SNSのアカウント、パスワードは、秘密保持すべき機密情報に該当する。
2025-02-20 2024年
■ 判決分類:営業秘密
I SNSのアカウント、パスワードは、秘密保持すべき機密情報に該当する。
■ ハイライト
聚暘公司は新興メディア企業であり、Facebook、Instagram(IG)等のプラットフォームや手段を通じてファンのフォローを集め、更には商品マーケティングを行い、及び広告業者による広告出稿も集めている。董〇〇は、聚暘公司に雇われてSNSの編集を担当し、聚暘公司のIG「歐娜oonaghona」アカウント(以下、歐娜アカウントと称す)の各項の事務の管理を担い、聚暘公司と労働契約書及び秘密保持条項を締結していた。しかし、董〇〇は、労働契約書の約定に基づき在職期間中に歐娜アカウントのアカウント、パスワードについて秘密保持の義務を負わなければならず、且つ勤務目的違反となる範囲外での使用をしてはならないことを明らかに知悉していたのにもかかわらず、勤務終了後の時間帯に歐娜アカウントのバックエンドに合計8回ログインして歐娜アカウントを非公開にし、聚暘公司の内部者が歐娜アカウントで作成された投稿を見ることができないようにして、歐娜アカウントをフォローしているファンだけが当該アカウントの投稿を見ることができる状況にした。董〇〇は、更にIGプラットフォームを利用して「こちらの新しいアカウントをフォローして!@skoktfuこのアカウントこそアップデートしているよ!〔=追蹤我的新帳號!@skoktfu這支才有在更新喔!〕」という投稿を作成し、歐娜アカウントのファンに聚暘公司が新しいアカウントを別途開設したと誤解させたため、歐娜アカウントのフォロワーが減ったり、若しくは流失したり、又はskoktfuアカウントのフォローに転じるようになった。これにより、聚暘公司は徐々に歐娜アカウントのフォロワーを失い、聚暘公司が当該情状を知悉していないうちにも依然として運営コストを持続的に投入することになり、支出した係争広告料の損害を受けた。聚暘公司は提訴して、董〇〇の上記行為は労働契約書及び秘密保持条項に違反し、違約金及び広告料を賠償すべきであると主張した。これについて第一審は聚暘公司全面敗訴の判決を下したが、聚暘公司はこれを不服として控訴を提起した。第二審裁判所の見解は下記の通りである。
一、董〇〇が歐娜アカウントのパスワードを勤務目的違反となる範囲外で使用したことは、守秘義務違反である。
(一)双方で締結された労働契約書及び秘密保持条項の約定に基づくと、機密情報とは、「…携帯電話で撮影したビデオ、ファンページの運営、顧客リスト…等の資料」を指す。また、聚暘公司は、「ファンページの運営」には既に歐娜アカウントのSNSアカウント及びパスワードが含まれていると主張しており、セルフメディア労働組合連合会も書簡で第二審裁判所に回答し、その概要は下記の通りである。「…SNSプラットフォームのアカウント、パスワードは確かに『ファンページの運営』のための重要な機密情報であり、雇用されている管理者には確かに守秘義務がある…。」したがって、歐娜アカウント及びパスワードはファンページの運営のための機密情報であるとの聚暘公司の主張は、根拠があるので、董〇〇が労働契約書及び秘密保持条項で約定された守秘義務に違反したかを判断するには、上記内容に基づき認定しなければならない。
(二)歐娜アカウントのパスワードは、董〇〇のほか、聚暘公司の一部社員のみが知悉しており、且つセッティング、アップデート、維持又はバックエンドデータの閲覧等の作業を行う権限も有している。ユーザーは歐娜アカウントの身分でログインすると、直ちに当該アカウントのすべての営業情報を入手することができる。それは、秘密保持条項で言う「董〇〇が在職期間に入手又は知悉した情報であり、且つ当該情報は、これらの類の情報に通常関わる人に知られているものではなく、聚暘公司がこれに対して合理的な秘密保持措置を講じた機密情報に該当する」に合致すると考えられ、董〇〇が歐娜アカウント、パスワードを使用して行った係争行為は、夜中又は未明等の双方当事者の約定した勤務時間ではない時間帯で行われ、且つその職務内容と明らかに関係がなく、聚暘公司からの指示を受けて行ったものでもないため、董〇〇が確かに歐娜アカウント、パスワードを勤務目的違反となる範囲外で使用して労働契約書及び秘密保持条項で約定された守秘義務に違反したと認定すべきである。
二、聚暘公司が労働契約書及び秘密保持条項の約定に基づき、董〇〇に対して支出した広告料及び違約金の賠償を請求したことには、理由がある。
聚暘公司は、董〇〇が退職前に行った係争行為を知悉していなかったので、依然として歐娜アカウントのマーケティングのために広告費用を持続的に投入していた。聚暘公司が投入した広告料は、当該SNSアカウントのマーケティングのために使われたものであり、仮に聚暘公司が董〇〇の行った係争行為を知悉していたならば、当然董〇〇を主役とし資金を投入して広告を撮影して商品マーケティングを行ったり、また資源も持続的に董〇〇に投下することはなく、更にこれにより広告代理店に広告料も支出することもなかった。したがって、聚暘公司が労働契約書及び秘密保持条項の約定に基づき、上記により受けた損害、即ち違約金及び広告料の賠償を董〇〇に請求したことには、根拠がある。
II 判決内容の要約
台湾橋頭地方裁判所民事判決
【裁判番号】112年度〔2023年度〕労簡上字第4号
【裁判期日】2024年03月15日
【裁判事由】損害賠償の請求等
上記当事者間の損害賠償請求等の事件において、控訴人が本裁判所111年度労簡字第81号第一審略式判決に控訴を提起したことについて、本裁判所は合議体法廷の口頭弁論を終結し、下記の通り判決を下す。
控訴人 聚暘新媒体国際股份有限公司
被控訴人 董〇〇
主文
原判決を破棄する。
被控訴人は控訴人に104,557台湾ドル、及び2022年10月27日から弁済日まで、年利5%で計算した利息を支払わなければならない。
第一審、第二審の訴訟費用は被控訴人の負担とする。
一 双方当事者の請求
(一)控訴人の請求:
控訴人の請求:控訴人は新興メディア企業を経営しており、Facebook(以下、FBと称す)、Instagram(以下、IGと称す)、Youtube、TikTok等のプラットフォームの宣伝手段を通じて、ファンからのフォローや閲覧を集め、更に商品マーケティングを行い、及び広告業者による広告出稿も集めている。被控訴人は2020年8月1日から控訴人に雇われて当該ブランドの編集を担当しており、控訴人が作成したSNSプラットフォームであるIGの「歐娜oonaghona」アカウント(以下、歐娜アカウントと称す)の各項の事務の管理を担い、控訴人と労働契約書、秘密保持条項(以下、係争労働契約書、係争秘密保持条項と称す)を締結していた。しかし、被控訴人は係争労働契約書第12、16、17条等の約定、即ち在職期間に歐娜アカウントを含むアカウント、パスワードについて守秘義務を負わなければならず、且つ勤務目的違反となる範囲外の使用をしてはならないことを明らかに知悉していたのにもかかわらず、やはり2021年5月から6月の間に、夜中又は未明の非勤務時間に歐娜アカウントのバックエンドに合計8回ログインし、まず控訴人の内部者のIGアカウントを「ストーリーズ非表示リスト」に設定して歐娜アカウントが作成した投稿を閲覧することができなくなるようし、更に歐娜アカウントを公開アカウントから非公開に設定して、当時既に歐娜アカウントのフォロワーであったファンだけが当該アカウントの投稿を閲覧することができるような状況にした。被控訴人が更にIGプラットフォームのストーリーズ機能を利用し、「こちらの新しいアカウントをフォローして!@skoktfuこのアカウントこそアップデートしているよ!〔=追蹤我的新帳號!@skoktfu這支才有在更新喔!〕」という投稿(以下、係争投稿と称す)をアップロードしたことにより、歐娜アカウントのファンが控訴人が新たなアカウントを新しく開設したと誤認したことにより、歐娜アカウントのフォロワーが減ったり、若しくは流失したり、又は控訴人が運営しているものではない別のアカウントのフォローに転じるようになった。被控訴人は、投稿を掲載してしばらく経った後、歐娜アカウントを公開アカウントに設定し、控訴人内部者のアカウントに対する非表示もオフにして、すべてが元の状態に戻ったかに見せた。これにより、控訴人には徐々に歐娜アカウントのフォロワー流失が生じたが、控訴人は当該情状を知悉していない期間にも依然として運営コストを持続的に投入したので、支出した広告費用74,557台湾ドル(以下、係争広告料と称す)の損害を受けた。被控訴人の前期行為は、係争労働契約書第12条前段、係争秘密保持条項第2条第1項で約定された守秘義務に違反したため、係争労働契約書第12条後段、係争秘密保持条項第3条の約定に基づき、1か月の給与即ち3万台湾ドルの懲罰的違約金及び係争広告料74,557台湾ドル、合計104,557台湾ドルを賠償しなければならない云々である。原審は控訴人全面敗訴の判決を下したが、控訴人はこれを不服として控訴を提起し、下記の通り請求する。(一)原判決を破棄する。(二)前記破棄部分について、被控訴人は104,557台湾ドル、及び調停申立書が被控訴人に送達された翌日から弁済日まで、年利5%で計算した利息を控訴人に支払わなければならない。
(二)被控訴人の請求:
被控訴人は下記の通り主張する。歐娜アカウント、パスワードは両当事者間で約定された「機密情報」ではなく、たとえ被控訴人が守秘義務違反と認定されたとしても、被控訴人が歐娜アカウントを非公開状態、及び控訴人の人員をストーリーズ非表示リストに設定した行為は、必ず歐娜アカウントのフォロワー流失、又は何らかの損害を発生させるわけではない。被控訴人は係争投稿をアップロードしたことがあるが、当時被控訴人は単に退職後の歐娜アカウントの控訴人への返還が必要だったので、使用中のアカウントがまもなく変更との情報を友人に知らせるために、これをして初めて当該ストーリーズを投稿した。更に言うと、被控訴人が控訴人に雇われて編集を担当したことは、インターネットセレブリティのファンページという外観を以て、雇用主の指示に従い当該ページをフォローしているファンに対して商品を宣伝したり、又はステルスマーケティングを行うことで、商品の認知度の向上を期待するものであるため、運営していた歐娜アカウントには高度な属人性があり、被控訴人の退職後に控訴人は直ちに他の外観・イメージを用いて歐娜アカウントを他の社員に継続的に運営させることができなくなるものであり、自ずと控訴人が以前に投入した運営コストのすべてが控訴人の損害に該当するとしてはならない。なお且つ、双方当事者は2021年10月1日に口頭での和解が成立しており、被控訴人による口頭謝罪、並びに新規作成した「skoktfu」のIGアカウント及びパスワードの控訴人への引渡し後は控訴人も被控訴人の関連民事・刑事責任をもう追及しないことに合意しており、被控訴人も約定に基づき履行した。しかし、控訴人が再度被控訴人に対して損害賠償を請求したことは、適法であるとは言いにくい等である。また、被控訴人は、下記の通り答弁して請求する。控訴を棄却し、及び担保供託の上、仮執行免除宣告の許可を求める。
二 双方当事者の争点
(一)被控訴人は係争労働契約書第12条前段の約定に違反したか。控訴人が被控訴人に対して懲罰的違約金3万台湾ドルの支払いを請求したことには、理由があるか。
(二)控訴人は被控訴人の係争行為により損害を受けたか。控訴人が被控訴人に対して支出した広告料金74,557万台湾ドルの賠償を請求したことには、理由があるか。
(三)双方当事者は以前に既に被控訴人の係争行為について和解が成立しているか。それは本案件の控訴人の請求に影響するか。
三 理由
(一)被控訴人は、歐娜アカウント、パスワードを勤務目的違反となる範囲外で使用したため、係争秘密保持条項第2条第1項前段で約定された守秘義務に違反した。
1.係争労働契約書第12条には「もし乙(即ち被控訴人)が職務により甲会社(即ち控訴人)の営業秘密、技術情報、経営理念を含むがそれらに限らないものを知悉している場合、書面による別途の約定がある場合を除き、双方はいずれも守秘義務を負うものとし、もし乙の故意又は過失により、第三者若しくは自身に利益が発生したり、又は甲の損失を発生させた場合、乙は甲に対して懲罰的違約金として乙の1か月の給与所得を支払い、及び損害賠償の責任を負うものとする」と約定されており、また双方当事者が別途締結した係争秘密保持条項第1条第2項の約定に基づくと、「機密情報」とは「商業上、技術上又は生産上の概念、各発展段階でのアイデアデザイン、構図、イラスト、動画、企画、ビデオ制作、高品質ビデオ、スマホ撮影動画、ファンページ運営、バーチャルキャラクター制作、各類産品仕様、技術、模型、資料、文書、図表、フローチャート、研究、進展、製造プロセス、フロープロセス、配合成分、特殊な製造若しくは生産方法、及び専門技術、又はその他の内部文書資料、例えば、契約書、財務諸表、マーケティング戦略、芸能人マネジメントの技法、芸能人ステルスマーケティング費用、顧客リスト、メーカーリスト、給与、人事資料」であるため、被控訴人が係争労働契約書第12条の約定に違反したかを判断するには、上記の内容に基づき認定しなければならない。
2.控訴人がその中の「ファンページ運営」には歐娜アカウントのアカウント及びパスワードが含まれていると主張していることについて、高雄市セルフメディア労働組合連合会は書簡で本裁判所に下記の通り回答した。その概要は「『ファンページ』とは、芸能人、公人、企業・売店、ブランド、組織及び非営利団体がファン又は顧客との繋がりを作ることができる空間であり、個人所有のデータとは異なる。セルフメディア従業者の実務上の通念に基づけば、ファンページの作成は、個人ページ上でのこととなり、個人ページと同一のアカウント及びパスワードでログインし、ログイン後で初めてSNSプラットフォームの情報管理データ、ファン及びメーカーとの接触・メッセージ履歴とその関連情報…等のすべての重要なビジネス情報の内容がわかるようになる。SNSプラットフォーム(例えば、Facebook、Instagram、LINE、TikTok)の機能には情報の即時発信、顧客関係の管理、ブランドイメージの確立、データシステムの分析と管理等のビジネス情報が含まれているので、上記の運営行為はアカウント・パスワードでログインして初めて行うことができ、ファンページの運営と切り離せないものに該当する。よって、本労働組合で電話で関連メンバーに尋ねたところ、実務上の従業者からすればいずれも、SNSプラットフォームのアカウント及びパスワードは確かに『ファンページ運営』に重要な機密情報に該当し、雇われている管理者には確かに守秘義務があると思われる。」等の回答であった。したがって、控訴人が、歐娜アカウント及びパスワードはファンページの運営に重要な機密情報であると主張していることには、根拠がある。且つ歐娜アカウント及びパスワードについては、被控訴人のほか、控訴人の一部の職員(例えば、ディレクター、オペレーションマネージャー)のみが知悉しており、セッティング、更新、維持又はバックエンドデータの閲覧等の作業の権限があり、ユーザーが歐娜アカウントの身分でログインすると、直ちに当該アカウントのSNSプラットフォームにおけるすべての営業情報を入手することができるので、係争秘密保持条項第1条第1項で言う被控訴人が在職期間に入手又は知悉する情報に該当し、且つ当該情報はこれらの類の情報に通常関わる人に知られているものではなく、控訴人がこれに対して合理的な秘密保持措置を講じている「機密情報」である。
3.更に係争秘密保持条項第2条第1項の「甲(即ち被控訴人)は、乙に雇われている期間に知悉、又は保持する乙(即ち控訴人)の機密情報に対して守秘義務を負うことに同意し、且つ甲は乙の書面による同意を得ずに前記機密情報を勤務目的違反となる範囲外で使用してはならず、又はそれを漏洩、告知、引渡し若しくは他人への移転若しくは対外的公開をしてはならない」に基づき、また係争労働契約書第5条第1項で被控訴人の毎日の通常勤務時間は午前9時から午後6時までであると約定されていたこと、第2条第2項で勤務内容に「1.SNSの企画と執行であり、インターネットに対してセンシティブであり、SNSメディアを熟知している。2.ホームページ及びSNSの内容の発案(画像、投稿、ビデオ編集の企画と操作)。3.キャンペーン企画についてのアイデア発想力。4.SNSにおけるキャンペーンの提案、企画と実行(仮想空間、実体)、インターネット投稿原稿の作成、及び閲覧者の閲覧習慣の把握。5.グループ内部のブランドについてのSNS内容及びその出演。6.グループ内部のビデオ出演。7.その他管理者が指示した事項。」が含まれると約定されていたことにも基づくと、被控訴人が歐娜アカウントを使用して行った係争行為は、夜中又は未明等の双方当事者の約定した勤務時間ではない時間帯に行われ、且つその職務内容と明らかに関係がなく、控訴人からの指示を受けて行ったものでもないため、確かに被控訴人は歐娜アカウント、パスワードを勤務目的違反となる範囲外で使用して係争秘密保持条項第2条第1項前段、係争労働契約書第12条前段の守秘義務の約定に違反したと認定すべきである。
(二)控訴人が係争労働契約書第12条後段及び係争秘密保持条項第3条の約定に基づき、支出済の広告料74,557台湾ドル及び懲罰的違約金3万台湾ドルの賠償を被控訴人に請求したことには、理由がある。
1.控訴人は、被控訴人が退職前に行った係争行為を知悉していなかったので、直ちに労働基準法第12条第1項第4号の規定に基づき被控訴人を解雇することができず、2021年5月から8月までの間も依然として歐娜アカウントのマーケティングを行うために広告費用を持続的に投入していた等の事情を主張し、また証明として広告費用の明細も提出した。調べたところ、控訴人は、FBに歐娜アカウントのインプレッションのためのペルソナ分析及びトラフィックを購入するために(業界においては「広告」と通称する)、広告代理店に料金を支払い、それを広告代理店がFBに支払い、ステルスマーケティングメーカーがインターネットセレブリティのトラフィックにより広告出稿するかを決めていたが、もし広告の訪問数が少ない場合は、メーカーの広告出稿の意欲に影響する。控訴人は歐娜アカウント及び歐娜アカウントの人物像・ペルソナ分析を以て広告に注力し、権限のあるいずれかのファンページにも掲載可能であったので、控訴人が投入した係争広告料は歐娜アカウントのマーケティングのためのものであり、仮に被控訴人が行った前記の忠実義務違反、競業避止義務違反の係争行為を知悉していたならば、当然被控訴人も同人を主役として資金を投入して広告を撮影して商品マーケティングをしたり、また資源を持続的に被控訴人に投下することもなく、更にこれによる広告代理店への広告料支出もなかった等との控訴人の主張は、採用することができる。
2.被控訴人が係争秘密保持条項第2条第1項前段及び係争労働契約書第12条前段の守秘義務に関する約定に違反したので、控訴人は、これにより受けた損害について、自ずと係争労働契約書第12条後段、係争秘密保持条項第3条の「もし甲(即ち被控訴人)が本契約書の条項違反の事情又は乙(即ち控訴人)の権益に損害を与える行為をした場合、甲は、乙の管理規則に基づき処分を受けなければならないほか、法に基づき民事、刑事責任も負わなければならない。」との約定に基づき、被控訴人に賠償を請求することができる。したがって、控訴人が被控訴人に対して1か月の給与、即ち3万台湾ドルの懲罰的違約金及び係争広告料74,557台湾ドルの賠償を請求したことには、根拠がある。
(三)双方当事者の間には、被控訴人による新規作成のアカウント及びパスワードの引渡し後、控訴人はもう追及しないという和解契約が成立していないので、控訴人は自ずと再度本案件の請求をすることができる。
1.和解は、当事者が放棄した権利を消滅させ、及び当事者に和解契約に定めた権利を取得させる効力を有することが、第737条において明確に規定されている。ただし、和解の範囲については、当事者の間で互いに解決しようとする争点に限るべきであり、一方、他の争点又は争議が未発生の法律関係については、和解事件と関係しても、もし当事者にそれを併せて解決する意思がない場合、その権利者が当該権利の留保を表明していないだけで、当該権利も既に和解により譲歩、放棄されたものと見なして消滅したと認定してはならない(最高裁判所57年度台上字第2180号判決趣旨を参照)。
2.被控訴人は、証人即ち被控訴人の恋人の、「2021年10月1日に被控訴人に同行して控訴人の会社に行き、相手方の和解条件、即ち被控訴人が新規作成した「skoktfu」というIGアカウント及びパスワードを控訴人に引渡せば、控訴人も被控訴人に対してこれ以上追及しないことに同意した」という取調べの際の証言を以て、及び被控訴人が2021年10月2日にLINEで上記新規作成したアカウントとパスワードを送ったとのメッセージ履歴スクリーンショットを以て証拠とした。しかし、証人と被控訴人は親密な関係である同棲中の恋人であり、2人とも、相次いで退職するまでは元々控訴人会社の社員であり、証人と控訴人との間にも民事、刑事及び行政訴訟が数多くあるため、証人が被控訴人のために防御して、敵対的な立場にいる控訴人に不利な証言を行った可能性があり、その証言は信憑性が薄い。更に、被控訴人が提出した双方当事者のメッセージ履歴のスクリーンショットを見ると、それは単なる被控訴人が控訴人の要求に応じて新規作成した「skoktfu」アカウント及びパスワードを引渡したメッセージ履歴であり、控訴人がこれ以上追及せずに他の請求を放棄する意思は表明していないので、自ずとこれを根拠に被控訴人に有利な認定をすることはできない。よって、被控訴人の上記抗弁は採用できない。
以上の結論により、控訴人が104,557台湾ドルの支払い、及び調停申立書送達の翌日から弁済日まで、年利5%で計算した利息を被控訴人に請求したことには理由があり、許可すべきである。原審が控訴人敗訴の判決を下したことは、自ずと妥当ではなく、控訴の趣旨で原判決が不当であると指摘し、破棄及び判決の変更を請求したことには理由があるので、本裁判ではこれを破棄し、主文第2項の通りの変更判決を下す。
2024年3月15日
労働法廷
裁判長裁判官 朱玲瑶
裁判官 呂明龍
裁判官 楊捷羽









