特許権者が法に基づく裁判所からの訴訟資料提出命令を拒絶する効果

2018-12-24 2018年
■ 判決分類:専利権

I 特許権者が法に基づく裁判所からの訴訟資料提出命令を拒絶する効果

■ ハイライト
原告は係争特許権者であり、訴訟を提起して、被告らが製造する係争製品が(原告の)係争特許を侵害していると主張し、被告らに損害賠償として3000万新台湾ドルを連帯して支払うよう請求するとともに、侵害を排除するよう請求した。被告は係争特許には取り消すべき事由があり、さらに原告は第三者との民事訴訟において係争特許の「表皮層」という用語に対する減縮解釈を行ったことがあるため、係争製品は係争特許の文言の範囲には含まれないと抗弁した。裁判所は審理において原告に第三者との民事訴訟事件について文書資料を提出するよう命じたが、原告は関連資料の提出を拒絶するとともに、当裁判所101年度民専訴字128号(以下「前件」)の民事訴訟はすでに双方当事者の和解により訴えが取り下げられており、該訴訟は遡及的に消滅しているはずであり、関連法規及び事実上の証拠並びに攻撃防御方法は法に基づき当然ながら同様に遡及的に消滅しているはずであり、係争特許の内外部の証拠又は禁反言の依拠としてはならないと主張した。
知的財産裁判所は判決において、係争特許の請求項における「表皮層」という用語は解釈する必要があり、原告が関連証拠の開示を拒絶することには理由がなく、民事訴訟法第345条により、係争特許の請求項について原告に不利な解釈を行い、係争製品は係争特許を侵害していないと認定すると述べた。その見解は以下のとおり。
(一)民事の和解で訴えを取り下げた事件には既判力や争点効が生じないが、特許権の行使は信義誠実の原則に基づき、特許権の存在範囲が明確に予見できなければならず、特許権者は権利範囲を(都合よく)拡大したり縮小したりして、前後不一致な形で(権利範囲が小さい)権利を維持して、(権利範囲が大きい)権利を行使してはならない。
(二)特許権の有効性の維持及びその紛争については、立法において公衆審査を採用し、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第16条では民事裁判所に特許有効性の判断を委ねており、その立法理由を有効性及び権利侵害事実を同じ訴訟手続きで一度に解決し、すぐに権利者を保障して、民事訴訟手続きが長くかかることを回避するとともに、裁判所民事裁判官は有効性判断の専門知識をそなえているため、行政訴訟の結果を待つ必要がなく、さらに特許の有効性が元来の法理と政策枠組みを変更する必要がなく、当事者同士の和解による訴えの取下げに基づき特許有効性の公衆審査制度を変更することを許すものではない。
(三)特許有効性に異議を唱える証拠資料は、社会の公衆において資料の透明化と流通が必要であり、それにより初めて効率的に公衆審査を行うことができる。特許権者が以前行った特許権に対する減縮解釈も、公衆が理解でき、特許権の範囲を明確に確認できるようにするための適当なシステムが必要である。
(四)裁判所はすでに双方に証拠提出のために3ヵ月を超える期間を与えており、被告が期限までに提出したのに対して、原告は決定前の開示したくないという理由を繰り返すのみで、原告が提出を拒絶する正当な理由はないと認められるため、開示拒絶の制裁条項を適用した結果、原告は前件の訴訟で係争特許の請求項の範囲に対して減縮解釈を行ったことがあり、係争製品は係争特許の権利範囲には含まれないと認めた。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】104年度民專訴字第94号
【裁判期日】2018年1月15日
【裁判事由】特許権侵害に係る財産権の紛争等

原告 OOOOマイクロメタル株式会社
原告 OOOOOマテリアルズ株式会社
被告 OOOO貴金属工業股份有限公司
被告 OOOO電子股份有限公司
被告 OOOO国際貴金属股份有限公司台北分公司

上記当事者間における特許権侵害に係る財産権の紛争等事件について、2017年12月4日に一部に係る独立した攻撃防御方法を経て口頭弁論を終結し、判断結果に基づいて、審理継続の必要はなく、直接次のように終局判決を行う。

主文
原告の訴えを棄却し、仮執行宣言の申立てを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実の要約
原告は中華民国第I342809号及びI364806号特許「半導体装置用ボンディングワイヤ(原文:半導體裝置用合接線)」(以下、以下順にそれぞれ「係争特許1」、「係争特許2」といい、併せて「係争特許」という)の特許権者であり、特許期間はそれぞれ2011年6月1日から2029年2月1日まで、2012年5月21日から2028年12月2日までである。製品「CLR-1A」(以下、「係争製品」)については、被告OOOO電子股份有限公司(以下「OOOO電子公司」)が製造し、OOOO国際貴金属股份有限公司台北分公司(以下「OOOO台北分公司」)が係争製品の輸入、販売を行い、被告OOOO貴金属工業股份有限公司(以下「OOOO貴金属公司」)が少なくとも係争製品の伝票、領収書及び帳簿等の販売管理資料について担当していた。原告は、係争製品が係争特許請求の範囲に含まれており、被告らは2012年2月1日から係争製品の製造及び販売を行い、係争特許1の請求項1の文言範囲及び係争特許2の請求項1の文言範囲を侵害しており、特許権侵害を構成していると主張し、専利法(特許法、実用新案法、意匠法に相当)第96条第1項及び第2項、第97条第1項第2号(及び2010年9月12日施行の専利法第85条第1項第2号)、民法第184条第1項前段及び同法第185条等並びに民事訴訟法第244条第4項の規定により、被告らに損害賠償請求の最低額として3000万新台湾ドルの支払いを請求するとともに、侵害の排除を請求した。
被告OOOO貴金属公司、被告OOOO電子公司、被告OOOO台北分公司は共に次のように抗弁した:係争製品の表皮層は金であり、その成分は「Pd、Pt、Ru、Rh又はAgを主成分とする」という範囲には含まれず、係争特許で定義される「表皮層」を構成しておらず、係争特許1請求項1の文言範囲には含まれない。係争特許2の「表皮層」の厚さは少なくとも5nm必要だが、係争製品の表皮層の厚さはわずか0.4~0.5nmであり、係争特許2の請求項1の範囲に含まれない。係争製品の「表面の結晶面におけるワイヤ長手方向の結晶方位<hkl>の内、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以内までを含む<111>の方位比率が50%以下であり」、係争特許2の請求項1に記載される範囲に含まれないと答弁した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.被告らは原告に対し、連帯して3000万新台湾ドル及び訴状副本送達の翌日から支払い済みまで年5部の割合による金員を支払え。
2.被告らは直接的又は間接的に、自ら又は他人に委託して、製品「CLR-1A」及びその他の中華民国公告第I342809号及びI364806号特許「半導体装置用ボンディングワイヤ」を侵害する製品を製造、販売の申し出、販売、使用又は輸入してはならない。
3.第1項及び第2項の請求について、原告は現金又は同額の兆豊国際商業銀行の譲渡可能定期預金証書を担保として供託するので、仮執行宣言を申し立てる。
(二)被告の請求:
1.原告の訴えを棄却し、仮執行宣言の申立てを却下する。
2.不利な判決を受けたとき、被告は担保を供託するので、仮執行免脱宣言を申し立てる。

三 本件の争点
(一)係争特許の請求項にある「表皮層」という用語は、いかに解釈すべきか。
(二)原告が関連証拠の開示を拒絶することは、係争特許請求項の解釈にいかなる影響があるのか。
(三)係争特許の請求項の解釈結果によると、係争製品は係争特許の権利範囲に含まれるのか。

四 判決理由の要約
(一)係争特許に係る特許請求の範囲:
係争特許1の請求項は合計11項あり、その中の請求項1は独立項、請求項2乃至11はいずれも請求項1の従属項である。係争特許1の請求項1の内容は以下のとおり。「(B)導電性金属からなる芯材と、(C)前記芯材の上に芯材とは異なる金属であるPd、Pt、Ru、Rh及びAgのうち少なくとも1種を主成分とする表皮層とを有する(A)半導体装置用ボンディングワイヤであって、(D)ワイヤ表面における前記表皮層結晶粒のワイヤ円周方向の平均サイズaと、ワイヤ軸に垂直方向の断面である垂直断面における前記芯材結晶粒の平均サイズbとの関係について、a/b≦0.7であることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。」
係争特許2の請求項は合計18項あり、その中の請求項1は独立項、請求項2乃至18はいずれも従属項であり、直接的又は間接的に請求項1に従属している。係争特許2の請求項1の全文は以下のとおり。「導電性金属からなる芯材と、(F)前記芯材の上に該芯材とは異なる金属を主成分とする表皮層とを有する(E)半導体装置用ボンディングワイヤであって、(G)該表皮層の金属は面心立方晶であって、該表皮層の厚さが0.005~0.09μmの範囲であり、(H)前記表皮層の表面の結晶面におけるワイヤ長手方向の結晶方位<hkl>の内、前記ワイヤ長手方向に対しての角度差が15°以内までを含む<111>の方位比率が50%以上であることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。」

(二)係争特許の請求項における「表皮層」は解釈が必要
原告が提出した権利侵害対比報告によると、それは表面から深さ約56nmの箇所であり、芯材に接していると述べられているが、被告は、表面から約0.4~0.5nmの厚さの部分がいわゆる「表皮層」であると抗弁している。「表皮層」の定義が係争特許1の請求項1の技術的特徴 (C)と(D)の基礎となっており、また係争特許2の請求項1の技術的特徴(G)と(H)の基礎となっていることから、先ずは「表皮層」の定義を確定する必要があり、それによって初めて係争製品が係争特許1及び係争特許2の各技術的特徴に含まれるかを判断でき、さらに係争製品に係争特許侵害があるか否かを決定できる。

(三)「表皮層」の解釈結果は原告に不利
1.双方による係争特許の請求項における「表皮層」の解釈紛争については、私が本件を引き継ぐ前の前任裁判官がすでに告知している。その告知(該解釈は双方が同時に引用して攻防が行われるもので、以下「双方の共通解釈」という)によると、「(1)係争特許1について、いわゆる表皮層の解釈は『本発明でいう表皮層は、表皮層を構成する導電性金属の検出濃度が総計50mol%の部位から表面まで』である。(2)係争特許2について、いわゆる表皮層の解釈は『本発明でいう表皮層は、表皮層を構成する導電性金属の検出濃度が総計50mol%の部位から表面まで』である。」
2.しかしながら、双方の共通解釈は双方の「表皮層」に対する解釈の紛争を真に解決するものではなく、これは解釈の中に再び「表皮層」という用語が解釈の要素として含まれており、「自分で自分を解釈する」という現象が生じているためである。双方の共通解釈が根拠とする該特許の明細書の段落を詳細に閲読すると、さらに「ここで、表皮層と芯材との境界は、表皮層を構成する導電性金属の検出濃度の総計が50m%の部位から表面である。(原文:在此處,表皮層與芯材的交界,是構成表皮層的導電性金屬的檢出濃度總計為50mol%的部位。)」(係争特許1の部分)、「その中で、表皮層と芯材との境界は、表皮層を構成する導電性金属の検出濃度の総計が50m%の部位から表面である。(原文:其中,表皮層與芯材的邊界係構成表皮層的導電性金屬之檢測濃度總計為50mol%的部位。)」(係争特許2の部分)という記載があることを発見できる。双方の共通解釈は表皮層と芯材が直接に接する状況を示すものであり、そのため「交界」、「邊界」(訳註:いずれも境界の意)という単語を含む。芯材と表皮層の金属はいずれも接する部位で互いに拡散しているため、双方の共通解釈を通じてさらに範囲を限定している。
3.しかし、係争特許は芯材と表面層が直接に接する構造を限定しているほか、芯材/中間金属層/表皮層(係争特許1の部分)という三層の複層構造も限定している。この点については、係争特許1の請求項7及び係争特許1と係争特許2の明細書を参照すると多数箇所に「中間金属層」が言及されており、十分に明瞭である。ボンディングワイヤが三層の複層構造を有すると、芯材と表皮層は直接接していないため、表皮層の定義は双方の共通解釈を適用できなくなる。明細書において、各層が相互に拡散している時の明確な範囲を限定している段落がなく、この時の表皮層はボンディングワイヤ表面からみて最も外側の一層となるはずで、相互の拡散現象があることによって互いの範囲を限定する必要はない。
4.以上の説明に基づいて、係争特許の請求項でいうところの「表皮層」は、芯材/表皮層の二層構造と芯材/中間金属層/表皮層の三層の複層構造のそれぞれに異なる解釈となる。前者の二層構造は、双方の共通解釈を適用すべきであり、後者の三層の複層構造については、「表皮層」はボンディングワイヤの表面からみて最も外側の一層となるはずである。前述の解釈結果は、原告が主張する解釈とは異なり(原告は芯材以外に、幾層の構造であるかに関わらず、いずれも表皮層であると主張)、被告が抗弁する解釈方法に近い(被告も表皮層は最も外側の一層であると主張)。付帯説明:特許請求項の解釈は、国家による特許権付与の処分に対する解釈であり、広義の法解釈の範囲にあり、双方の拘束を受けない。

(四)原告による関連証拠提出の拒絶には正当な理由がない
私は2017年4月20日に原告が関連証拠を開示すべきだと決定したが、原告は期限内に提出せず、前述決定は書証を提出すべき必要性がないとのみを主張した。その理由には、「被告は前件の訴訟資料に対して、すでに二度にわたり第三者として閲覧を請求しており、裁判所による却下は確定してファイルに記録されている。被告が本件において書証開示を請求することで前件の訴訟資料を知りえるならば、ファイル閲覧請求却下の決定から逃れたということになるのではないのか。前件の訴訟資料は、本件訴訟とは関係がなく、本件において引用する理由がない」、「原告に前件の訴訟資料を開示するよう要求することは、民事訴訟法の書証開示制度を拡張しすぎるものである」、「被告は特許の無効性を証明する責任を自ら負うべきであり、証拠開示制度により前人の努力の成果を労せずして享受することはできない」が含まれる。私は原告による証拠開示拒絶には正当な理由がないと認め、以下のように説明する。
1.本件の書証開示と前件の第三者の訴訟資料閲覧請求却下とは衝突しない。
「前件の訴訟資料」と「前件の訴訟資料ファイル」は区別すべきである。「前件の訴訟資料」は当裁判所(知的財産裁判所)101年度民專訴字第128号事件ファイルにおける有効性の攻防及び訂正に関する資料であり、「前件の訴訟資料ファイル」は該事件のファイルすべてを指す。被告が前件の訴訟資料ファイルを閲覧するよう請求したことについては、民事訴訟法第242号第2項で処理すべきであり、被告が請求した前件の訴訟資料は書証であり、同法第342条に基づいて請求し、同法第343条で処理すべきである。両者の規範目的は異なり、第三者の訴訟資料ファイル閲覧請求に対する考慮は、第三者がファイルを運用する正当な必要性とファイルの事件当事者のプライバシー及び業務秘密とを秤にかけるものである。一方、当事者が相手方の所持する文書を書証として請求することに対しては、真実の発見の必要性とそれにかかるであろうコストとを秤にかけて、比例原則に適合するかを考慮する。よって書証の請求を許可したからといって、ファイル閲覧請求却下の決定から逃れられたということにはならない。さらに私は決定において、「(プライバシー又は業務秘密を)加工して隠したものを提出してもよい」との但し書きをつけており、前件におけるプライバシー又は業務秘密に対して、適当な保護システムを提供しており、すでにファイル閲覧請求却下の決定から逃れるという問題はないと認める。
2.前件の訴訟中に減縮した係争特許の請求項を、本件においても援用できる
前件の訴訟資料は一体本件審理の判断と関連があるのか。この問題は、原告が前件の訴訟において特許有効性の論議によって係争特許の請求項の範囲を減縮する解釈を行ったのであれば、原告が本件において同じ制限を受けるか否か(以下「問題1」)に関わる。もし答えが「受ける」ならば、原告は前件の訴訟資料を開示する必要がある。この問題に回答する前に、私は先ずもう一つのより容易な状況から処理したい。もし原告が以前のもう一つの無効審判に係る行政訴訟において、特許有効性に対する攻撃から防御するため、係争特許に減縮解釈を行ったならば、原告が本件において主張する特許権の範囲は、この減縮解釈の制限を受けるのか(以下「問題2」)。
特許権の有効性の維持及びその紛争については、立法において公衆審査を採用し、いかなる者も特許権を取り消す事由があると考えたなら無効審判を請求でき、さらにはその後行政訴訟を起こすこともできる。この種の無効審判訴訟が反映するものは、特許権者と社会の公衆との間で特許権の範囲を明確にして確認することである。よってこの種の無効審判訴訟においては、たとえ無効審判請求人が訴訟を取り下げたとしても、特許権者が訴訟において行った特許権を減縮する解釈は、それにともない消え去るべきではない(無効審判請求人が訴訟を取り下げたのは、特許権者が特許権を減縮した解釈を行ったことによる可能性がある)。さもなければ特許権者は無効審判請求人に訴訟を取り下げるよう協議できることと同じであり、公衆審査制度は蝕まれてしまう。
いいかえれば、専利法第58条第4項には、特許権の範囲が訴訟において提出した主張によって制限を受けるとは明確に規定されていないが、特許権者がその特許請求の範囲を減縮して解釈し、特許の有効性に対する異議を防御する一方で、さらに競争相手の製品がその権利の範囲に含まれるように特許請求の範囲を拡大して解釈したならば、特許権を(都合よく)拡大したり縮小したりして、前後不一致な形で(権利範囲が小さい)権利を維持して、(権利範囲が大きい)権利を行使することに等しい。これは権利の範囲をできる限り公衆に明確に予見させるという知的財産の法理に違反しているだけではなく、また権利行使が信義誠実の原則に基づくという法律基本原理にも適合しない。もし裁判所の訴訟手続きを通じてこのように権利を行使することを許可したならば、司法の正義に反する。よって問題2の答えはおのずと「受ける」となる。
それでは問題2に対する答えと理由は問題1にも適用できるのだろうか。原告はこれについて、いわゆる特許権維持の過程には「その他当事者の民事紛争に関わる民事訴訟文書」を含むべきではなく、況してや民事の和解で訴えを取り下げた事件は、法により既判力や争点効が生じず、特許権者のその後の特許侵害訴訟における主張を制限するために持ち出すべきではないと主張した。
私は、問題1と問題2は本質的に異ならないと考える。特許権の行使は信義誠実の原則に基づき、特許権の存在範囲が明確に予見できなければならず、これは民事、行政訴訟を超えて存在する法律の原則であり、行政訴訟においては適用するが、民事訴訟では障害に遭遇するということはない。智慧財産案件審理法第16条では民事裁判所に特許有効性の判断を委ねており、その立法理由はすぐに権利者を保障するためであり、また当裁判所民事裁判官は有効性判断の専門知識をそなえており、さらにこのために特許の有効性に係る元来の法理と政策枠組みを変更する必要がない。裁判官が民事手続きにおいて有効性を判断することが民事訴訟に導入されて以来、当事者同士の和解による訴えの取り下げに基づき特許有効性の公衆審査制度を変更することができる(これは公衆審査手続きにおいて、特許権者が自ら特許権の範囲を減縮したことでもたらされた効果が含まれる)という強力で具体的な理由は一切ない。
3.書証開示制度は特許権の行使可能範囲の確定に有利
以上を受けて、特許有効性に異議を唱えるための証拠資料は、社会の公衆において資料の透明化と流通が必要であり、それにより初めて効率的に公衆審査を行うことができ、社会コストを浪費して、個別の公衆が(有効性に)異議を唱えることができる先行技術を重複して検索することがない。このようにすることで迅速に特許権の行使可能範囲を確定することもできる。また特許権者が以前行った特許権に対する減縮解釈も、公衆が理解して、特許権の範囲を明確に確認できるようにするための適当なシステムが必要である。民事訴訟法における書証開示制度は、特許侵害訴訟の方面において、この適当なシステムとしての役割を演じてきたと認めることができる。よって原告が、被告は自ら特許無効の証明責任を負うべきであり、証拠開示制度により先人の努力の成果を労せずして享受することはできず、被告はすでに関連の行政訴訟ファイルを閲読しており、さらにその他の民事訴訟ファイルの開示を請求することはできない等々と主張しているが、私はこれに同意することができない。

(五)原告が関連証拠の開示を拒絶した結果、係争特許請求項に対する解釈は原告にさらに不利となる
1.原告が拒絶した結果について、開示拒絶制裁条項を適用すべきか
正当な理由なくして証拠が見つかることを拒絶した場合、原告或いは被告を問わず、いずれも公平に制裁を加えるべきである。もし明らかに権利者の権利が制限を受けているが、証拠の発見を拒絶することで、その権利の制限を隠蔽したならば、無辜の被告がこれにより無益に「権利を行使をされてしまう」可能性がある。決定以前に、私はすでに開廷して双方の意見を聴取し、原告が開示したくない理由を理解し、原告が開示拒否には理由がないと認めた。また私は特に、決定により定められた書類提出期限を遵守しない場合は民事法345条に基づき審判すると告知している。被告ももとより原告による販売資料開示請求の却下を強く求めたが、私が決定した後、被告は期限までに資料を提出している。これに対して、原告は決定前の開示したくない理由を繰り返すだけであり、卒然と提出を拒絶したため、開示拒絶制裁条項を適用して制裁すべきものである。
2.本件は開示拒絶制裁条項をいかに適用すべきか
原告に前件の訴訟資料開示を命じたのは、原告が前件の訴訟で係争特許の請求項の範囲を減縮した解釈を行い、それによって係争製品が係争特許の権利範囲に含まれなくなったか否かを明確にするためである。よって前件の訴訟資料が証明すべき事実とは、原告が前件の訴訟において係争特許の請求項の範囲を減縮した解釈を行い、それによって係争製品が係争特許の権利範囲に含まれなくなったことである。開示拒絶制裁条項を適用した結果、該証明すべき事実は真実であると認めるべきである。
被告が原告に前件の訴訟資料の提出を命令するよう申し立てたとき、証明すべき事実に対する表明は、係争特許1のみに触れ、係争特許2には触れなかったが、この表明の依拠を詳細に閲読したところ、被告は前件の訴訟資料がどの特許に関わっているのかを知らなったからにすぎない。よって前件の訴訟資料が証明すべき事実は、「原告がかつて係争特許1について減縮解釈を行い、係争製品が係争特許1の権利範囲に含まれなくなったこと」に限定する必要はなく、それが証明すべき事実には「原告がかつて係争特許2について減縮解釈を行い、係争製品が係争特許2の権利範囲に含まれなくなったこと」も含むものと認める。結局、前件の訴訟資料内容を示すことができず、事実の真相が不明となったことについて、責めを負うべきは原告であり、事実の真相が不明であることによって、逆に原告に有利な認定を行うことがあってはならない。
さらに、係争特許1、2の特許権者は同一であり、かついずれも半導体装置用ボンディングワイヤの特許であり、明細書にはいずれも「表皮層」に対して「表皮層を構成する導電性金属の検出濃度が総計50mol%の部位から表面までである」という同じ解釈があり、さらにはこの解釈に対する前提はいずれも実質的に同じであるため、互いに関連性を有する特許であると認めることができ、それが使用する同一の用語も同じ解釈を有するはずである。よって、係争特許1、2が関連特許であることから、係争特許2も同じ不利な解釈を行い、係争製品は係争特許2の特許範囲に含まれないと認めるべきである。

(六)「表皮層」の解釈結果により、係争製品が係争特許の権利範囲に含まれるとは認められない
前述の係争特許の請求項に対する解釈結果によると、先ずはボンディングワイヤが二層構造か三層構造かを判断し、「表皮層」を区別して異なる解釈を行うべきである。係争製品は測定した結果、三種類の金属材質があり、それらの間では互いに増減しあう相互の拡散、浸透という現象がみられ、これは三層構造であり、二層構造ではない。すでに三層構造であり、前出の解釈結果によると、その表皮層は最も外側にある一層、つまり表面に最も近い場所にあり、中間層と互いに拡散、浸透している箇所は含まない。
係争製品について最も表面(に近い場所)にある各種元素の含有量を測定したところ、最も表面において金の含有量が最高であり、換算するとそれが最も表面の導電性金属に占める含有比率がいずれも総計50mol%以上であり、係争特許の明細書における表皮層主成分の定義に該当する。よって係争製品の最も表面が表皮層で、その主成分である導電性金属は金であり、その厚みは5nmをはるかに下回る。これは係争製品が係争特許1の技術的特徴(C)に該当せず、係争特許2の技術的特徴(G)にも該当しないことを示している。これにより、係争製品は係争特許の請求項が限定する権利範囲には含まれず、係争製品は係争特許を侵害していないと認めることができる。

前述の判断結果及び理由の説明に基づき、本件原告の訴えには理由がなく、その他の争点についてはすでに審理を継続する必要がなく、原告敗訴の終局判決を直接下すべきである。原告の仮執行宣言の申立てについても、連動して依拠を失ったため、併せて却下する。

2018年1月15日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官  蔡志宏
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