「妹妹背著洋娃娃」歌い継がれて60年、知的財産権保護は遡及せず童謡光ディスク製作に無罪

2014-02-06 2012年

■ 判決分類:著作権

I 「妹妹背著洋娃娃…」歌い継がれて60年、知的財産権保護は遡及せず童謡光ディスク製作に無罪

■ ハイライト
 「娃娃国,娃娃兵,碧髮藍眼睛…(人形の国、人形の兵隊、金髪に青い目…」、「妹妹背著洋娃娃,走到花園來看花…(女の子が人形をおんぶして、花畑に花を見にやってきた…)」という「娃娃国」と「花園裡的洋娃娃」はすべての台湾人にとって聞きなれた童謡である。業者が2曲の歌曲でビデオ光ディスクを製作したため、2曲の著作権所有者から提訴された。業者は第一審で無罪の判決を受けたため、検察側は上訴したものの、法律は遡及しないとして、知的財産裁判所に請求を棄却された。
 「娃娃国」と「花園裡的洋娃娃」の2曲はそれぞれ1959年と1952年に誕生し、作詞はいずれも当時教師兼作家であった周伯陽、作曲はそれぞれ音楽家の陳栄盛、蘇春濤によって行われた。
 当時の台湾は日本による統治が終結して間もない頃で、周伯陽等は「日本の童謡は山ほどあるのに、台湾の童謡は全くない」と考え、習い覚えたばかりの国語(北京語)で台湾人のための童謡を創作し、これら2曲はすぐに人々の間に広まり、歌い継がれてきた。現在は誰もすらすら歌えるほどに普及している。
 2曲の著作権所有者である陳栄盛と蘇孟乾は、2009年、翠峰伝播公司が製作した童謡ビデオ光ディスクの中に改編された「娃娃国」と「花園裡的洋娃娃」が収録されているのを発見し、業者は許諾を受けずに光ディスクを製作、販売したとして提訴した。台北地方裁判所検察署は捜査した結果、業者が著作権に違反していると認めて起訴した。しかしながら、台北地方裁判所は2011年12月の第一審判決で無罪判決を下したため、検察側はこれを不服として、知的財産裁判所に上訴していた。
 かつて台湾では著作権の概念がなく、「娃娃国」と「花園裡的洋娃娃」は発表された後に著作権を登録していなかったため、著作権の保護を受けることができなかった。2002年にわが国が「世界貿易機関(WTO)」に加盟した後、2曲は「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定)」に基づいて保護を受け始めた。
 業者が製作したビデオ光ディスクは、編曲と音声部分が1980年代に録音されており、2003年に録音テープを光ディスクの形式に変換して記録し、さらに発行会社に転売した。
 知的財産裁判所によると、2002年にWTO協定が発効した後2年間は過渡的措置期間であり、その期間は著作権法を適用されない。著作権所有者は2009年に権利侵害を発見したが、業者の行為はすべて過渡的措置期間の期限前に行われており、違法ではないため、上訴人の請求が棄却された。(2012年5月3日/中国時報/A12面)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所刑事判決
【裁判番号】101年度刑智上訴字第8号
【裁判日期】2012年4月25日
【裁判事由】著作権法違反

上訴人  台湾台北地方裁判所検察署検察官
被上訴人 張孝銘
被上訴人 翠峰伝播有限公司

上記上訴人は被上訴人である翠峰伝播有限公司等の著作権法違反事件について、台湾台北地方裁判所100年度智訴字第23号,2011年12月30日第一審判決(起訴案件番号:台湾台北地方裁判所検察署99年度調偵字第833号)を不服として上訴を提起した。本裁判所は以下のように判決を下すものである。

主文
上訴を棄却する。

一 事実要約
被上訴人・張孝銘は被上訴人・翠峰伝播有限公司(以下「翠峰公司」)の元代表者である。「娃娃国」の「詞」、「曲」は陳栄盛がその著作財産権を享有する音楽著作物であり、「花園裡的洋娃娃」の「曲」は蘇孟乾がその著作財産権を享有する音楽著作物であり、それらの同意又は許諾を得ずに、無断で複製、頒布してはならないことを、張孝銘は明らかに知っていた。ところが張孝銘は陳栄盛、蘇孟乾の同意又は許諾を得ず、販売を目的として他人の著作を無断複製し著作財産権を侵害するという犯意に基づき、1996年「娃娃国」、「花園裡的洋娃娃」の歌曲2曲の「詞」、「曲」音楽著作物を利用し、翠峰公司にて不詳な方法を以て前記音楽著作物を複製し、翠峰公司の自作画像と組み合わせてオープンリールテープ形式でマザーテープを製作し、このように他人の著作財産権を侵害した。
その後2003年12月、張孝銘は前述の犯意を再び抱き、翠峰公司において以前から持っていたオープンリールテープ形式のマザーテープを不詳な方法でDVD形式の光ディスクに複製し、さらに張孝銘は該光ディスクが著作財産権を侵害する複製物であると知りながら、頒布の犯意に基づき、それぞれ(1)2003年12月、1万新台湾ドルの代価で、許諾を受けずに複製した「娃娃国」の「詞」、「曲」音楽著作物を含む光ディスクを黄盈霖に販売し、黄盈霖はさらに至亨公司に対してビデオ光ディスク「童謠歓唱屋」の発行を許諾し、(2)2003年12月、不詳な代価で許諾を受けずに複製した「娃娃国」の「詞」、「曲」音楽著作物を含む光ディスクを同心圓公司に販売し、同心圓公司はさらにビデオ光ディスク「英文童謠」を発行し、(3)2003年12月26日、張文夫の仲介により、1万新台湾ドルの代価で、許諾を受けずに複製した「娃娃国」、「花園裡的洋娃娃」の「詞」、「曲」音楽著作物を含む光ディスクを龍吟公司に販売し、龍吟公司は「唱童謠学英語」、「童謠教唱」、「來來來上學去」等のビデオ光ディスクを発行し、また龍吟公司は峻聲公司、億陽公司に「唱童謠学英語」、「童謠教唱」等のビデオ光ディスクの発行をそれぞれ許諾している。
その後陳栄盛、蘇孟乾は2009年前記音楽著作物を侵害するビデオ光ディスクを購入して初めて前記の状況を知った。本件の検察官は、被上訴人・張孝銘が著作権法第91条第2 項規定の「販売又は貸与を目的として、無断で複製することにより他人の著作財産権を侵害した者」に該当し、翠峰公司は法人の代表者が業務遂行により著作権法第91条第2 項の罪に抵触し、著作権法第101条の規定に基づき法人に対しても罰金刑を科すべきだと認めている。
被上訴人・張孝銘は本件発生当時、翠峰公司の代表者であり、翠峰公司は確かに「娃娃国」の「詞」、「曲」及び「花園裡的洋娃娃」の「曲」を複製した事実を認めているが、販売を目的として無断で複製することにより他人の著作財産権を侵害するという犯行については否認している。

二 双方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:
1.原審判決を取り消す。
2.被上訴人の張孝銘は著作権法第91条第2項に抵触している。翠峰公司は法人の代表者が業務遂行により著作権法第91条第2項に抵触しており、著作権法第101条規定に基づいて該法人に対しても罰金刑を科す。
(二)被上訴人の請求:上訴を棄却する。

三 本件の争点
1.「娃娃国」の「詞」、「曲」及び「花園裡的洋娃娃」の「曲」等音楽著作物の著作財産権はなおわが国(中華民国)の著作権法で保護されるものか否か?
2.被上訴人・張孝銘が「娃娃国」の「詞」、「曲」及び「花園裡的洋娃娃」の「曲」を複製した事実は著作権法第106条の2第1項の著作権侵害を構成しない条項を適用できるのか?
(一)上訴人の主張:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被上訴人の答弁:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)わが国(中華民国)の著作権法は幾度にもわたり改正されてきた。1985年7月10日の改正までは「登録主義(方式主義)」が採用され、つまり著作を完成した後に登録することにより初めて著作権法の保護を受けることができる。1985年7月10日改正施行後は「創作主義(無方式主義)」が採用され、つまり著作を完成すればすぐに著作権を所有することができる。ただし、1985年7月10日までの著作権法は「登録主義」を採用していた結果、1965年7月11日以前に完成、発行し、当時著作権登録を行わなかった著作は著作権を享有できず、「公有(パブリック・ドメイン)」となった。しかし、わが国が2002年1月1日世界貿易機構(WTO)に加盟した後、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定)」第70条第2項規定に基づき、ベルヌ条約第18条規定によりその他のWTO加盟国の著作物に対して著作者に生存期間中及び死後50年又は(公開発表後)50年の保護を与えなければならない。1998年1月21日に追加された著作権法第106条の1には「著作物が、世界貿易機関(WTO)協定が中華民国の管轄区域内において発効する日の前に完成されたもので、従来の本法の規定により著作権を取得しておらず、本法が定める著作財産権期間の計算によりなお存続中のものは、本章に別段の規定がある場合を除き、本法を適用する」と規定している。上記規定に基づき、わが国国民の保護を受けていなかった著作物に対しても遡及的保護が適用されるようになった。上記遡及的保護の要件は以下の通り。(1)該著作物が、わが国がWTOに加盟する前にわが国の過去の著作権法によって保護を受けたことがないもの、(2)著作権法が定める著作財産権期間の計算によりなお存続中のもの。この期間はWTO協定がわが国の管轄区域内において発効した日から起算し、著作権法第30条乃至第35条の規定に基づき著作者に生存期間中及び50年又は公開発表後50年で算出する。

(二)本件「娃娃国」の「詞」、「曲」及び「花園裡的洋娃娃」の「曲」等の音楽著作物を調べたところ、完成当時の著作権法規定に基づいて著作物の保護には登録が必要だが、上記音楽著作物は1985年7月10日以前に登録が出願されていない。さらに1986年6月16日改正公布施行前の著作権施行細則第4条には「著作物が登録されておらず、すでに20年以上にわたって流通しているものはすべて、本法に基づき登録出願を行い著作権を享有してはならない」と規定されている。上記音楽著作物1959年3月31日、1952年3月31日にそれぞれ発行されており、上記音楽著作物はWTO協定がわが国の管轄区域内において発効した日(即ち2002年1月1日)の前に「公有」となっており、著作権法の保護を受けることができなかった。その後、著作権法第106条の1規定に基づき、2002年1月1日から遡及的保護を受けることになった。その中の「娃娃国」及び「花園裡的洋娃娃」の「詞」の著作者である周伯陽は1984年4月9日に死亡、「花園裡的洋娃娃」の「曲」の著作者である蘇春濤は2003年10月31日に死亡しており、この部分についてそれぞれ2 人の死後50年間が著作財産権の保護期間となる。上記「娃娃国」の「詞」、「曲」及び「花園裡的洋娃娃」の「曲」音楽著作物の著作財産権は現在存続中であり、なおわが国の著作権法の保護を受けるべきである。

(三)ただし、1998年1月21日に追加された著作権法第106条の2第1項「前条の規定により保護を受ける著作物について、WTO協定が中華民国の管轄区域内において発効する日の前に、その利用者が既に当該著作物の利用に着手した、又は当該著作物を利用するために重大な投資を行った者は、本章に別段の規定がある場合を除き、当該発効日から起算して2年間引き続き利用することができ、第6章及び第7章の規定を適用しない」という規定に基づき、著作権法第106条の1を適用した結果、WTO協定がわが国の管轄区域内において発効した日以前にわが国の著作権保護を受けていなかった著作物は、該協定がわが国の管轄区域内において発効した日以降、新法を適用され、著作権の保護を受けることになったが、このような元来保護を受けておらず遡及的保護を受ける著作物に対して、利用者は該著作物が遡及的保護を受ける以前に、該著作物が保護を受けないという法律の秩序を信頼し、利用者が既に当該著作物の利用に着手した、又は当該著作物を利用するために重大な投資を行った場合があり、これらの人の信頼の利益を考慮して、第106条之2の過渡的条文が追加され、遡及的保護が開始される以前に利用行為を行った場合、又は利用行為が開始されていないが重大な投資を行った場合については過渡的措置として、2002年1月1日から2年間の過渡的措置期間を設定し、2年間の過渡的措置期間中に、これら利用者は2年内に引き続き利用することができ、第6章及び第7に定められる著作権侵害の民事、刑事責任は適用されない。

(四)被上訴人・張孝銘は確かにWTO協定がわが国の管轄区域内において発効した2002年1月1日前に係争著作権物の利用に着手し、マザーテープを製作したため、前記の過渡的規定に基づいて被上訴人・張孝銘は2002年1月1日から2年間の過渡的措置期間において前記複製物を引き続き利用することができ、著作権侵害の民事、刑事責任は適用されない。検察官は上訴の趣旨において、被上訴人・張孝銘が2003年既有のオープンリールテープ形式のマザーテープを光ディスクに焼きなおし、龍吟公司等に販売したことは、その複製の記憶媒体が異なるため、著作権法の規定になお違反している等と主張しているが、調べたところ、被上訴人・張孝銘は以前利用した係争音楽著作物で製作したマザーテープの内容をDVD光ディスクに転換して複製しており、その利用の内容は同一であり、当時の視聴著作物市場で販売されたビデオ記憶媒体はすでにビデオテープから光ディスクに転換しており、マザーテープの内容を光ディスクに記録しなおすことは科学技術の発展に対応して記憶媒体を変更したにすぎず、被上訴人・張孝銘は以前利用した著作物の内容を変更していない。著作権法第106条の2規定の設立目的は、2002年1月1日以前に保護を受けていなかった著作物について利用に着手した、又は(当該著作物を利用するために)重大な投資を行った者による(法律の秩序に対する)信頼の利益を保護することにあり、係争音楽著作物の記憶媒体に変更があっても、その利用の内容が同一であるため、上記過渡的規定を適用できる範囲にあり、それは2004年1月1日以前の利用行為に著作権侵害の問題は発生しない。

(五)以上をまとめると、本件の検察官(告訴人を含む)が提出した証拠は、通常一般人が懐疑を抱くに至らず、それが真実であると確信できる程度に達しておらず、本裁判所は被上訴人・張孝銘が確かに起訴状に記載される著作権法違反の容疑について有罪であるという確信を得られない。さらに調べたところ、被上訴人・張孝銘に検察官の指す犯行があったと十分に証明できるその他の積極的な証拠がなく、ゆえに被上訴人・張孝銘の犯罪を証明できず、被上訴人・翠峰公司は即ち著作権法第101条第1項規定に基づいて論罪科刑する必要はない。先に示した説明から、被上訴人等の無罪を告知すべきである。このため原審が被上訴人・張孝銘の犯罪を証明できないと判断し、前述の法律条文に基づいて、被上訴人等の無罪判決を告知したことには、事実の認定と適用法律を審理した結果誤りはない。上訴の趣旨は原判決が不当であると指摘し、取消と判決の変更を請求しているが、理由がなく、棄却すべきものである。

(六)上記論結に基づき、刑事訴訟法第368条、第371条により主文の通り判決を下すものである。

2012年4月25日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長  李得灶
裁判官      汪漢卿
裁判官      林欣蓉

五 関連条文

著作権法
第91条
無断で複製することにより他人の著作財産権を侵害した者は、3年以下の懲役、又は拘留に処し、若しくは75万新台湾ドル以下の罰金刑に科し、又はこれを併科する。
販売又は貸与を目的として、無断で複製することにより他人の著作財産権を侵害した者は、6ヵ月以上5年以下の懲役に処し、20万新台湾ドル以上200万新台湾ドル以下の罰金刑を併科することができる。
光ディスクに複製することにより、前項の罪を犯した者は、6ヵ月以上5年以下の懲役に処し、50万新台湾ドル以上500万新台湾ドル以下の罰金刑を併科することができる。
著作物を個人の参考、又は合理的な使用にのみ供した者は、著作権侵害とはならない。

第101条
法人の代表者、法人若しくは自然人の代理人、使用人若しくはその他の従業員が、業務の遂行により第91条から第93条まで、第95条から第96条の1までの罪を犯したときは、各該当規定により行為者を処罰するほか、当該法人若しくは自然人に対しても各該当条文に定める罰金刑を科する。
前項の行為者、法人又は自然人の一方に対してした告訴又は告訴の取消しは、他方にもその効力が及ぶ。

第106条の1
著作物が、世界貿易機関(WTO)協定が中華民国の管轄区域内において発効する日の前に完成されたもので、従来の本法の規定により著作権を取得しておらず、本法が定める著作財産権期間の計算によりなお存続中のものは、本章に別段の規定がある場合を除き、本法を適用する。ただし、外国人の著作物であって、その本国における保護期間が満了となったものは、これを適用しない。
前項の但書にいう本国とは、1971年「文学的及びと美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」第5条の規定によりこれを定める。

第106条の2
 前条の規定により保護を受ける著作物について、WTO協定が中華民国の管轄区域内において発効する日の前に、その利用者が既に当該著作物の利用に着手した、又は当該著作物を利用するために重大な投資を行った者は、本章に別段の規定がある場合を除き、当該発効日から起算して2年間引き続き利用することができ、第6章及び第7章の規定を適用しない。
本法が2003年6月6日に改正・施行される日から、利用者が前項規定により著作物を利用するときは、賃貸又は貸出を除き、著作物を利用された著作財産権者に対し、当該著作物について通常交渉を経て支払われるべき合理的な使用料を支払わなければならない。
前条規定により保護を受ける著作物について、利用者が許諾を受けずに完成した複製物は、本法が改正・公布された日から一年を経過した後に、これをさらに販売してはならない。ただし、その賃貸又は貸出はなおできる。
前条規定により保護を受ける著作物を利用して別途創作した著作物の複製物は、前項の規定を適用しない。
ただし、第44条から第65条までの規定に該当する場合を除き、著作物を利用された著作財産権者に対し、当該著作物について通常交渉を経て支払われるべき合理的な使用料を支払わなければならない。

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