他人が撮った愛犬の出展写真を取り込み、無断で自分のブログにアップするのは違法

2014-11-28 2013年

■ 判決分類:著作権

I 他人が撮った愛犬の出展写真を取り込み、無断で自分のブログにアップするのは違法

■ ハイライト
蔡○○という男性が2010年に自分が所有するチベット犬の「夯」を新竹孔廟の第1回チベット犬単独展に参加させた時、戴○○という女性カメラマンが犬の写真を撮影して自らのブログに掲載した。その後、蔡○○は同意を得ずに写真を取り込み、写真の枠とその右下に標示されている「photo by Lorelei」という文字を削除して、自分のブログ「悍威藏獒會館」の背景図として使用したため告訴された。
第一審の桃園地方裁判所は拘留30日に処すとの略式判決を下した。同裁判所の第二審合議法廷は、蔡○○が戴○○の写真を利用した質・量が(著作物の全体に)占める割合は100%に近いものの、個人の犬飼育経験のシェア、気分転換、愛犬の写真展示などは合理的な使用の規定に適合すると認定し、無罪の逆転判定を下した。
知的財産裁判所の合議法廷は、蔡○○の行為は戴○○の著作財産権を侵害するものであるが、蔡○○が「夯」の買主であり、ブログへの写真転載は営利目的ではなく、さらに法廷で「TMCT台灣藏獒倶楽部」のフェイスブックに謝罪のメッセージを投稿し、戴○○とも和解に達していることを参酌して、執行猶予を付した。(自由時報2013年10月31日)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所刑事判決
【裁判番号】102年度刑智上易字第60号
【裁判期日】2013年10月18日
【裁判事由】著作権法違反

上訴人 台湾桃園地方裁判所検察署検察官
被告 蔡○○

上記上訴人は被告の著作法違反事件について、台湾桃園地方法院2013年年7月12日102年度智簡上字第2号判決(略式判決申立簡易判決案件番号:台湾桃園地方裁判所検察署101年度偵字第23200号)を不服とし上訴を提起した。本裁判所は以下の通り判決する。

主文
原判決を取り消す。
蔡○○は著作権法第92条の著作財産権侵害の罪を犯したため、3,000新台湾ドルの罰金を科す。労役へ転換するときは、1,000新台湾ドルを一日で換算する。2年の執行猶予を付す。

一 事実要約
蔡○○は2010年4月25日にそれが飼育するチベット犬(犬名:夯)を同伴して新竹孔廟の第1回チベット犬単独展に参加した。戴○○(告訴人)は正午12時51分に当該犬の写真(以下「係争写真」)を撮影し、「撮影の著作物」の著作財産権を享有している。さらに同年月27日4時55分にヤフーブログ「喜樂蒂與蘇俄狼犬的群聚生活」に「寵物攝影~99.04.25(新竹孔廟~第一屆獒犬單獨展)~藏敖的眼神(ペット撮影~2010.04.25(新竹孔廟~第1回チベット犬単独展)~チベット犬の眼差し)」と題する文章を掲載し、文章内に係争写真を配置した。蔡○○は同年月27日から同年5月17日の間の某時に、そのコンピュータとネットワーク設備を用いてインターネットに接続して、戴○○の上記ブログの文章を閲覧し、係争写真が戴○○が著作財産権を有する撮影の著作物であると明らかに知りながら、無断で複製及び公開伝送を行い撮影の著作物の著作財産権を侵害するという故意に基づき、戴○○の同意を得ずに係争写真を複製し、さらに写真の枠とその右下に標示されている「photo by Lorelei」という文字を削除した後、ヤフーブログ「悍威藏獒會館」へアップロードの公開伝送を行い、「並べて表示」の形式で背景図とした。

二 本件の争点
(一)告訴人が撮影した係争写真は著作権を享有するのか否か。
(二)被告の行為は著作権法第65条第2項の合理的使用を構成するか否か。

三 判決理由の要約
(一)告訴人は係争写真について著作権を享有する。
2010年4月25日に開催された新竹孔廟の第1回チベット犬単独展はチベット犬の品評会であり、現場では多くの者がビデオカメラやスチールカメラを所持し、チベット犬が出場すると撮影していた。これは被告が自ら陳述するものであり、被告は「夯」の所有者としてその場にいた者に会場で自由に撮影を行うことに同意しており、告訴人はこれにより係争写真を撮影した。係争写真の主役であるチベット犬「夯」をみると、その顎をやや持ち上げ、目は遠くを凝視し、写真の中心から約15度偏角があり、「夯」の頭部が写真全体の面積の約80%を占め、顔は写真中央に位置している。それは「夯」の頭部を特写撮影したもので、その全体的な視覚的印象は「夯」が物思いにふけっている様子と厳しい表情を呈しており、その創作性は高く、撮影者即ち告訴人の感情と思想を表している。このため、告訴人は撮影を完成した時点で係争写真について撮影の著作物の著作権を享有しており、著作権法には別段の規定(例えば第44条~第63条、第65条第2項の合理的使用等)以外に、複製、公開伝送の権利の専有(同法第10条本文、第22条第1項、第26条之1第1項を参照)の規定があり、被告が係争写真を複製、公開伝送の形式で利用したければ、告訴人の同意又は利用許諾を受けて初めて利用できる。
(二)被告の行為は著作権法第65条第2項の合理的使用に該当しない。
1.著作法第65条第1項には「著作物の合理的使用は著作財産権の侵害を構成しない」、また第91条第4項には「著作物は個人的に参考にし、又は合理的に使用したときは、著作権侵害を構成しない」とそれぞれ規定されている。
2.次に、同法第65条第2項には「著作物の利用が第44条から第63条に所定の合理的範囲又はその他合理的な使用の情況に該当するかどうかは、一切の状況を斟酌し、特に判断の基準として次に掲げる事項に留意しなければならない。1.利用の目的及び性質。商業的な目的若しくは非営利的な教育目的を含む。2.著作物の性質。3.利用される質・量及びそれが著作物の全体に占める割合。4.利用の結果として著作物の潜在的市場と現在の価値に対する影響。」と規定されている。本条規定は独立した合理的使用の概括的条項であり、裁判所は単独で本条第2項の判断基準を斟酌して合理的使用を構成するかを認定することができ、4項目の判断基準は明確に例示されている。さらに本条第2項で例示されるものではない判断基準を考慮してもよい。また合理的使用に関する判断はすでに商業的使用と非営利的使用の二分法に偏重するものではなく、その核心的な概念は他人の著作物を利用する行為が社会の公共的利益の調和や国家の文化発展に役立つか否かにあり、これで判断すべきである。このため、同法第65条第2項でいう「一切の状況」は例示された4項目の判断基準が例示する事実以外に、例えば利用者は悪意か善意か、行為の妥当性があるか、著作物利用者が自身の著作物と利用された著作物との強力な関連性を利用してその著作物を販売するもので、自身の著作物が具える想像力やオリジナリティが重点ではないかどうか、公共的利益又は人民の知る権利であるか、社会の福利、公共の領域、著作権の本質的目的はどうか等を指す。
3.調べたところ、被告には、係争写真を複製及び公開伝送して、ブログ「悍威藏獒會館」の背景図とし、係争写真である撮影の著作権を利用した行為があった。以前裁判所は著作物の利用が合理的使用の状況にあるか否かを判断するため、多くは著作権法第65条第2項第1号乃至第4号に例示される4項目の判断基準に基づいて順に論述していた。ただし合理的使用の判断は著作物の利用の一切の状況を斟酌すべきであり、ここでは本件の具体的な状況を以下の通り斟酌する。
(1)著作物の性質:
告訴人は係争写真のオリジナル画像ファイルに枠を加え、さらに右下に「photo by Lorelei」(Loreleiによる撮影の意)と標示してアップロードした。公衆は2010年4月27日からブログ「喜樂蒂與蘇俄狼犬的群聚生活」において係争写真を無料で閲覧、鑑賞することができ、これはすでに公開された著作物に属する。告訴人は主にこの公衆が無料で閲覧できる非営利ブログにおいて、該チベット犬単独展に参加し撮影して気に入った写真を人々と分かち合おうとしたものであり、個人の芸術表現の分かち合いに属する。
(2)利用される質・量及びそれが著作物の全体に占める割合:
被告は係争写真から枠と右下にある「photo by Lorelei」という文字を削除し、さらに「並べて表示」の形式でブログ「悍威藏獒會館」の背景図とした。多数の係争写真が該ブログのページを埋め尽くし、閲覧者は近距離で「夯」の眼差しの気勢を感じ取ることができ、被告が係争写真を利用した質・量が(著作物の全体に)占める割合はほぼ100%に近い。
(3)利用の目的及び性質:
①被告が係争写真を利用した目的は、自身が飼育する愛犬の美しい写真で自ら運営する非営利ブログの背景図とし、そのブログのタイトル「悍威藏獒會館」と主役であるチベット犬が互いに呼応しようとしたもので、商業目的又は営利目的に基づくものではない。
②前述した通り、告訴人がブログ「喜樂蒂與蘇俄狼犬的群聚生活」に貼りつけた係争写真は、その右下に「photo by Lorelei」という文字が標示されており、即ち閲覧者に撮影者はLoreleiであることを知らしめる意図があり、告訴人は他人が直接に係争写真を利用することを明確に又は暗に許可とは認めがたい。しかしながら、被告は直接に係争写真から上記文字を削除した後、「並べて表示」してブログの背景図としており、その係争写真の利用方法は単純に係争写真を複製して、並べて表示したにすぎず、新しいアイデアや異なる特性の注入はないため、変容や価値の追加があったとは認め難く、被告が単純に係争写真を利用したもので、変容的使用又は生産的使用には属さない。
③被告は、チベット犬を飼育している者はブログでチベット犬に関する文章を探し、経験や分かち合い(シェア)を吸収しようとするため、教育の目的がある云々と主張している。しかしながらネット著作権の世界において、具体的な個別の状況に応じて著作物の合理的使用を判断しなければならない。さもなければ、いかなる者もすべてブログ、フェイスブック、YouTube、ソーシャルネットワーク、インターネット等で自由に閲覧、意見交換、経験の分かち合いという名目で他人の著作物を恣意的にダウンロード、アップロード、伝送してもその責任を免れることになり、これは著作権法の趣旨ではない。係争写真を利用して背景図とすることは、もとよりブログのページの美術レイアウトデザインに属するが、閲覧者にとって係争写真を背景図とするかどうかは実質的な差異がなく、被告が係争写真を背景図とする行為に教育目的があるとは認め難く、ブログ「悍威藏獒會館」そのものの教育的性質を一緒に論じるべきではない。
④告訴人は「藏敖的眼神(チベット犬の眼差し)」と題する文章を係争写真とともにブログ「喜樂蒂與蘇俄狼犬的群聚生活」に掲載し、無料で閲覧、鑑賞に供しているが、利用許諾を得る場合、又は合理的使用の状況がある場合を除いて、被告は直接、告訴人がブログで文章と係争写真を無料で提供していることを以って、即ち被告が自ら係争写真を複製して自らのブログの背景図としてもよいとは主張できない。
(4)利用の結果として著作物の潜在的市場と現在の価値に対する影響:
告訴人はペット美容(トリミング)及びそれに関する教育を業とし、ブログ「喜樂蒂與蘇俄狼犬的群聚生活」を開設して犬の飼育に関する知識を紹介したり、そのノウハウや経験をシェアしたり、犬の里親探しに協力したりしている。ブログの情報を閲覧してペット美容やその教育に関する仕事を委託する者はいるが、非営利であり、広告も掲載していない。被告は建築業に従事し、ペット美容やその教育には従事していない。ブログ「悍威藏獒會館」も広告掲載や商品販売の営利行為はみられず、被告が係争写真を自らのブログの背景図としたのは、ブログの閲覧者に飼育する愛犬の風采を観賞させるためであり、これにより告訴人が現在行っているペット美容や教育の業務に取って代わるとは認め難い。よって被告が係争写真を使用した後、告訴人の係争写真が有する潜在的市場や現在の価値に対する影響があったとは認め難い。
(5)利用の結果として人類の知識文化資産に対する全体的な影響:
係争写真はすでに公開された著作物であるが、その創作性は極めて高いことを参酌し、ブログが告訴人及び係争写真にもたらす利益は、係争写真が(公衆に)接触する機会が拡大し、公衆の告訴人に対する知名度の認知を高めることである。さらに告訴人はブログ「喜樂蒂與蘇俄狼犬的群聚生活」に掲示板や電子メールを設けており、被告はこれを通じて告訴人に連絡し利用許諾を交渉することができたはずであり、被告が告訴人から利用許諾を取得する取引コストは低い。ところが被告は直接係争写真の右下にある「photo by Lorelei」の文字を削除した後、並べて表示してブログの背景図とした。一般大衆は係争写真が被告の撮影したものだと誤解する可能性があり、被告は商業目的や営利目的に基づくものではないが、いかなる変容性も生産性もなく、かつ告訴人の創作誘因を低減させる可能性があり、社会の公共的利益や国家の文化発展に対していかなる価値も貢献もないことから、著作権保護をより重視すべきである。
(6)以上をまとめると、被告には商業目的や営利目的がないが、単純に係争写真を利用し、変容的使用又は生産性使用には属さず、人類の知識文化資産に対する貢献度が低く、その他の重要な利益ももたらしておらず、告訴人の利益を犠牲にして無断で複製、公開伝送の行為を許したことには否定的な評価を与えるべきで、それにより著作者がより高い創作の誘因を有することを確保する必要がある。このため、被告の行為は合理的使用には該当せず、告訴人に対する著作財産権侵害の違法性を退けることができないため、著作権侵害を構成する。

以上の次第で、刑事訴訟法第369条第1項前段、第364条、第299条第1項前段,著作権法第91条第1項、第92条,刑法第11条、第55条、第42条第3項、第74条第1項第1号に基づき、主文の通り判決する。

2013年10月18日
知的財産裁判所第三法廷
裁判長 汪漢卿
裁判官 陳容正
裁判官 蔡惠如
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