イラストレーターが金酒を著作権侵害で提訴するも敗訴確定

2016-11-28 2015年
■ 判決分類:著作権

I イラストレーターが金酒を著作権侵害で提訴するも敗訴確定

II 判決内容の要約

最高裁判所刑事判決
【裁判番号】104年度台上字第3390号
【裁判日期】2015年11月11日
【裁判事由】著作権法違反

上告人   張哲銘
被告人  金門酒廠実業股份有限公司(Kinmen Kaoliang Liquor Inc.)
被告人  欧陽○梅
        李○正
        張○原

上記上告人が被告人等を著作権法違反で私人訴追する事件は、上告人が2015年7月29日第2審判決(103年度刑智上訴字第62号、私人訴追事件番号:台湾台北地方裁判所99年度自字124号、101年度自字第21号)を不服として上告したもので、本裁判所は次のとおり判決する。

主文
上告を却下する。

一 事実要約
被告人欧陽○梅は当時、金門酒廠実業有限公司(以下「金酒公司」という)研発組包裝設計股股長(訳注:研究開発チーム包装デザイン係係長に相当)を担当し、被告人李○正は金門県政府から派遣されて金酒公司の董事長(訳注:代表取締役会長に相当)、被告人張○原は金酒公司の技術副総経理(訳注:技術担当副社長に相当)であった。金門県政府が斑馬文創有限公司(Zebra Art Co., Ltd.)を通じて私人訴追人に絵本「浯島四月十二日迎城隍」(以下「係争絵本」という)の製作を委託し、斑馬文創有限公司が私人訴追人と契約を結び、その中で私人訴追人は係争絵本の著作者であり、かつ金門県政府文化局は私人自訴人の著作人格権を侵害しない状況において該叢書に関する5年間の版権を有し、出版及びその他の関連活動での使用権を含むと約定した。その後金門県政府は浯島迎城隍記念酒の発売を決定し、陶器工場である金門県陶瓷廠(以下「金門陶瓷廠」という)に記念酒ボトルの製造を指示し、金酒公司がボトル本体の図案デザイン及び発売、販売等事項を担当した。金門陶瓷廠は金酒公司に代わって訴外人翁○鈞に記念酒のボトル及び包装箱のデザインを外注し、係争絵本を参考に供した。翁○鈞は係争絵本の一部の図案を複製、改作(訳注:中国語の「改作」には翻訳と翻案が含まれる)して、記念酒のボトル及び包装箱の図案とし、かつ私人訴追人の氏名をデザイン図の案内に標示しなかった。私人訴追人は被告人欧陽○梅が係争デザイン図案部分に利用許諾証明が添付されていないのを知りながら、確認せずに直接利用に同意しており、被告人張○原は関連の稟議を許可し、被告人李○正は被告人金酒公司を代表して金門陶瓷廠と係争記念酒ボトルの調達契約書を結び、3人は共同で他人の著作財産権を侵害し、被告人金酒公司は被用者及び代表者が業務の遂行により前述の罪を犯したため、法により罰金刑を科すべきであるとして、私人訴追を提起した。
原審裁判所は以下のように認定した。本件は欧陽○梅、李○正、張○原には私人訴追人の著作権を故意に侵害した行為があったとは認めがたく、著作権法違反を以って刑事責任を問うことはしない。また欧陽○梅、李○正、張○原に私人訴追人が指摘する著作権法違反の犯行を証明することはできず、即ち著作法第101条の規定により金門公司に罰金刑を科すことはしない。よって無罪を告知すべきである。私人訴追人は原判決を不服として上告を提起した。
(訳注:日本の刑事訴訟法にはわが国の私人訴追制度が存在しない。わが国の私人訴追制度は、被害者が弁護士に委任すれば、直接裁判所に提訴でき、検察官による取調べと起訴を経る必要がない。ただし、私人訴追には法に定められた制限が設けられており、例えば、告訴や請求を親告する罪に対して告訴又は請求をすでにしてはならないとき、私人訴追することはできなかったり、検察官がすでに取調べを開始している案件も原則的に私人訴追してはならなかったりする。)

二 両方当事者の請求内容
私人訴追人の上告趣旨:
被告人欧陽○梅、李○正、張○原は共同で著作権法第91条第1項、第2項、第91条の1第1項、第2項、第93条第1号の罪を犯し、被告人金酒公司は被用者即ち被告人欧陽○梅、張○原及び代表者即ち被告人李○正が業務の遂行により前述の罪を犯したため、同法第101条第1項の規定により同法第91条第2項に定める罰金刑を科すべきである。原判決には判決理由の矛盾、判決理由及び証拠採用における経験則及び証拠資料に関する倫理法則の違反、審判における証拠の未調査、及び判決の理由不備などの誤りがある。

三 本件の争点
被告人欧陽○梅、李○正、張○原には著作権侵害の故意があったか否か。

四 判決理由の要約
1. 欧陽○梅は記念酒ボトル及び包装箱の図案デザインの委託に関する詳細事項に参加したことがなく、かつ翁○鈞は該著作権利用許諾の合法性に疑いを抱いたことがなく、金酒公司の担当者である欧陽○梅はその後翁○鈞が記念酒のボトル及び包裝箱の図案デザインが完成した際に、私人訴追人の著作権を侵害する可能性を疑う理由はなかった。
2. 金門県政府文化局と金酒公司が係争絵本著作物の画像ファイルに関する利用許諾問題について前後して公文書を取り交わしているが、いずれも営業組と総務室が署名しており、研発組は2010年6月14日になって始めて確認の署名をしている。金門陶瓷廠が調達契約に基づいて係争記念酒ボトルの図案を印刷したボトルを5月17日に納品する前に、欧陽○梅が記念酒ボトル及び包装箱の図案デザインには係争絵本著作物を侵害している状況を知っていたという証拠はなく、その著作権侵害が故意であったとは言えない。
3. 記念酒ボトル及び包装箱の図案は、係争絵本著作物を複製した違法複製品であり、違法複製品の頒布は第91条の1第1項規定により処罰しなければならない。しかしながら欧陽○梅は係争記念酒のボトル及び包装箱に係争絵本著作物の著作権を侵害しているという争議があるとは知らず、主観的に私人訴追人の著作財産権又は著作人格権を侵害する故意はなく、著作権法第91条の1第1項の罪に該当しない。
4. 記念酒ボトル及び包装箱の発注書及び関連の公文書にはいずれも李○正の指示がなかった。張○原が許可/指示した発注書や李○正が署名した最低入札価格表にはいずれも金酒公司が調達したいボトル、紙箱及びラベルの数量、寸法、容量等の規格又は許可決定された最低入札価格の金額のみが羅列され、ボトル、紙箱の図案又は当該図案の著作権に関する事項については何ら記載も標示もない。李○正又は張○原はこれらの書類のみから記念酒ボトル及び包装箱の図案デザインに関する係争絵本著作物の著作権侵害の有無を知りえない。李○正、張○原には主観的に私人訴追人の著作権を侵害する故意がなかったことを証明できる。
5. 以上をまとめると、私人訴追人が提出した証拠資料は、金酒公司が発売した記念酒が私人訴追人の同意又は利用許諾を受けておらず、係争絵本著作物が記念酒之ボトル及び包装箱の図案に複製された等の状況のみを証明できる。しかしながら欧陽○梅、李○正、張○原等の前記犯行について主観的犯意が成立できるか否かについては、欧陽○梅、李○正、張○原がいずれも金門県政府文化局と斑馬公司若しくは斑馬公司と私人訴追人との間における係争絵本著作物に関する協議内容、又は翁○鈞が係争絵本著作物をデザインの要素として完成した係争記念酒のボトル及び包装箱の図案が係争絵本著作物を侵害している状況、販売を意図して、金門陶瓷廠が該図案をプリントした記念酒之ボトル及び包裝箱を渡した状況を知っていたとは証明できない。本件はなお欧陽○梅、李○正、張○原に私人訴追人の著作権を故意に侵害した行為があったとは認めがたく、著作権法違反を以って刑事責任を問うことはしない。また欧陽○梅、李○正、張○原に私人訴追人が指摘していた著作権法違反の犯行を証明できないため、金酒公司を同法第101条規定により罰金刑を科すことはできない。よって無罪を告知すべきである。
6. 本件私人訴追人は欧陽○梅、李○正、張○原が販売を意図して、無断で複製する方法を以って他人の著作財産権を侵害したことを証明できる積極的証拠を提出せずにその証拠方法と証明が待たれる事実の関係を説明しており、原判決がファイルされた証拠資料に対して再び逐一分析し、対比したうえでに斟酌したが、なお被告人等が有罪であるという心証を得ることができず、無罪を告知したことは、法において誤りがない。私人訴追人は上告の趣旨において、事実審裁判所の証拠取捨及び証拠証明力判断による職権行使及び判決要旨に影響しない瑣末な事項について任意に指摘し、原判決ですでに説明されている事項について再び単純に事実上の論争をしており、法定の第三審上告要件を満たしているとはいい難い。欧陽○梅が著作権法第91条第2項の販売を意図して無断で複製する方法を以って他人の著作財産権を侵害したとする私人訴追人による上告部分については法律に違反している手続きであるため、却下するものである。

本件私人訴追人は上告趣旨で、李○正、張○原が著作権法第91条第2項の著作権侵害を犯したとする私人訴追人の訴えに第一審が無罪判決を下した部分を原判決が維持したことについて、原判決に法令適用の憲法違反、又は司法院解釈に対する違背、又は判例に対する違背などの事由が有ったことをその上告理由とはしておらず、上記第三審の上告の法定要件を満たしているとはいい難い。この部分の上告は法令に違反しているので、却下すべきである。

欧陽○梅、李○正、張○原が著作権法第91条第1項、第91条の1第1項、第2項、第93条第1号の罪を共同で犯していること、及び金酒公司がその被用者即ち欧陽○梅、張○原及び代表者即ち李○正が業務を遂行する上で前述の各罪を犯していることから同法第第101条第1項の規定により、該条の罰金を科すべきだと上告人が私人訴追する罰金部分については、刑事訴訟法第376条第1号の案件に該当し(上告趣旨五に指摘された部分を含む)、すでに第二審の判決が下されているため、第三審裁判所に上告することはできない。私人訴追人のこの部分の上告は明らかに法によって許されないため、併せて却下すべきである。

2015年11月11日
最高裁判所刑事第一法廷
裁判長 花満堂
裁判官 韓金秀
裁判官 洪昌宏
裁判官 呉燦
裁判官 蔡国在
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