引用文献において引証の根拠となる技術の範囲には、明確に記載されている内容と実質的に暗示されている内容が含まれる

2017-08-18 2016年
■ 判決分類:専利

I 引用文献において引証の根拠となる技術の範囲には、明確に記載されている内容と実質的に暗示されている内容が含まれる

■ ハイライト
原告(係争特許権者)が被告(知的財産局)に対して特許を出願し、被告の審査を経て特許(以下「係争特許」)の登録が許可された。その後参加人(無効審判請求人)は係争特許が許可当時の専利法(訳注:日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)第22条第1項第1号規定に違反しているとして無効審判を請求した。被告が審理した結果、係争特許は前記専利法規定に違反していると認め、「請求項1ないし2について無効審判請求成立、請求項3ないし22について無効審判請求不成立」の処分を行った。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが、経済部に棄却されたため、さらに知的財産裁判所に行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は本件を審理した結果、なお原告の請求を棄却した。
原告は、証拠2の技術内容は係争特許請求項1に記載されていないため、係争特許請求項1は証拠2の技術内容に対して新規性を有すると主張していた。
上記問題について、知的財産裁判所は判決書にて次のように指摘している:
一.専利主務機関が新規性要件の適否を審査するとき、まずは先行技術又は出願案件から関連の文書を検索して対比し、特許出願に係る発明又は実用新案登録出願に係る考案が新規性をそなえるかを判断すべきである。また引用文献において引証の根拠となる技術の範囲には2つある。(1)引用文献の開示の程度について、形式上明確に記載されている内容で、その発明(考案)の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が製造又は使用するに足るもの。(2)形式上は記載されていないが、実質的に暗示されている内容であり、当業者が引用文献公開日前の通常の知識を参酌して直接的かつ一義的に導き出せるもの。
二.証拠2の明細書には限止リングとショルダー(訳注:証拠2の環状の溝の形態を有する固定部(23)にある限止部(24)から遠い一端を、原文で原告は「肩環」、裁判官は「肩段」とそれぞれ称しているが、いずれも「ショルダー」と翻訳した)の両者間の関係が文言で明確に記載されていないが、当業者であれば、証拠2の図3(断面図)において端面が直接ショルダーに接触している内容の教示から、限止リングの固定爪とは反対側の端面がショルダーに圧接して限止リングを固定するという相互圧接関係を理解でき、上記技術内容は係争特許の運用を実質的に暗示している。よって、一般的な機械設計者にとって、当業者であれば該ショルダーが限止リング端面を圧接して固定する効用を有することを直接的かつ一義的に導き出すことができる。証拠2は係争特許請求項1が新規性を有さないことを証明できると認めるに足る。被告の処分に法に合わないところはなく、維持を決定した行政訴願に誤りはない。【資料出所:知的財産局】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】105年度行専訴字第25号
【裁判期日】2016年9月1日
【裁判事由】特許無効審判

原告 蔡○舉
被告 経済部知的財産局
代表人 洪淑敏
参加人 林○祺

上記当事者間における特許無効審判事件について、原告は経済部2016年2月4日経訴字第10506300520号訴願決定を不服として行政訴訟を提起し、当裁判所は参加人に対し被告の訴訟に独立して参加するよう命じた。当裁判所は次のよう判決する。

主文
原告の訴えを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は2009年8月27日付で被告に「萬向接頭(ユニバーサル・ジョイント)」の特許出願を行った。その特許請求の範囲は合計22項目あり、同時に2008年12月31日出願の台湾第97151637号特許案件を以って優先権を主張した。被告は出願番号第98128809号として審査した結果、許可査定を行うとともに、発明第407022号特許登録書(以下「係争特許」)を発給した。その後参加人は2015年3月2日に係争特許が許可当時の専利法第22条第1項第1号規定に違反しているとして無効審判を請求した。被告が審理した結果、2015年8月20日(104)智專三(三)05051字第10421111730号特許無効審判審決書を以って「請求項1ないし2に対する無効審判請求は成立し、取り消すべきである」、「請求項3ないし22に対する無効審判請求は成立しない」との行政処分を行った。原告は前記の無効審判成立部分を不服として行政訴願を提起したが、経済部は2016年2月4日経訴字第10506300520号訴願決定にて棄却した。原告はこれを不服として、その後当裁判所に行政訴願を提起した。当裁判所は本件判決の結果、原処分及び行政訴願を取り消すべきであると認定したならば、参加人の権利又は法律上の利益に影響が及ぶため、職権により参加人に被告の訴訟に独立して参加するよう命じた。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の訴え:原処分と訴願決定の原告に不利な部分をすべて取り消す。
(二)被告の請求:原告の訴えを棄却する。
(三)参加人の請求:原告の訴えを棄却する。

三 本件の争点
証拠2は係争特許請求項1の新規性欠如を証明できるか否か。
証拠2は係争特許請求項2の新規性欠如を証明できるか否か。
(一)原告の主張:省略。判決理由の説明を参照。
(二)被告の主張:省略。判決理由の説明を参照。
(三)参加人の主張:省略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一)新規性判断の基準:
1.引用文献に形式上明確に記載されている内容及び実質的に暗示されている内容:
専利主務機関が新規性要件の適否を審査するとき、まずは先行技術又は出願案件から関連の文書を検索して対比し、特許出願に係る発明又は実用新案登録出願に係る考案が新規性をそなえるかを判断すべきである。また審査過程において引用された関連文献は津上、引用文献とよばれる。引用文献の引証の根拠となる技術の範囲には2つある。(1)引用文献の開示の程度について、形式上明確に記載されている内容で、当業者が製造又は使用するに足るもの。(2)形式上は記載されていないが、実質的に暗示されている内容であり、当業者が引用文献公開日前の通常の知識を参酌して直接的にかつ一義的に導きだせるもの。 
2.1つの先行技術と対比する:
特許出願に係る発明又は実用新案登録出願に係る考案を先行技術と対比し、新規性の有無を判断するとき、各請求項に記載されている発明又は考案を対象として逐項で対比し、単独対比原則と逐項審査原則を適用して、1つの技術又は文献の内容を基準とし、その他の技術又は文献と組み合わせて判断の基準としてはならない。いいかえると、(1)新規性の審査は単独対比を行い、各請求項に記載されている発明又は考案を1つの先行技術と対比しなければならず、複数の引用文献の全部又は一部の技術の組合せ、(2)1つの引用文献の一部の技術内容の組合せ、(3)引用文献の技術内容とその他の形式で公開されている先行技術内容の組合せと、新規性の対比を行ってはならない。

(二)証拠2は係争特許請求項1の新規性欠如を証明するに足る:
1.係争特許の技術的特徵:
係争特許は外観が一体化され、耐用性に優れ、製造工程が簡便で、ねじりが円滑であるユニバーサル・ジョイントである。ユニバーサル・ジョイントには、1つのボールスタッド、1つのハウジング及び1つのピンが含まれる。ボールスタッドには1つのユニバーサル孔、ハウジングには中空を呈する1つの管筒と1つのフィッティングが含まれる。管筒には互いに隔てて管内面と管外面があり、管内面に形成され管外面に伸びる2つのピン孔がある。該管内面は1つの収容部を形成しており、管外面には相対する第一係合部と第二係合部がある。フィッティングは第二係合部に圧接され、フィッティングには管外面に当接する1つフィッティング内面があり、フィッティング内面には第一係合部に圧接される第一係合対応部がある。ピンはユニバーサル孔とそれらのピン孔に挿設され、ピンの幅径(Wide-Diameter)はユニバーサル孔の幅径より小さく、フィッティング内面でピンの両端が当接されている。つまり、ユニバーサル・ジョイントは外観が一体化され、耐用性に優れ、製造工程が簡便で、ねじりが円滑である等の目的を達成するために係争特許で採用されている技術手段は、第一係合対応部で第一係合部を圧接し、フィッティングで第二係合部を圧接して、フィッティングを固定するというものである。
2.証拠2は係争特許請求項1の技術的特徴を開示している:
(1)証拠2の図2と図3には、1つの枢孔(110)を有する1つのオス部(10)を含むユニバーサル・ジョイント構造改良が開示されており、オス部と枢孔はそれぞれ係争特許請求項1のボールスタッドとユニバーサル孔に対応している。つまり、証拠2は係争特許請求項1の「ユニバーサル・ジョイントには、1つのボールスタッド、1つのハウジング及び1つのピンが含まれる」という技術的特徴を開示している。
(2)証拠2の図2と図3には中空である1つメス部(20)と1つの限止リング(50)を有するハウジングがあり、メス部には互いに隔てて1つの内周面と1つの外周面があり、内周面に形成されて外周面に伸びる2つの枢孔(210)と、内周面で形成される1つの枢接端(21)と、外周面には相対する1つの限止部(24)とショルダーを有することが開示されている。メス部、限止リング、内外周面、枢孔、枢接端、限止部とショルダーは、係争特許請求項1の管筒、フィッティング、管内外周面、ピン孔、収容部、第一係合部と第二係合部にそれぞれ対応している。よって、証拠2は係争特許請求項1の「ハウジングには中空を呈する1つの管筒と1つのフィッティングが含まれる。管筒には互いに隔てて管内面と管外面があり、管内面に形成され管外面に伸びる2つのピン孔がある。該管内面は1つの収容部を形成しており、管外面には相対する第一係合部と第二係合部がある」という技術的特徴を開示している。
(3)証拠2の明細書には、環状の溝の形態を有する固定部にあるショルダーと限止リングの作用関係が文言で記載されていない。ただし証拠2の図3(断面図)から、限止リング(50)はメス部(20)の外周面に当接する内周面があり、限止リングのショルダーに相対する端面が直接ショルダーに接触し、限止リングを環状の溝の形態を有する固定部上に確実に固定し、簡単に脱離しないようにするという作用関係がうかがわれ、当業者であれば、固定爪で限止部を係合し位置を固定し、さらに限止リングの固定爪とは反対側の端面でショルダーに圧接し、限止リングを固定することを直接的且つ一義的に導き出すことができ、その技術内容は係争特許の第一係合対応部を第一係合部に圧接し、さらにフィッティングを第二係合部に圧接して固定する方式を実質的に暗示している。よって証拠2には係争特許請求項1の「フィッティングは第二係合部に圧接され、フィッティングには管外面に当接する1つフィッティング内面があり、フィッティング内面には第一係合部に圧接される第一係合対応部がある」という技術的特徴が開示されている。
(4)証拠2の図2と図3には、1つの枢軸(30)がメス部の枢孔(210)とオス部の枢孔(110)に挿設され、枢軸の幅径はオス部の枢孔の幅径より小さく、限止リング(50)の内周面で枢軸の両端が当接されていることが開示されており、証拠2の枢軸は係争特許請求項1のピンに対応している。よって、証拠2は係争特許請求項1の「ピンはユニバーサル孔とそれらのピン孔に挿設され、ピンの幅径はユニバーサル孔の幅径より小さく、フィッティング内面でピンの両端が当接されている」という技術的特徴を開示している。よって証拠2は係争特許請求項1の全ての技術的特徴を開示しており、係争特許請求項1の新規性欠如を証明するに足る。
3.原処分は専利法及び専利審査基準の規定に違反していない。
(1)原告は次のように主張している。証拠2にショルダーが水平の作用力を与え限止リングの端面に圧接して固定するのに使用されるという作用が記載されておらず、実質的に暗示もされていないため、ショルダーが係争特許請求1の第二係合部と同じであると認めることはできない。さらに証拠2明細書には限止リングの端面とショルダーの関係が記載されておらず、証拠2が解決しようとする課題でも目的の効果を達成するための必要条件でもない。よって証拠2は係争特許請求1の課題解決のために必要な「フィッティングは第二係合部に圧接されると同時に、フィッティングのフィッティング内面にある第一係合対応部は第一係合部に圧接されている」という技術的特徴が実質的に暗示されていない云々。
(2)証拠2の図2には、メス部(20)の外周面に環状の溝の形態を呈する固定部(23)があり、固定部の相対する両端が限止部(24)とショルダーであり、限止リング(50)が直接固定部の外部に取り付けられる時、ショルダーは限止リングの端面をメス部の係合部(22)に向かって移動させる作用を有し、限止リングに水平作用力を与えることが開示されている。かつ図3(断面図)から、限止リングのショルダーに相対する端面はショルダーに直接接触しており、限止リングの端面に圧接して制限するのに用いられていることがわかる。よって、ショルダーが係争特許請求項1の第二係合部とは異なるという原告の主張は採用できない。
(3)証拠2の明細書には限止リングとショルダーの関係が文言で記載されていないが、証拠2の図3(断面図)において、限止リングのショルダーに相対する端面はショルダーに直接接触していることがわかる。限止リング(50)を直接固定部の外部に取り付け、固定部の一端にある限止部が固定爪と係合して位置を固定するとき、当業者であれば、端面が直接ショルダーに接触している等の内容の教示から限止リングの固定爪とは反対側にある端面は同時にショルダーに圧接されて限止リングを固定することが理解でき、上記技術内容は係争特許の第一係合対応部を第一係合部に圧接して、さらにフィッティングを第二係合部に圧接して固定する方式を実質的に暗示している。よってショルダーと端面における単一の互いに圧接する関係から、ショルダーに端面を圧接して固定する効用があることを直接的かつ一義的に導き出せる。もしショルダーと端面が互いに圧接されていなければ、限止リングは固定部の限止部とショルダーとの間を移動して、振動ノイズが発生し、限止リングと固定部外部の磨耗を招くため、一般の機械設計者はこのような設計を行わない。これは一般の機械設計者にとって、限止リングを環状溝の形態を呈する固定部に固定するよう確保することに基づくものである。当業者であれば、該ショルダーが限止リング端面を圧接して固定する効用を有することを直接的かつ一義的に導き出せるため、原処分が専利法及び専利審査基準の審査規定に違反している云々とする原告の主張は採用できないと認めるに足る。

(三)証拠2は係争特許請求項2の新規性欠如を証明するに足る:
1.係争特許請求項2の技術的特徵:
係争特許請求項2は請求項1に直接的に従属する従属項であり、その特許請求の範囲には請求項1と請求項2の従属的な技術的特徴が含まれる。従属的な技術的特徴は請求1のハウジングの管筒をさらに限定するもので、管筒は管内面と管外面を連接する開口端を有し、フィッティングは開口端に隣接する第一開口端面を有し、第一開口端面とは反対側に第二係合部に圧接する当接縁を有する。
2.証拠2は係争特許請求項2の技術的特徴を開示している。
証拠2の図2と図3には、メス部(20)には内周面と外周面を連接する開口端があり、限止リング(50)にはメス部の開口端に隣接する開口端があり、開口端と反対側にあり固定部の限止部(24)に相対するもう一端のショルダーに圧接する当接縁を有することが開示されている。よって証拠2は係争特許請求項2の従属的な技術的特徴を開示している。全体的にみて、係争特許請求項2の技術内容はすでに証拠2に開示されており、証拠2は係争特許請求項2の新規性欠如を証明するに足る。
 
(四)原処分は利益衡量の原則と理由説明義務に適合している:
調べたところ、本件の無効審判請求書では証拠2を以って係争特許請求項1ないし22には新規性がなく、許可当時の専利法第22条第1項第1号規定に違反していると主張され、係争特許請求項1ないし22の取消しが請求されている。被告が無効審判請求の理由、答弁理由及び証拠と事実の調査を斟酌した結果、請求項1ないし2について無効審判請求成立、請求項3ないし22について無効審判請求不成立と審決し、原告に有利な状況と不利な状況のいずれも審理されていることは明らかである。さらに、被告は原告と参加人の陳述を斟酌し、事実と証拠の調査を経て、原処分の決定及び理由を当事者に送達している。まさに、原処分には原告に有利な状況にも注意が払われており、原決定及びその理由を原告に告知したことが記録されており、行政程序法(行政手続法)第9条の利益衡量の原則と第43条の理由説明義務等の規定に違反していない。原処分は行政程序法第9条及び第43条に違反している云々とする原告の主張は誤りである。

以上の次第で、本件原告の訴えには理由がなく、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、行政訴訟法第98条第1項前段により、主文のとおり判決する。

2016年9月1日
知的財産裁判所第一法廷
裁判長 陳忠行
裁判官 曾啓謀
裁判官 林洲富
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