会社が営業秘密を保護するため、従業員と守秘契約を締結し、その約款の内容が明確性及び合理性を備えている場合、当該情報は秘密性を有する。
2025-08-20 2024年
■ 判決分類:営業秘密
I 会社が営業秘密を保護するため、従業員と守秘契約を締結し、その約款の内容が明確性及び合理性を備えている場合、当該情報は秘密性を有する。
■ ハイライト
阮憲熙はかつて台達電公司でシニアエンジニア等職務についていたことがあり、台達電公司のEV自動車充電スタンドエネルギープロジェクトにも参加し、製品開発等業務を担当していた。阮憲熙は台達電公司がUSB外部記憶装置や外部クラウドストレージサイトの使用を制限しており、従業員にもしUSBや他のコンピュータ装置へのアクセスニーズがある場合、使用前に申請して承認を受ける必要があることを明らかに知りながら、敢えて在職中、許諾を得ずに職務のため保有していたEV自動車用充電スタンド等のコア生産技術書類の情報(以下、係争情報という)を無断で私用コンピュータに複製した。その後、阮憲熙は競争相手である中国通力電子公司に研究開発責任者として招聘された際に、係争情報を無断で複製した後通力電子公司に持ち込み、中国で係争情報を通力電子公司から支給された社用ノートパソコンに複製し、そのノートパソコンを台湾に持ち帰って使用し続けた。検察官による取調べを経て起訴されたが、裁判所の見解は以下のとおりである。
一、阮憲熙が複製した台達電公司の係争情報は、台達電公司の営業秘密に該当する。
(一)係争情報は秘密性を有する。
事業者は自身の営業秘密を保護するため、営業秘密にアクセスする可能性のある者に対し、守秘契約を通して秘密に接触する者に守秘を義務づけることができるので、事業者と被雇用者が締結した守秘契約の内容が明確性及び合理性を有するとき、従業員が事業者から入手してまたは保有する情報は秘密性がある。調べたところ、阮憲熙と台達電公司が締結した従業員雇用契約の中の守秘約定はすでに具体的に台達電公司の秘密情報範囲及び尽くすべき守秘義務について説明しているほか、阮憲熙が台達電公司から退職するとき、会社も退職前に台達電公司の秘密情報を返還しなければならず、台達電公司の営業秘密を保持する義務があると阮憲熙に告知していたので、係争情報は台達電公司のEV自動車充電スタンド関連技術、製造プロセス、プログラム等その他製造、または研究開発に用いる情報に関わるものであり、台達電公司も係争情報を対外的に開示しておらず、一般市民または同業者に知られている情報ではないので、秘密性を有する。
(二)係争情報は経済性を有し、並びに合理的守秘措置が採られていた。
係争情報は台達電公司がコストを投入して獲得した技術秘密情報であり、もしそれ等の情報が競合業者の手に渡った場合、競合業者は研究開発時間を短縮し、生産効率を向上させることができ、台達電公司の顧客を奪うことさえでき、十分に台達電公司の経済的利益を失わせるので、係争情報には経済的価値がある。
台達電公司は、会社の営業秘密について、すでに必要な保護措置を講じており、研究開発成果が漏洩しないよう、社内外のネットワークシステムから隔離する情報セキュリティ保護を実施していたので、台達電公司は係争情報についてすでに合理的な守秘措置を講じていたと認めることができる。
二、阮憲熙の上記行為は、営業秘密法第13条の2第1項の中国での使用を意図した罪、営業秘密法第13条の1第1項第2号の営業秘密を知悉又は保有し、許諾を得ずに当該営業秘密を複製した罪を犯した。
II 判決内容の要約
台湾桃園地方裁判所刑事判決
【裁判番号】112年度智重訴字第2号
【裁判期日】2024年07月30日
【裁判事由】営業秘密法違反
被告 阮憲熙
上記被告による営業秘密法違反の件について、検察官により公訴が提起されたが、本裁判所は以下のとおり判決する。
主文
阮憲熙は中国での使用を意図し、営業秘密法第13-1条第1項第2号の罪を犯したので、懲役2年に処する。
一 事実要約
(一)阮憲熙は台達電子工業股份有限公司(以下台達電公司という)でシニアエンジニア等職務を担当し、台達電公司のEV自動車充電スタンドエネルギープロジェクトにも参加し、製品開発等業務を担当していた。阮憲熙は在職中及び退職前に台達電公司と次の関連契約を締結し、並びに台達電公司も社内で次の事項を公布していた。
1.阮憲熙は台達電公司に在職中「従業員雇用契約書」に署名し、退職前に「退職証明書」にも署名し、退職後も台達電公司在職期間に知悉又は保有していた営業秘密の守秘義務を遵守することに同意した。
2.台達電公司は「USB移動儲存設備使用規範」を公布しており、並びに同社の情報室が次の情報を公告したことも阮憲熙は明らかに知っていた。その情報は次のとおりである。USB外部記憶装置及び外部クラウドストレージサイトの使用を制限し、従業員にもしUSB及びその他コンピュータ周辺機器へのアクセスの必要がある場合、申請して許可された上で支給を受けて、始めてそれを使用することができる。
(二)阮憲熙は台達電公司の上記規定を明らかに知りながら、敢えて自己及び第三者の違法な利益、及び台達電公司の利益を損なうための営業秘密法違反の意図に基づき、在職期間中に台達電公司の情報セキュリティ規則及び守秘措置の下で、台達電公司の許可または同意を得ずに、無断で職務におけるコア生産技術の情報をコンピュータに複製した。その後、阮憲熙は中国で通力電子公司に採用され、製品電源部の研究開発責任者に就任し、以前自宅のコンピュータに伝送していた台達電子公司の機密ファイルを無断で複製した後、中国通力電子公司から支給されたノートパソコンに複製し、そのノートパソコンを中国から台湾に帰国した際持ち帰って使用した。
二 本件の争点
会社が営業秘密を保護するため、従業員と守秘契約を締結した場合、その守秘契約の約款内容はどんな状況において、当該情報には秘密性があるかと認めるのか。
三 判決理由の要約
(一)営業秘密法の立法目的は、産業倫理と競争秩序を維持し、社会の公益を調和させるために営業秘密を保護することである。営業秘密法にいう営業秘密とは、生産、販売又は経営に利用することができる方法、技術、製造プロセス、配合方法、プログラム、設計その他の情報であり、「秘密性」、「経済性」及び「合理的な守秘措置」の3要件を満たすものをいう。
1.秘密性:
企業の内部営業秘密は、「商業上の営業秘密」と「技術上の営業秘密」の2種類に分けられ、前者には主に企業の顧客リスト、販売拠点、製品販売価格、製品仕入れ原価、取引最低価格、人事管理、原価分析等経営に関連する情報が含まれ、後者は主に特定産業の研究開発や革新的技術に関する秘密であり、その中には所有者が整理して分析した方法、技術、製造プロセス、配合方法等も含まれ、通常の方法では市場や専門分野で入手できない情報である。
2.経済性:
生産、製造、運営、販売に利用できる情報、即ち経済的利益または商業的価値を生み出すことができる情報には、経済性がある。
3.合理的な守秘措置:
営業秘密の所有者が、その情報を保護するという主観的な意思を持ち、且つ客観的その情報を秘密にするための積極的な行動をとり、その情報を秘密にする意思を持っていることを他人に理解させるものである。
(二)被告が複製した告訴人の台達電公司のファイルはいずれも告訴人会社の営業秘密である。
1.ファイルには秘密性がある。
いわゆる秘密性や新規性とは、通常そのような情報にかかわる者に知られていない情報を指し、業界で容易に入手できる情報は営業秘密の保護対象とはならない。秘密性の判断は、業界標準に基づき、一般人が知らないことに加え、関連する専門分野の者も知らないものであるので、一般的に知られている、容易に知ることができる場合は、秘密性の要件を有しない。事業者は、自己の営業秘密を保護するため、守秘契約により、その営業秘密に接する可能性のある者に守秘義務を課すことができる。よって、事業者は被用者と守秘契約を締結し、その内容が明確性及び合理性を有する場合、当該守秘契約は、使用者が入手または所持する情報が事業箇所からのものであることを証明、または疎明することができる場合、それは秘密性を有する。もし従業員がそれ等の情報が秘密ではないと否定する場合、秘密ではないことを疎明または証明するための反証を提出しなければならない。これに準じて、被告と告訴人が締結した守秘条項について、もし被告がそれ等の情報が秘密性を有しないと否定する場合、それを疎明または証明する事実証拠を提出すべきである。
調べたところ、被告と台達電公司が締結した雇用契約には守秘義務があり、上記雇用契約にはすでに告訴人台達電公司の秘密情報の範囲及び被告がその秘密情報について負うべき守秘義務が具体的に説明されていた。また、被告は告訴人台達電公司を退職する時に署名した退職証明書には、告訴人台達電公司も被告に退職前に告訴人台達電公司の秘密情報及び関連書類物品を返還しなければならず、告訴人台達電公司の営業秘密及び告訴人台達電公司が契約または法令により第三者に対して守秘義務を負う他人の営業秘密を守らなければならないことを告知したと明記されていた。
又、被告が複製したファイルはすべて告訴人台達電公司のEV自動車充電スタンドに関する技術等の生産または研究開発に用いる情報にかかわっており、告訴人台達電公司はそれ等の情報を公開しておらず、一般市民または同業に知られるものではないのに、被告はこの部分について上記情報が秘密性を有しないことを一切疎明または証明しなかったので、前記説明に基づけば上記情報は秘密性を有するはずである。
2.ファイルには経済性があり、且つ告訴人会社は当該ファイルについて合理的な守秘措置を実施した。
調べたところ、告訴人会社の秘密情報が競争同業の手に渡った場合、その同業者は研究開発の時間を節約して効率を向上させることができ、さらに告訴人会社の顧客を奪うことになり、告訴人会社に十分に経済利益の損失が生じるので、当該技術性秘密情報には経済価値がある。
告訴人会社は被告に入社時、退職時に従業員雇用契約書、退職証明書の署名を要求し、入社後と退職後にも告訴人会社の営業秘密について守秘義務を負わなければならないと約定した。且つ告訴人会社では個別従業員がアクセスできるシステム使用権限範囲が設定されている。又、告訴人会社はUSBでファイルを保存して持ち出すことは厳禁であると定期的に告知している。以上をまとめると、告訴人会社はファイル及びセキュリティ規則情報についてすでに合理的守秘措置を実施していたと認定できる。
刑事第九法廷審判長裁判官 陳品潔
裁判官 張琍威
裁判官 王鐵雄
四 関連法條
営業秘密法第13条の1
自己又は第三者の不法な利益、又は営業秘密保有者の利益を害する意図があって、次に掲げる事情の一に該当する者は、5年以下の懲役又は拘留に処し、100万台湾ドル以上1000万台湾ドル以下の罰金を併科することができる。
二、営業秘密を知悉又は保有し、許諾を得ずに、又は許諾範囲を超過して当該営業秘密を複製、使用又は漏洩した者。
営業秘密法第13条の2
外国、中国、香港又はマカオでの使用を意図して前条第一項各号に列挙されている罪を犯した場合、1年以上10年以下の懲役に処し、300万台湾ドル以上5000万台湾ドル以下の罰金を併科することができる。
前項の未遂犯は罰する。









