告訴人の指摘を証拠とする方法は、その指摘に瑕疵がなく、且つ調査のうえ事実に合致すると裏付ける証拠があって、始めて判決の根拠に資することができる。

2019-01-30 2018年

■ 判決分類:営業秘密

I 告訴人の指摘を証拠とする方法は、その指摘に瑕疵がなく、且つ調査のうえ事実に合致すると裏付ける証拠があって、始めて判決の根拠に資することができる。

■ ハイライト
被告人は、2006年から2011年にかけて告訴人である友達光電公司(AUO)での在職期間において、友達公司が国立交通大学に「反応性液晶モノマーの合成、微量物質の分析及び形態学的研究」を依頼したことを知っていて、被告人は離職後、中国の華星光電公司に転職した後、時の華星CEOであった賀成明と共同して「液晶活性モノマー及び液晶パネル」として中国で特許出願を行なった。友達公司は、被告人が出願した特許について、前記研究プロジェクトの成果に由来するものであると認め、営業秘密漏洩として告訴を提起した。その後、新竹地検が取り調べを行った後、職務上知りえた営業秘密の漏洩罪として起訴した。
裁判所で調査した結果、被告人が出願した特許には進歩性がないばかりか、告訴人が保管している関連ファイルをもっては、係争秘密の技術、製造工程が確かに告訴人の有しているものであると証明するに足りなかったので、係争秘密が告訴人の営業秘密であるとは言い難いと認定した。調査の結果によっても、職務上知りえた営業秘密漏洩の犯行に達する程度に該当しないほか、「疑わしきは、被告人の利益に」との証拠法則に基づき、無罪を言い渡さなければならない。

II 判決内容の要約

台湾新竹地方裁判所刑事判決
【裁判番号】105年度智易第3号
【裁判期日】2018年5月15日
【裁判事由】秘密漏洩

公訴人 台湾新竹地方裁判所検察署検察官
被告人 謝○○

上記被告人の秘密漏洩事件につき、検察官が公訴を提起したため(104年度偵字第1467号)、本裁判所は、次の通り判決する。

主文
謝○○は無罪とする。

一 事実要約
被告人は、2006年1月16日から2011年2月25日にかけて告訴人である友達光電股份有限公司(以下友達公司という)に勤め、最初はシニアエンジニアであったが、その後副理に昇進した。友達公司が2006年頃、200万台湾ドルで国立交通大学に「反応性液晶モノマーの合成、微量物質の分析及び形態学的研究」(以下本件研究プロジェクトという)を依頼し、その期間が2006年6月1日から2007年5月31日までであったため、被告人は、本件研究プロジェクトの成果を知っており、且つ本件研究プロジェクトを始めとするテスト、調整を行い、更に2006年から2010年頃、相次いで友達公司に報告書を提出したほか、友達公司の営業秘密管理システム(AUKMシステム)に合計30個のファイル(以下併せてファイルA、Bという。原判決で関連内容を図1から図15として作成した)をアップロードした。2011年2月26日に、被告人は、友達公司を離職した後の同年3月頃、中国の華星光電技術有限公司(以下華星公司という)に転職し、同年7月22日に、時の華星公司CEOであった賀成明と共同して「液晶活性モノマー及び液晶パネル」と名づけて、中国で特許出願を行なった(以下「被告人特許1」という)。2011年8月4日に再度、賀成明と共同して「配向膜のポリイミド表面に用いられる液晶活性モノマー及び液晶パネル」と名づけて、中国に特許出願を行なった(以下「被告人特許2」という)。
公訴人は、被告人が本件研究プロジェクトに由来する友達公司の営業秘密である「一般の液晶ディスプレーにおいてセルのサイズが3.8μmである場合、滴下パータンが生じて表示が不均一となる(drop mura)」(以下係争甲秘密という)、「液晶ディスプレーにおいて、分子量が322~500にある反応性モノマーを添加し、15Vの電圧を印加し、波長が300nm以上である紫外線UVを照射することにより、紫外線重合による硬化速度を向上することができる」というプロセス(以下係争乙秘密という)を華星公司に漏洩したため、被告人を刑法第317条の職務上知りえた営業秘密漏洩罪を犯したとして起訴した(計2罪)。
被告人は次の通り抗弁した。被告人は進学してから就職まで、長年にわたって液晶の開発、設計、合成業務に取り組んでおり、知識と経験の積み重ねによる被告人特許1、2は被告人自身の専門的な研究開発の成果及び他の文献を参考にして作り上げたものであり、告訴人のファイルA、Bをもとに書き直したものではない。ましてや告訴人が本件で主張した営業秘密には秘密性がなく、被告人による特許1、2の出願についても、その出願内容が業界に知られていたため、中国の主務機関に拒絶査定された。また、告訴人によるAUKMシステムは、日常業務のサブミット、報告システムであり、営業秘密管理システムではない。

二 本件の争点
係争甲乙秘密は告訴人の営業秘密に該当するのか?

三 判決理由の要約
(一)犯罪事実は、証拠によって認定しなければならない;被告人の犯罪を証明することができないとき、無罪の判決を言い渡さなければならないと刑事訴訟法第154条第2項、第301条第1項にそれぞれ明文で規定されている。告訴人による指摘は、被告人の刑事訴追を目的とするので、告訴人による指摘を証拠とする方法は、その指摘に瑕疵がないほか、調査のうえ事実に合致するとの裏づけがあって、はじめて判決の根拠に資することができる(最高裁判所による52年台上字第1300号、61年台上字第3099号判例参照)。また、瑕疵なしとは、被害者が行った、被告人への不利な陳述が、社会の一般の生活経験又はファイルにある他の客観的な事実と矛盾のないことをいう。また、調査のうえ、事実に合致するとは、他の裏づけを引用して被害結果を証明するに足りるだけにとどまらず、更に他の積極的な裏づけを総合して、被告人が加害者であると確実に認定できなければならないほか、別途合理的な理由を推定できる仮説がないことを必要とする。そのいずれにも該当しない場合、被害者の陳述を証拠とすることはできない。

(二)公訴人から、被告人による特許1、2が、告訴人の営業秘密を漏洩したと指摘があったので、まず被告人特許1、2の技術を分析する必要がある。
1. 被告人の特許1「液晶活性モノマー及び液晶パネル」の技術的分析
被告人の特許1には、液晶活性モノマーが開示されており、前記液晶活性モノマーには、フッ素(F-)基が導入され、式IIの分子式又はより具体的な式IIIの分子式を有する。疎フッ素(fluorophobic)効果により、配向膜のポリイミドと液晶活性モノマーとの間の相互作用力を低減することができ、液晶組成物は、ポケットのギャップが3.8μmより小さくても、なお配向膜のポリイミドの表面に均一に拡散して分布することができる。
2. 被告人の特許2「配向膜のポリイミド表面に用いられる液晶活性モノマー及び液晶パネル」の技術的分析
被告人の特許2には、配向膜に用いられるポリイミドの表面の液晶活性モノマー及び液晶パネルが開示されており、前記液晶活性モノマーは、分子量が322~500であり、ポリイミドの表面と重合して硬化するための紫外線の波長が300nm以上である。前記液晶活性モノマーは、液晶組成物とポリイミドとの間の相互作用力を低減することで、ポケットのギャップが3.8μmより小さい場合、滴下式注入時に液晶組成物に滴下パータンが生じて表示が不均一となる(drop mura)現象を改善できる。それとともに、紫外線重合による硬化速度が向上されるため、省エネルギーの目的も達成できる。
3. しかし、前記の被告人特許1については、期限を超えて、審査意見書に対する返答をしなかったため、取り下げと見なされ、被告人特許2については、棄却により効力を失ったことをまず説明しなければならない。また被告人の特許1について、中華人民共和国の国家知識産権局による2014年1月3日付の三回目の審査意見通知書によれば、被告人の特許1に開示された技術方法は、この分野における技術者にとって、容易に見られる技術であるとの見解であった。

(三)告訴人は係争甲秘密が告訴人の営業秘密であると主張した。しかし、調べた結果、告訴人が図4から図6を整理し、主張した内容において、セルのサイズが3.8μmである場合、「特定」の液晶分子の表現を説明しているだけで、それは「一般」の液晶分子の表現に帰納することができない。それ故、告訴人が主張した係争甲秘密は、前記関連ファイルに支持されず、告訴人の営業秘密とは言い難い。

(四)告訴人は係争乙秘密が告訴人の営業秘密であると主張した。しかし、調べた結果、次のことが分かった。
1. 告訴人は、組み合わせた三つの技術内容をもって、その主張を支持しようとした。しかし、図7から図9の内容から見れば、その選択した液晶分子の分子量が322より小さくて、分子量が322~500にある反応性モノマーを意図的に選択したことを確認できないので、選択した液晶分子の分子量が500を上限とすることも当然確認できない。また、一部の液晶分子を硬化させているときの電圧が24Vであり、15Vではないので、15Vの電圧を意図的に選択して硬化させていることも確認できない。図10には、4種類の液晶分子しか記載されておらず、紫外線のスペクトルの波長が310nm~330nmの範囲において、特徴的な吸収ピークを有し、意図的に波長300nm以上の紫外線を選択して硬化させていることを確認できない。更に、その記載されている4種類の液晶分子の分子量はそれぞれ482.17、540.21、436.45及び450.38であり、意図的に分子量が322~500にある液晶分子を選択したことが確認できないので、選択した液晶分子の分子量が322を下限とすることも当然確認できない。図12から図15の内容から、意図的に分子量が322~500にある液晶分子を選択したことを確認できないほか、意図的に波長300nm以上の紫外線を選択して硬化させていることを確認できない。
2. 告訴人は更に次の通り主張した。被告人特許2に少なくとも反応性モノマーの分子量340、346が開示され、それが告訴人の反応性モノマーの分子量とまったく同一であり、更に少なくともその中の「分子量346の反応性モノマーに、15Vの電圧を印加し、波長が300nm以上である紫外線UVを照射することにより、紫外線重合による硬化速度を向上することができる」との告訴人の営業秘密云々も開示されていた。しかし、前述の通り、告訴人は、何故液晶分子量の下限を意図的に322にし、500の分子量を上限にしたのか?もし、322~500以外の分子量を選択した場合、どのような不利な実験結果が出るのか?また、何故意図的に波長300nm以上の紫外線UVを選択して照射するのか。もし波長300nm以下の紫外線UVを選択して照射した場合、どのような不利な実験結果が出るのかを証明できる証拠を提出しなかった。よって、告訴人が主張した係争乙秘密には根拠がなく、三つの技術内容を組み合わせたに過ぎないので、実は採用する余地がない。
3. また、告訴人が提出した、財団法人台湾経済科技発展研究院智慧科学研究所による営業秘密侵害鑑定研究報告書について、この鑑定研究報告書の証拠能力がすでに被告人に否認されたことはさておいて(告訴人が自ら委託したものであり、審判長、受命裁判官、検察官が嘱託した鑑定人又は機関、団体により作成されたものではなく、被告人以外の者による裁判外の書面陳述に該当するので、証拠能力がない)、前記報告書によっても、意図的に波長300nm以上の紫外線を選択して硬化させていることを確認できない。また4種類の液晶分子分子量はそれぞれ482.17、540.21、436.45、450.38であり、意図的に分子量が322~500にある液晶分子を選択した事実も確認できない。よって、この報告書の結論は採用に足りぬものである。
4. また、被告人が、本裁判所の準備手続きにおいて提出した被証6を参考にすれば、これは、告訴人の数名の従業員による公開論文であり、被証6の表2において15Vの電圧を使用して、液晶分子を硬化させたと明確に記載されている。告訴人は台湾の特許(I330763、2007年12月)において波長が300 nm ~400 nmの紫外線を使用して露光すると明確に記載している。前記から分かるように、告訴人が指摘したような、波長が300nm以上の紫外線を照射し、且つ15Vの電圧を印加することはともに、告訴人がすでに公開した二つの液晶プロセスパラメータであり、秘密性を有するとは言い難い。また、告訴人は分子量が322~500にある反応性モノマーを選択し、且つ前記二つのプロセスパラメータを使用することにより、紫外線重合による硬化速度を向上させることができるとした主張が、ファイルA、Bに支持されないので、本裁判所は前記の通り判断した。よって、係争乙秘密は告訴人の営業秘密とは言い難い。

(五)本件には、被告人が告訴人を離職したとき、本件研究プロジェクト、ファイルA、Bの書面又は電子ファイルを持ち出して、華星公司に転職したと証明できる証拠がない。被告人特許2の前記リスト「硬化時間」欄に示されているデータである「1/4変更」、「1/7変更」がファイルA、Bにないので、特許2について、華星公司に勤めた後、自ら実験した結果であるとの被告人の抗弁は、まったく根拠がないものではない。
 
前記を総合し、本裁判所は審理した結果、検察官の提出した証拠をもっては、被告人が公訴主旨において指摘されたような、職務上知りえた営業秘密漏洩の犯行に達する程度に該当すると本裁判所に確信させるに足りず、被告人も法により無罪の自己証明義務を負わないほか、「疑わしきは、被告人の利益に」との証拠法則により、被告人に有利な認定を下すべきである。よって、被告人の犯罪が証明できなければ、無罪の判決を下さなければならない。

以上を総じて、刑事訴訟法第301条第1項により、主文の通り判決しなければならない。

本件は、検察官賴佳琪により公訴され、検察官侯少卿が出廷して職務を遂行した。

2018年5月15日
刑事第一法廷  裁判官  陳麗芬

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