「商標のパロディ」に該当しない権利侵害案件

2015-11-19 2014年
■ 判決分類:商標権

I 「商標のパロディ」に該当しない権利侵害案件

■ ハイライト
 被告蔡○○は祥駿国際電子商務股份有限公司(以下「祥駿公司」)の代表者であり、付表1に示される登録商標は告訴人が所有しており、同意又は使用許諾を受けずに販売を意図して模倣品を所持、陳列し、不特定の者に販売して利益を得てはならないことを明らかに知りながら、商標法に違反する犯行を否認し、「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインは付表1に示される商標のパロディデザインであり、商標の使用ではないと抗弁した。さらに祥駿公司の店内ディスプレイ、内装、店内製品の包装箱、付表2のハンドバッグ内部にミシン縫いされた自社ブランドタグ、(バッグの)ストラップに掛けられたオレンジ色の紙製下げ札、該ハンドバッグの商品目録においてはいずれも該公司董事○○○が登録を出願し使用許諾した「HLW及び南瓜図」をそれが販売する商品の表彰図案としており、関連の消費者の誤認混同のおそれはない云々と抗弁していた。
 ただし調べたところ、被告が付表2のハンドバッグ正面、ショッピング紙袋正面に使用している「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインは、付表1に示される商標と類似を構成する商標である。また商標法第5条の「商標の使用」の立法定義をみると、「商標の使用」には1.主観的要件-販売を目的とする、2.客観的要件-商標使用の積極的行為、3.効果-標示されるものが関連の消費者にそれが商標であると認識させるのに十分であるという3つの要件がある。調べたところ、被告は付表2ハンドバックを対外的に販売し、「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインはバッグの正面に位置し、関連の消費者が商品を選択して購入する時、該「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインは関連の消費者の視線と注意を極めて惹き付けやすく、且つ該デザインが付表1の商標と高度に類似し、即ち付表2のバッグと具体的な連結が生じ、関連の消費者に商品の出所を識別できる商標図案とすることができる。被告がバッグを販売することを目的とし、「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインを使用することは、関連の消費者に該デザインを商標と認識させるに足る。よって商標の使用ではない云々とする被告の抗弁は採用できない。
 学理上でいうところの「商標のパロディ」は、言論の自由、表現の自由及び芸術の自由に対する尊重に基づき、商標権に対して合理的な制限がかけられているが、商標法は元来商標権及び消費者の利益を保障し、市場の公正な競争秩序を維持して、商工企業の健全な発展を促進するために制定されたものであり、商標権者は商標の使用と商標権の保護により徐々にそのブランド価値を確立し、かつ関連の消費者は商標の識別力によりそれぞれ商品又は役務の出所を区別できる。商標権は商標者の利益と消費者の誤認混同を回避する公共の利益に関わるものであり、「商標のパロディ」を認めたいのであれば、著名商標を模倣した商標は、ユーモア、風刺又は批判等の娯楽性を有するとともに、二組を対比した時の矛盾の情報を伝達する必要があり、かつ「混同を回避する公共利益」と「自由な表現の公共利益」をバランスよく考慮すべきである。被告は、消費者が「塗料剥離ソリッド・バックル」をみて笑うはずであり、押収されたハンドバッグの「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインはパロディのデザインである(世界ブランドの著名商標の商品ならば塗料が剥げるわけがない)云々と抗弁した。たとえ「ユーモアの娯楽性」があると認めたとしても、それが表現しようとする付表1に示された商標が確立しているイメージに相反する又は矛盾する情報とは何であるのかについて、被告は具体的に説明しておらず、「塗料剥離ソリッド・バックル」のデザインが情報を表現する作品と最低限の関連を有するとは認め難く、それにどのような文化的貢献又は社会的価値があり、商標権の保護を犠牲にする必要性があるかを判断できず、商業上の便乗行為である。よって被告のこの部分の抗弁は採用できない。
 以上をまとめると、被告は確かに告訴人の同意を得ずに、ハンドバック、ショッピング紙袋という同じ商品に付表1の商標と高度に類似する「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインを使用しており、商標法第36条に定められる他人の商標権の効力に拘束されない状況はなく、商標権の侵害を構成している。(資料出所:知的財産局)

II 判決内容の要約

知的財産裁判所刑事判決
【裁判番号】103年度刑智上易字第63号
【裁判期日】2014年11月5日
【裁判事由】商標法違反

上訴人 台湾士林地方裁判所検察署検察官
被告 蔡○○

主文
原判決を取り消す。
蔡○○は商標法第97条の販売の意図を以って商標権侵害の商品を陳列した罪を犯したため、6ヶ月の有期懲役に処す。罰金に転換することができ、1000台湾ドルを1日と換算する。付表2に示される押収品をすべて没収する。

一 判決理由の要約
 蔡○○は祥駿国際電子商務股份有限公司(所在地は台北市○○区○○路○○巷0号0楼、以下「祥駿公司)の代表者であり、付表1に示される商標図案はシャネル(外国語名:CHANEL SARL、中国語名:瑞士商香奈兒股份有限公司、以下「シャネル社」)が前後して経済部中央標準局、知的財産局(1999年1月26日に正式改制)から商標権を取得したものであることを明らかに知っていた。思いがけず販売を意図して模倣品を所持、陳列する犯意に基づき、上記商標権者の同意又は使用許諾を受けずに、2012年1月某日から同年10月21日までの某日、中国大陸工場からハンドバック1点あたり1070新台湾ドル、ショッピング紙袋1枚あたり50新台湾ドルで付表2に示される模倣品を買い入れた後に所持し、購入日から祥駿公司の所在地にて付表2番号1のハンドバッグを陳列し、1点あたり2180新台湾ドル(起訴状には2780新台湾ドルと誤記)の価格で不特定の者に販売し利益を得ようとした。その後警察が同年10月21日午後4時5分頃、台湾士林地方裁判所裁判官の発付した捜索・差押許可状を以って捜索を行い、付表2、3に示される物品を押収した。被告は、「塗料剥離ソリッド・バックル」のデザインは付表1に示される商標のパロディデザインであり、商標の使用ではない、と抗弁した。

 付表2に示される物品である「ハンドバッグ」と「ショッピング紙袋」の商品にはいずれも「塗料剥離ソリッド・バックル」のデザインが使用されており、付表1に示される商標に近似しており、関連の消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある:
 被告が使用した「塗料剥離ソリッド・バックル」のデザインは、付表1に示される商標のデザインと類似度が高く、付表2に示される物品は付表1に示される商標の指定商品である「ハンドバッグ」、「ショッピング紙袋」と同じである。さらに付表1に示される商標は世界的に著名な商標であり、識別力が高く、関連の消費者が購買時に普通の注意を施し、時間と場所を異にして隔離的に「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインを使用した付表2に示される物品と、付表1に示される商標の「ハンドバッグ」と「ショッピング紙袋」を観察すると、両者の商品が異なる出所のものだと区別することが難しく、それにより誤認混同がもたらされる。また被告の実際の使用態様(ハンドバックの名称「溶化香香包」とそのスタイル、付表1に示される商標と類似する「塗料剥離ソリッド・バックル」デザイン等を含む)から、被告には主観的に善意があったとは認め難い。よって、以上の関連要素をまとめると、客観的に「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインはハンドバッグ、ショッピング紙袋に関連する消費者に、付表2に示される物品と付表1に示される商標の商品とは同一の出所のシリーズ商品であると誤認させる、又はその使用者の間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させるおそれがあると認定できる。
 社会一般の取引観念によると、販売業者が同時に複数のブランド商品を販売するケースはよく見られ、かつ「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインが関連の消費者に与える一見の印象についてみると、付表2の番号1に示されるハンドバッグの正面と付表2番号2に示されるショッピング紙袋の正面は、消費者の注意を最も惹く部分であるため、付表1に示される商標と構図意匠及び外観において極めて似ている。
 学理上でいうところの「商標のパロディ」は、言論の自由、表現の自由及び芸術の自由を尊重するため、商標権に対して合理的な制限をかけるものであるが、商標法は元来商標権及び消費者の利益を保障し、市場の公正な競争秩序を維持して、商工企業の健全な発展を促進するために制定されたものであり(商標法第1条規定を参照)、商標権者は商標の使用と商標権の保護により徐々にそのブランド価値を確立し、かつ関連の消費者は商標の識別力によりそれぞれ商品又は役務の出所を区別できる(同法第5条、第18条第2項の規定を参照)。商標権は商標者の利益と消費者の誤認混同を回避する公共の利益に関わるものであり、「商標のパロディ」を認めたいのであれば、著名商標を模倣した商標は、ユーモア、風刺又は批判等の娯楽性を有するとともに、二組を対比した時の矛盾の情報を伝達する必要があり、かつ「混同を回避する公共利益」と「自由な表現の公共利益」をバランスよく考慮すべきである。本件被告が陳列、所持する付表2の物品はいずれもその正面に「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインが使用され、付表1に示される商標のような2つCが反対に重なるデザインによって融合化に類似するデザインのイメージを持たせている。被告は、消費者が「塗料剥離ソリッド・バックル」をみて笑うはずであり、押収されたハンドバッグの「塗料剥離ソリッド・バックル」デザインはパロディのデザインである(世界ブランドの著名商標の商品の塗料が剥げるわけがない)云々と抗弁しているが(本裁判所ファイル第56~57頁、278~279頁)、たとえ「ユーモアの娯楽性」があると認めたとしても、それは付表1に示された商標が確立しているイメージに相反する又は矛盾する情報とは何であるのかについて、被告は具体的に説明しておらず、「塗料剥離ソリッド・バックル」のデザインが情報を表現する作品と最低限の関連を有するとは認め難く、それにどのような文化的貢献又は社会的価値があり、商標権の保護を犠牲にする必要があるかを判断できず、商業上の便乗行為に該当する。よって被告のこの部分の抗弁は採用できない。

●関連条文
商標法第97条
他人が為した前二条の商品であることを明らかに知りながら、販売、又は販売の意図をもって所持、陳列、輸出又は輸入したものは、1年以下の有期懲役、拘留又は5万新台湾ドル以下の罰金を科すか、又は併科する。電子メディア又はインターネットを通して行った場合も同様である。

商標法第98条
商標権、証明標章権又は団体商標権を侵害する物品又は文書は、犯人が所有するものかどうかを問わず、これを没収する。

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