   判決理由は公平会が業者の「合意による値上げ」証拠を掌握していないため

■ ハイライト
 正隆、栄成及び永豊餘の製紙業者3社が一斉に値上げし、公平交易委員会(以下「公平会」)はこれを「共同行為」であると認定し、業者に値上げの排除措置命令を出すとともに、3社に対して総額1,000万新台湾ドルの過料を科した。しかしながら裁判所は公平会が業者の「合意による値上げ」の証拠を掌握していないとして、公平会に敗訴の判決を下した。
 公平会によると、委員会で討論した後、この判決に対する決定を行うことにしている。しかし前例では、公平会は行政裁判所で請求を棄却された案件はいずれも上訴している。
 台北高等行政裁判所の判決によると、製紙業者は一斉に値上げをしたが、共同行為の犯意を連絡したのか、それとも各々市場価格に追随して値上げしたのかを、公平会が実質的に立証する必要がある。
 また判決によると、値上げしただけで業者が協調値上げに合意したと直接認定し、処罰したことは、事実認定と法の適用が強引すぎるため、業者が請求する原処分と訴願決定の取消は認めるべきである。
 2009年11月から2010年3月までの間に国内工業用紙価格が複数回にわたり引き上げられ、公平会が調査した後、2010年4月14日の委員会議で工業用紙の大手サプライヤである正隆、栄成及び永豊餘が上記期間に工業用紙を協調値上げしたことは、公正取引法第14条の共同行為の禁止規定に違反していると認定し、業者に対して直ちに協調値上げの排除を命じた他、それぞれ500万新台湾ドル、300万新台湾ドル、200万新台湾ドルの過料を科した。
 正隆等業者の主張によると、双方が合意していない「外形一致の行為」は単なる「意識的並行行為」にすぎず、寡占市場結構の関係に基づき、相互に意識的に模倣するもので、たとえ他の業者と値上げ幅が接近していても、事業者間には合意がなく、公正取引法が規範する共同行為の禁止する様態ではない。また、公正取引法は共同行為の成立について、主観的に「合意」の要件を具える必要があり、さもなくば違法と認定することはできない。
 製紙業者3社は最高行政裁判所92年度判字第1733号判決、92年度判字第1798号判決及び前大法官の廖義男が持つ同じ見解を抗弁理由として引用し、裁判所の支持を得た。さらに公平会は業者には確かに「合意による値上げ」が有ったことを実質的に立証する必要があり、それによって初めて公平交易法における共同行為の要件に該当すると認めた。(2012年7月10日/工商時報/A15面)

 

裁判所の判決VS公平交易委員会の認定

裁判所の判決理由

公平交易委員会の認定 

公平会の論述は不明確であり、調査・認定がされていない。業者3社が寡占市場の特性により、川上業者から川下業者に見積もりする際、値上げの意図を暗示したことは業者の暗黙の行為であり、共同行為を構成している。
「協調的行為」を論じるには、「競争限制」の結果要件を満たすかを考慮しなければならない。共同行為には契約及び協定以外に、意思の連絡によりもたらされる「協調的行為」が含まれる。
 資料出所:高等行政法院裁判所 表作成:張国仁

II 判決内容の要約

台北高等行政裁判所判決
【裁判番号】100年度訴字第506号/100年度訴字568号/100年度訴字824号
【裁判期日】2012年6月27日 
【裁判事由】公正取引法

原告 正隆股份有限公司(Cheng Loong Corp.)
原告 栄成紙業股份有限公司(Long Chen Paper Co.,Ltd.)
原告 永豊餘工業用紙股份有限公司(YFY Packaging Inc.)
被告 公平交易委員会

上記当事者間における公平取引事件について、原告の正隆股份有限公司、栄成紙業股份有限公司、永豊餘工業用紙股份有限公司はそれぞれ行政院中華民国100年(2011年)1月28日院台訴字第1000091053号、100年1月28日院台訴字第1000091242号及び100年3月17日院台訴字第1000094126号の訴願決定を不服とし、それぞれ行政訴訟を提起した。本裁判所は以下のように併せて判決を下すものである。

主文
原処分及び訴願決定をいずれも取り消す。
訴訟費用は被告が負担する。

一 事実要約
国内の工業用紙産業は川上、川中、川下に区分され、川上の「一級紙廠(一級製紙業者)」は工業用紙の原紙(中芯紙、テッシュペーパー)を、川中の「二級紙廠(二級製紙業者)」は板紙(段ボール板)を、川下の「三級紙廠(三級製紙業者)」は各種紙器等をそれぞれ生産している。原告の正隆股份有限公司(以下、「正隆公司」)、栄成紙業股份有限公司(以下「栄成公司」)及び永豊餘工業用紙股份有限公司(以下「永豊餘公司」)は「一級紙廠」、「二級紙廠」の両事業に従事し、3社は2009年台湾の(一級)工業用紙原紙総生産量に占める比率がそれぞれ51.2%、28.2%、19.1%を占めている。被告(公平交易委員会)は台湾省紙器商業同業公会連合会(即ち「三級紙廠(つまり紙器メーカー)」の同業組合)から原告らが生産する原紙価格が一斉に値上げされ、「三級紙廠」は負担に耐えられないとの陳情を受け調査を行った。調査の結果、原告ら3社は2009年11月から2010年3月までの間(以下「係争期間」)に共同で原紙価格を引き上げ、原告の正隆公司と栄成公司はさらに垂直統合の優位性を利用して、2010年1月から3月までに二級のボール板紙価格を一斉に値上げし、国内工業用紙市場の需給機能に影響を及ぼし、公正取引法第14条第1項規定に違反していると認め、同法第41条前段規定に基づき、2010年5月5日に公処字第099054号処分書(以下「原処分」)を以って原告の正隆公司と原告の栄成公司、原告の永豊餘公司に対して直ち上記違法行為に関する排除措置命令を出すとともに、原告の正隆公司に過料500万新台湾ドル、原告の栄成公司に過料300万新台湾ドル、原告の永豊餘公司に過料200万新台湾ドルを科した。原告らはこれを不服として行政訴願をそれぞれ提起したが、いずれも棄却されたため、その後本件の行政訴訟を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:原処分の各原告に関連する部分及び訴願決定を取り消すべきである。
(二)被告の請求:原告の請求を棄却すべきである。

三 本件の争点
原告等が公正取引法第14条第1項で禁止する共同行為を構成しているか否か。
(一)原告の起訴理由:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被告の抗弁理由:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)わが国の共同行為に関する規範は公正取引法第7条、第14条第1項に規定されている。前者は定義に関する規定、後者は共同行為の禁止条例であり、「原則禁止、例外許可」の規範形式を採用している。同法第7条第1項には「本法において『共同行為』とは、事業者が契約、協定又はその他の方法による合意を以って、競争関係にある他の事業者と共同して商品又は役務の対価を決定し、又は数量、技術、製品、設備、取引対象、取引地区等を制限し、相互に事業活動を拘束する行為をいう」、同条第3項には「第一項でいう『その他の方法による合意』とは、法律上の拘束力の有無を問わず、契約、協定以外の意思の連絡によって事実上共同行為の成立に至らしめるものをいう」と規定されている。原告3社が一級工業用紙原紙市場、及び原告の正隆公司、栄成公司於が二級板紙市場において共同行為を行ったとする原処分の論述は、学理上の「協調的行為(concerted action)」方式を採用している。

(二)いわゆる「協調的行為」とはつまり二又は二以上の事業者が、明確に認識し、意識して行った、共同目的を有する市場行為であり、他の事業者も互いに発展する行為方式に基づいて、互いに信頼強調関係を構築し、意思の連絡を行い、法律上の拘束力がない共通認識又は理解を達成することを期待できるものである。この種の共同行為自体は、具体的な契約又は協定がないため、被告が、いかに本件の一級工業用紙原紙市場を寡占した原告3社が連絡方法を通じて行為の外形的一致を達成したと認定したのか、又はいかに業者間の行為の外形的一致により共同行為の責任を論じたのかは、本件の最も重要な争点だといえる。もし業者間に共同行為の合意が存在しないならば、単純に自己利益のために競合者に対応する対策を以って行わざるを得ないものであり、一般的には「意識的並行行為」又は「価格追随行為」と呼ばれており、その行為は外形上一致する傾向にあっても正当な競争行為であり、直接共同行為を以って論じてはならない。このほかに、「協調的行為」モデルが具体的ケースに適用されるときは、公正取引法第7条第1項、第2項の規定を引証して、さらにその行為が「競争制限」の結果要件を構成するに足るものかを斟酌しなければならず、これは本件において第二の争点となる。

(三)証拠の評価、証明しようとする事実に必要な証明の程度(standard of proof)の高低及び立証責任の分配は前記争点の結論に影響を及ぼす重要な要素である。法行政下の行政合法、要件適合性に対する必要性に基づいて、行政罰の要件事実に係わる客観的立証責任は行政機関に帰す。行政訴訟法第189条第1項に規定される「事実真偽の判断」は必要な証明の程度を明確に規定していないが、行政訴訟の人権保障及び行政合法性に対する掌握は、原則的に裁判が認定する「事実」の真実性が高いほど達成が可能となることに鑑みて、行政訴訟が必要とする証明の程度は高度な蓋然性であるべきであり、つまりそれは「合理的な疑いを容れない」という蓋然性の程度を有する「確信」でもある。

(四)本件の原処分で指摘している共同行為は二つある。一つ目は原告である3社が一級工業用紙原紙市場において2009年11月から2010年3月までの間に一級工業用紙原紙価格を一斉に引き上げた行為、二つ目は原告の正隆公司、榮成公司が2010年1月から3月までの間に二級板紙市場において垂直統合の優位性を利用し、協調して国内市場向けの二級板紙価格を引き上げた行為である。

(五)原告の3社が一級工業用紙原紙市場において処分の係争期間(即ち2009年11月から2010年3月までの間)に共同行為を行ったか否かの判断
1.共同行為の合意に係る証明︰ファイルされている間接的証拠によると、間接的事実による証明を以って、推理の作用により原告間に共同行為の合意が存在したと導き出すには不十分であり、さらに上記の間接的事実から原告間に「合意」が存在し、原告らが一斉に価格を引き上げた客観的行為を唯一合理的に解釈することはできない。職権により調査して得られた証拠によると、原告らによる工業用紙の一斉値上げは共同行為の合意によってうまれたと「合理的な疑いを容れない」という蓋然性の程度を有する確信を得ることはできない。
2.共同行為が競争制限の効果をもたらしたか否かの証明︰共同行為の違法性は市場競争に対してもたらされる不当な制限、又は不当な制限の可能性を根源とする。公正取引法第7条第2項によって共同行為関連規定の管制範囲が規定され、事業者による同一の生産・販売の段階における水平統合が、生産、商品取引又は役務の需給に係わる市場機能に影響するものに限られている。つまり、共同行為は競争制限の効果がもたらされる必要があり、それによって初めて公正取引法第7条第1項で規範される行為となる。
3.以上をまとめると、寡占市場は事業者が「価格競争をしていない」ことがその特徴である。ゆえに公正取引法第5条第2項に寡占は「二以上の事業者は、実際価格競争をしておらず、その全体の対外関係が前項規定に該当する場合(競争がない状態にあり、又は圧倒的な地位を有して、競争を排除することのできる能力を有するとき)は、独占とみなす」ものと定義されている。寡占市場は価格において市場需給の変動により調整する状況があり、企業経営性は理性的な独自の判断に基づいて「価格競争をしていない」ことを意識し、他の事業者に追随して価格を調整する幅が並行である行為は、なお寡占市場において理性的な行為であり、公正取引法に違反するものではない。本件原告らが係争期間内に一斉に価格を引き上げた行為は、寡占市場における価格追随行為によるものである可能性を排除できず、当然ながら該行為が意思の連絡によるものであると「合理的な疑いを容れない」という蓋然性の程度を有する確信に足るものではなく、被告が指摘する原告らによる一級工業用紙原紙市場における共同行為は証明できない。

(六)原告の正隆公司、栄成公司が二級板紙市場において2010年1月から2010年3月までの間に共同行為を行ったか否かの判断:
1.前記の原告の正隆公司、栄成公司による二級板紙市場における共同行為に対する被告の論証も、明らかに「協調的行為」方式を採用しており、即ち原告の正隆公司、栄成公司による外形上一致する行為を以って、再び間接的証拠でそれらの外形的に一致する行為が共同行為の「合意」によるものだと推論し、さらに上記原告2社の市場シェア及び垂直統合という優位性を以ってこの共同行為は競争制限の効果をもたらしたと推断しており、全く根拠がないものである。調べたところ、以下の通りであった。
(1)共同行為「合意」の存否の認定︰被告が間接的証拠を列挙した論述は、それがいうところの一致が合意による「協調的行為」であるか、若しくは「価格追随行為」であるかを証明できない。
(2)共同行為が競争制限の効果をもたらしているか否かの認定︰原告である二級製紙業者と三級製紙業者との価格交渉は、見積書を以って価格交渉の基準としているが、注文量、支払い方法等の条件によって見積価格を割り引くシステムがあるという内容は、証人による法廷での証言がファイルに記録されている。したがって、見積価格と実収価格の割引条件に価格競争が存在し、前記原告2社の間に価格に関する共同約定があったか否かの論証は、価格競争の制限を約定していたか否かであり、原則的に原告2社の見積価格と実収価格との間の割引条件(少なくとも割引条件が同じであるか否かを説明するか、又は割引平均価格を明確にするかすべきである)を基礎として究明すべきであり、それによって初めて競争制限の有無を実質的に討論することができる。産業の実況により実収価格が調べられていないため、見積価格から推論することは不十分である。
2.したがって、原告の正隆公司、栄成公司が二級板紙市場において「協調的行為」の外形が有ったか否かは全く疑いがないわけではないが、たとえ原告の正隆公司、栄成公司が外形上一斉に値上げを行った行為があったとしても、それらの行為が意思の連絡によるものかは不明である。被告が指摘している前記の二級板紙市場における共同行為は証明できないと認めるべきである。

(七)以上をまとめると、本件はたとえ被告が指摘するように原告らに「外形上の協調的行為」(一斉に値上げ)が存在し、且つ該行為が市場機能に影響を及ぼした影響したと認めたとしても、原告の3社が一級工業用紙原紙市場において、原告の正隆公司、栄成公司が二級板紙市場において被告の指摘する競争制限手段に意思の連絡があったか否かについて、本裁判所が職権により調査したところ、確然たる心証を得ることはできなかった。実際のところ、現存の証拠から上記の外形上の協調的行為が意思の連絡によるものか、価格追随行為によるものかを判断することはできず、この訴訟において不利益である。前述の客観的立証責任の分配原則に基づいて、被告が立証を行うべきである。原処分が掌握する製紙産業及び原告の事業者の間接的証拠は、それが証明するところの事実が原告らに共同行為の合意があり、その外形上の行為の一致性が唯一合理的な解釈であるとの結論を導き出し、それに基づいて原告らの共同行為を認定し、すぐに行為に対する排除措置命令と過料の処分を行うには不十分である。事実認定と法の適用には誤りがあり、訴願決定は詳しく調べられておらず、性急に維持したことは法に合わない。原告らによる原処分及び各訴願決定の取消請求には根拠があるもので、許可すべきである。

2012年6月27日
台北高等行政裁判所第一法廷
裁判長 王立杰
裁判官 許麗華
裁判官 楊得君

五 関連条文

公正取引法
第7条
本法において「共同行為」とは、事業者が契約、協定又はその他の方法による合意を以って、競争関係にある他の事業者と共同して商品又は役務の対価を決定し、又は数量、技術、製品、設備、取引対象、取引地区等を制限し、相互に事業活動を拘束する行為をいう。
前項でいう共同行為は、事業者による同一の生産・販売の段階における水平統合が、生産、商品取引又は役務の需給に係わる市場機能に影響するものに限る。
第一項でいう「その他の方法による合意」とは、法律上の拘束力の有無を問わず、契約、協定以外の意思の連絡によって事実上共同行為の成立に至らしめるものをいう。
同業組合が、定款(会則)又は会員大会、理監事会の決議又は他の方法によって事業活動を拘束する行為も第二項の水平統合にあたる。

第14条
事業者は共同行為をしてはならない。ただし、次に掲げる場合の一に該当し、かつ経済全体と公共の利益に有益で、かつ申請を経て中央主務機関の許可を得た場合はこの限りではない。
一.コスト削減、品質改良又は効率向上のため、商品の規格又は型式を統一する場合。
二.技術のレベルアップ、品質改良、コスト削減又は効率向上のため、共同して商品の開発又は市場の開拓を行う場合。
三.事業者の経営合理化を促進するため、それぞれ専門分野において事業を展開させる場合。
四.輸出を確保、又は促進するため、専ら海外市場での競争において約定する場合。
五.貿易機能を強化するため、外国商品の輸入について共同行為をする場合。
六.不況において、商品の市場価格が平均生産コストより低くて、当該業種に従事する事業者が引き続き事業を維持するのが難しいため、又は生産が過剰になるため、計画的に需要に応じて生産・販売の数量、設備又は価格を制限する共同行為である場合。
七.中小企業の経営効率向上を促進するため、又はその競争力を強化するための共同行為である場合。
中央主務機関は、前項の申請を受理した日から3ヵ月以内に許可又は不許可の決定をしなければならず、必要に応じて一回延長することができる。
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