国内外チョコレート商標紛争! 二審逆転、甘百世敗訴の判決

2019-11-26 2019年
■ 判決分類:商標権

I 国内外チョコレート商標紛争! 二審逆転、甘百世敗訴の判決

■ ハイライト
1976年創業の台湾ブランド、甘百世のチョコレートと、北米のチョコレート最大手企業であるHershey'sの商標侵害紛争は、二年間も続いていた末、第二審判決で逆転の結果がでた。裁判所は、甘百世がHershey'sの三商標の変更、抽出と組み合わせが、商標侵害行為に該当すると認定した。
北米チョコレートの最大手企業Hershey'sは、創業百年の歴史を有しており、台湾業者甘百世との紛争が裁判所に係属していた。第一審では甘百世勝訴の判決が下されたが、第二審裁判所での詳細な審理の結果、甘百世に商標侵害の疑いがあるとの認定に基づき、敗訴とする判決が下された(TVBS新聞網–2019年4月10日)。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事中間判決
【裁判番号】106年度民公上第5号
【裁判期日】2019年03月21日
【裁判事由】公平取引法損害賠償等

控訴人  The Hershey Company(米国企業・華氏食品工廠)
被控訴人 甘百世食品工業股份有限公司

上記当事者間の公平取引法に関する損害賠償等事件につき、控訴人が2017年9月22日に本裁判所による105年度民公訴字第5号第一審判決に対し、控訴を提起した。本裁判所は中間争点の口頭弁論を2019年2月14日に終結し、且つ次の通り中間判決を下す。
   
主文
被控訴人である甘百世食品工業股份有限公司の添付二に示す凱莎粒巧克力、凱撒巧克力、凱撒白牛奶巧克力、金凱莎巧克力及び甘百世72%黑巧克力は、控訴人の添付一に示す第1643419号、第1643420号、第1433055号商標権の侵害に該当する。
被控訴人に、公平取引法第22条第1項第1号、第25条の不正競争の状況はない。

事実及び理由
壱、手続き部分
本件控訴人(即ち原審の原告)は米国企業であり、本件は渉外民事事件に該当する。また、被控訴人甘百世食品工業股份有限公司(即ち原審の被告、以下被控訴人会社という)は営業所を台湾に設立しており、被控訴人黄鴻源(即ち原審の被告)の住所も台湾にあり(被控訴人会社、被控訴人黄鴻源を併せて「被控訴人」という)、控訴人が主張した侵害の行為地も台湾であり、民事訴訟法第1条第1項、第2条第2項、第15条第1項の規定を類推して、台湾の裁判所は、国際管轄権を当然有するはずである。更に、市場競争の秩序が、不正競争又は競争制限の行為により妨害を受けた場合、これにより生じた債については、当該市場の所在地法による。知的財産を対象とする権利については、当該権利の保護を受ける所在地の法律によると、渉外民事法律適用法第27条、第42条第1項にそれぞれ明文で規定されている。控訴人は、被控訴人が台湾で不正競争行為をしたほか、控訴人が台湾において商標法の保護を受けている知的財産権を侵害したと主張したので、本件は、市場の所在地、権利を受けている所在地の台湾法律を準拠法とすべきである。

弐、実体部分
一、控訴人の主張:
(一)控訴人は、中華民国第1643419号「HERSHEY'S」商標(以下原証3商標という)、第1643420号「HERSHEY'S」商標(以下原証4商標という)、第1433055号「HERSHEY'S KISSES BRANDAN AMERICAN ICON SINCE」商標(以下原証6商標という)(併せて「係争商標」という。添付一の通り)の商標権者であり、前記商標はすべて、キャンディー等指定商品に使用し、且つ商標権存続期間内である。しかし、被控訴人会社が、控訴人の同意を得ないで、その製造及び販売する凱莎粒巧克力(以下原証12製品という)、凱撒巧克力(以下原証13製品という)、凱撒白牛奶巧克力(以下原証14製品という)、金凱莎巧克力(以下原証15製品という)及び甘百世72%黑巧克力(以下原証16製品という)等製品(併せて「係争製品」という。添付二の通り)の包装に使用している商標は、控訴人の係争商標と類似を構成しており、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるので、商標法第68条第3号の規定に違反するものであり、控訴人の商標権を侵害した。
(二)被控訴人による製造及び販売の原証12から15製品の包装に記載されている「KAISER」、「KAISER 'S」文字は、控訴人会社の会社名「HERSHEY」と類似し、原証12から14製品はすべて、銀紙で包んだ水滴形のチョコレートであるので、控訴人によるKISSESの水滴形チョコレートの商品包装と高度に類似し、すでに、国内の関連消費者に誤認混同を生じさせ、実害を与えている。よって、被控訴人による原証12から15製品は、市場の取引秩序を乱し、控訴人に対し不正競争をしたので、現行公平取引法第22条第1項第1号、第25条の規定に違反した。

二、被控訴人は次の通り抗弁した。
被控訴人会社が販売している係争製品は、商標法第68条第3 号の規定に違反していない。
被控訴人会社が販売している原証12から15製品は、公平取引法に違反していない。

参、本裁判所の判断
(一)商標法違反の部分:
1. 商標識別性の強弱:
添付一の原証3、4、6係争商標又は添付二の原証12、13、14、15、16製品に使用の商標図形については、全体的に現有の語彙又は物事をそのまま使用しているのではなく、出所の指示又は区別機能を有しているので、識別性があると認定されるべきである。
2. 商標の類似程度:
(1) 本件の係争商標は、チョコレート、キャンディー等指定商品に使用されていて、係争製品はすべてチョコレート商品である。また、両者の販売地点は、よく見られるコンビニ、大手スーパーであり、価格も数十から百、二百台湾ドルであり、単価が高くないので、小学生からお年寄りまでが当該製品の関連消費者である。よって、両商標が類似を構成するかを判断するにあたっては、当該関連消費者の視野から観察しなければならないことを併せて説明する。
(2) 原証12から14製品に使用される商標図形は原証6商標と類似を構成する。
(3) 原証15、16製品に使用される商標図形は原証3、4商標と類似を構成する。
3. 商品が同一又は類似するのか:
両商標はともにチョコレート、キャンディー商品に使用されているので、商品の区分が同一である。
4. 商標侵害と疑われた使用者の善意の有無:
控訴人会社は創立以来、すでに世界で原証3、4、5係争商標を使用し、商品を販売してきており、遅れて1974年、1977年より台湾で係争商標をもって商品を販売していることなどは十分認定できる。また、被控訴人会社は1977年に設立され、包装にある原証12から16商標を使用して、商品を販売した時点は、明らかに控訴人より遅く、更に控訴人は1894年より「Hershey's」をブランド名として世界中で商品を販売してきており、メディアの報道によると、世界最大のチョコレート工場は、控訴人のチョコレート製造地である「ハーシー」シティにあり、被控訴人会社と控訴人はともに、チョコレートメーカーであるので、競合者の情報に対し、一般の消費者よりよく注意するほか、控訴人の世界各国における販売期間及び状況、遅れて1974年より台湾で商品を販売していること等、諸状況を酌量すれば、被控訴人会社が、控訴人が早くから添付一の係争商標を使用して、商品を販売してきている事実について、詳細に知っていたのにもかかわらず、係争商標と類似程度の低くない商標を原証12から16製品に使用したことは、善意による使用とは言い難い。
5. 実際の誤認混同事情:
控訴人が提出したネットのプリントアウト資料によれば、あるユーザーがネットの書き込みで「…これは甘百氏というブランドであり、美味しくないが、わざとhersheysと同じような包装をして、人を騙そうとした…ずっと好時巧克力(ハーシー・チョコ)と騙されていて (悲しい)…」、「KAISERブランドのKAISER'S ???何故HERSHEY'S KISSESとこんなに類似しているのか?」、「偽物のHERSHEY'S 甘百世巧克力はなくなってほしい…」、「…冷蔵庫にHershey'sのチョコレートがあるようだが…近くで見れば、実はKaiser甘百世のチョコレートだった…」、「…全聨(スーパー)で売っているのは偽物だ。この前、売っていると知って、買おうとしたが、賞味期限を確認する際に、台湾甘百世が模倣したものだと気づいた…」云々と書いているので、消費者に誤認混同を生じさせた事実があるとの控訴人の主張は十分認定できる。
6. 関連消費者の各商標に対する熟知度:
控訴人が設立後、すぐ世界で次々と係争商標をもって製品を販売していることは、控訴人が提出した証拠をもって証明できる。そのうち、原証3、4商標は百年の販売歴史があり、原証6商標の販売は少なくとも60年余り経っており、且つ控訴人は遅れて1974年、1977年より台湾で係争商標をもって、商品を販売してきているので、控訴人は、外国で係争商標をもって商品を60年以上販売し、また1970年代より台湾で係争商標を使用して、今も台湾で係争商標の商品を販売し続けているので、台湾における関連消費者が控訴人による係争商標を相当程度熟知しているはずであると十分認定できる。
被控訴人が提出した証拠では、実際に被控訴人会社が早くも1980年代より添付二に示す係争製品を販売してきたことは証明できなかった。
被控訴人が提出した販売資料がかなり少ないほか、これまで両者が異なる商品の出所に由来すると識別できない消費者がいるので、両者が市場で併存している事実が関連消費者に認識されていて、誤認混同を生じさせるおそれがないとは当然証明できない。よって、本裁判所は、控訴人による係争商標の販売期間及び販売状況と比較して、やはり関連消費者は控訴人による係争商標をより熟知していると認定するので、当然係争商標に、一段と保護を与えなければならない。
7. 前記により、添付二の商標は係争商標とともに識別性があるが、両者の商標図形の類似程度が低くないほか、使用商品の区分も完全に同一であるので、被控訴人会社は善意ではない。よって、控訴人が提出した証拠をもって、実際に誤認混同を生じたことを証明できるほか、チョコレート分野における関連消費者が、係争商標をより熟知しているので、一段と保護を与えるべきである。前記の理由を総合的に酌量したうえ、添付二の係争製品が添付一の係争商標権を侵害する事由に該当すると十分認定できる。
8. 侵害行為の責任認定:
被控訴人会社が製造、販売している添付二凱莎粒巧克力、凱撒巧克力、凱撒白牛奶巧克力、金凱莎巧克力及び甘百世72%黑巧克力が、控訴人による係争商標権の侵害に該当することは、前述の通りである。被控訴人会社は当然、商標法第69条第1項、第3項の規定により、控訴人に対して侵害行為の責任を負わなければならない。
被控訴人黄鴻源は、被控訴人会社の代表者であり、被控訴人会社による製造、販売の添付二製品も、被控訴人黄鴻源の会社業務遂行範囲に含まれるので、被控訴人黄鴻源は当然、会社法第23条第2項の規定により、被控訴人会社と連帯して責任を負わなければならない。
  
(二)公平取引法違反の部分:
1. 公平取引法第22条第1項第1号の部分について
(1) 公平取引法第22条第1項第2号の「著名」に関する改正は、商標法の「著名」規定を参酌して行ったものである。よって、商標法施行細則第31条において商標法でいう「著名」とは、既に「関連」事業者または消費者に広く認識されているものをいうと明文で規定されているので、本裁判所は、公平取引法第22条の「著名」を前記商標法施行細則の規定により解釈しなければならないと認める。
(2) 著名商標を主張する場合、原則的に当該商標を国内で使用している関連証拠を付さなければならないが、たとえ商標を台湾で使用していない、又は台湾で実際に広く使用していないとしても、客観的な証拠をもって、当該商標が国外で広く使用されていて、その知名度が台湾に及ぶ場合、当該商標が著名であると認定できるので、本裁判所は、公平取引法第22条第1項第1号でいう「著名」の認定も同一の基準を採用すべきであると認める。
(3) 控訴人が主張した会社名又は商品包装が、関連消費者で著名の程度に達しているかについては、小学生からお年寄りまでの年齢層における「関連」消費者の認識により認定しなければならない。
(4) 調べたところ、「好時(Hershey)」ブランドが、フォーブス(Forbes)が発表した2016年版「世界で最も価値あるブランド」第99位にランキングされ、商標価値が67億米ドルとされたこと、また控訴人がBrandPowerランキングでコカコーラに次ぎ、第二位にランキングされたことは、「HERSHEY」ブランドに極めて高い価値があると証明できるに過ぎない。しかし、台湾における関連消費者が「HERSHEY」という会社名又はこれをシンボルとするブランドをよく熟知しているとは限らない。このことは、前記2016年ブランドランキングのうち、台湾の民衆が、「HERSHEY」より上位にランキングされた数多くのブランドを知らないことからも、見て取れる。
台湾におけるHershey's製品のリリース、広告、売店写真又はウェブページ、関連ブログのウェブページをもって、控訴人が1970年代より台湾でチョコレート等製品を販売し始めたことを証明できるに過ぎない。しかし、控訴人は、台湾における製品の販売データを一切提出しなかったので、控訴人が台湾で、製品を広く販売し、これにより台湾の関連消費者がその商品包装及び会社名を熟知する程度に達しているかの状況を把握することはできなかった。また、控訴人が提出した前記の関連外国語報道又は資料については、もしその外国で広く使用され、上った知名度が台湾に及ぶと証明できる証拠がある場合、やはり著名であると認定できるが、控訴人はこの部分を証明する証拠を一切提出せず、その提出した台湾の検討資料も多くないので、実に本裁判所は控訴人に対して有利な心証を形成したり、控訴人が主張したように、外国での知名度が台湾にも及び、これにより台湾におけるチョコレート分野に関する消費者又は関連事業者が控訴人の会社名「HERSHEY」及び「銀紙で包んだ水滴形のチョコレート」の商品包装を広く認識できる程度に達したとは認定できない。
(5) 前記により、控訴人は、「HERSHEYの『会社名』」、及び「銀紙で包んだ水滴形チョコレートの『商品包装』」がすでに台湾において関連事業者又は消費者に広く認識されている著名の程度に達しているとは証明できなかったので、被控訴人が添付二の原証12から15までの製品が公平取引法第22条第1項第1号の規定に違反した云々と主張したことは、当然採用するに足りない。
2. 公平取引法第25条の部分:
控訴人は、被控訴人会社が添付二原証12から15までの製品を製造、販売した行為により、市場取引秩序にどのように影響したか(水平競争秩序又は或垂直取引関係における市場秩序の運用を含む)、被害者人数の多寡、損害を受けた数量及び程度等、被控訴人会社に、取引秩序に影響するに足りる欺瞞又は著しく公正さを欠く行為があったか、及び程度の判断に関わる事項について、控訴人はこれらの挙証をせずに、ただ被控訴人による製品の包装に記載された「KAISER」、「KAISER'S」が控訴人会社の名称「HERSHEY」と類似し、原証12から14までの製品は銀紙で包んだ水滴形のチョコレートであり、且つ消費者に誤認混同を生じさせる実害があった云々をもって、被控訴人が控訴人の商業的名声にあやかり、取引秩序に影響し、又は著しく公正さを欠くとしたことは、即断である。よって、控訴人が、被控訴人に公平取引法第25条の違反行為がある云云と主張したことは、当然採用するに足りない。

以上を総じて、本裁判所は、前記中間争点をもって、被控訴人会社が添付二に示す凱莎粒巧克力、凱撒巧克力、凱撒白牛奶巧克力、金凱莎巧克力及び甘百世72%黑巧克力について、控訴人による登録第1643419号、第1643420号、第1433055号商標権を侵害したが、被控訴人は公平取引法第22条第1項第1号、第25条で不正競争の事由に該当しないと認定する。

2019年3月21日
知的財産裁判所第一法廷
審判長裁判官 李維心
裁判官 陳忠行
裁判官 蔡如琪
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