元会社の営業秘密の技術を現職会社の特許出願の関連文書として使用して元会社の営業秘密を侵害した。

2024-04-22 2023年

■ 判決分類:営業秘密

I 元会社の営業秘密の技術を現職会社の特許出願の関連文書として使用して元会社の営業秘密を侵害した。

■ ハイライト
原告の頎邦公司がChip on Film(以下、COFと称す)を生産する欣宝公司を合併した。被告李〇、黄〇雪、蔡〇元々はいずれも欣宝公司の部長職レベル以上の上層幹部であったが、欣宝公司の競合会社である易華公司に次々と転職し、上層幹部に就任した。また、蔡〇が欣宝公司の在職中にその職務で制作した技術文書A、Cを易華公司に持ち込み、さらにそれを基に特許を出願したことによって、頎邦公司の営業秘密の技術が特許査定により公開され、秘密性を喪失した。
頎邦公司は、蔡〇を相手取って訴えを提起し、蔡〇の上記の行為が頎邦公司の営業秘密を侵害したと主張し、法により蔡〇に損害賠償を請求するとともに、李〇、黄〇雪も蔡〇の上司であり、上記の状況を知っていたのにもかかわらず、やはり蔡〇の特許出願を許可したことで、頎邦公司の営業秘密が公開されたので、共同で侵害責任を取らなければならないと主張した。
被告らは、技術文書A、Cには秘密性、経済的価値がないと抗弁し、且つ欣宝公司が合理的な秘密保持措置を講じていなかったので、技術文書Aは営業秘密に該当しないと主張した。
本事件は双方の協議を経て、「営業秘密及び侵害の認定」について中間判決を下すことができ、知的財産及び商事裁判所が審理したところでも、この部分は裁判をすることができる程度に至っていると判断したので、李〇、黄〇雪、蔡〇は共同で頎邦公司の営業秘密を侵害したと認定する中間判決を下した。裁判所の見解は下記の通りである。
一、技術文書A、Cは頎邦公司が所有する営業秘密である。
技術文書A、Cは、被告蔡〇が欣宝公司の在職中に制作したものである。一方、頎邦公司は、頎邦、欣宝両社の合併後の存続会社であり、欣宝公司のすべての資産及び権利、義務を引き継いだので、技術文書A、Cは頎邦公司が所有するものである。また、技術文書A、Cに記載の情報は「秘密性」、「経済的価値」があり、且つ欣宝公司が既に「合理的な秘密保持措置」を講じたので、技術文書A、Cは営業秘密である。
二、侵害の認定について
特許における一部の請求項と、技術文書Aに記載の一部の情報は、実質的な同一を構成している。被告蔡〇が技術文書A、Cの電子ファイルを無断で複製し、またそれを基に上記の技術内容と事実上同一の特許請求の範囲を出願したのは、営業秘密法第10条第1項第4号規定で規定されている営業秘密の侵害の状況に該当する。被告李〇、黄〇雪は易華公司に就職した後、蔡〇の上級管理者であるので、蔡〇が特許を出願する行為が、技術文書Aを公開して秘密性を失わせるものであることを主観的に知っていたのにもかかわらず、やはり当該特許出願を許可したことは、故意に該当する。したがって、李〇、黄〇雪の行為と蔡〇の侵害行為は、いずれも頎邦公司の損害の共同原因であり、当然共同不法行為が成立するはずである。

II 判決内容の要約

知的財産及び商事裁判所民事中間判決
【裁判番号】108年度〔2019年度〕民専訴字第101号
【裁判期日】2023年2月24日
【裁判事由】特許権の確認等(労働)

原告 頎邦科技股份有限公司
法定代理人 呉〇
被告 易華電子股份有限公司

上記の法定代理人 黄〇能
被告 李〇、黃〇雪、蔡〇、夏〇、林〇

上記当事者間における特許権の確認請求等の事件は、本裁判所で2022年12月23日に営業秘密及び侵害認定の部分について、口頭弁論が終結したので、下記の通りの中間判決を下す。

主文
付表二番号1-1から1-3、3の技術内容欄の記載は、原告所有の営業秘密である。
付表一番号1に記載の被告李〇、黃〇雪、蔡〇が行った特許出願は、付表二番号1-2の技術内容欄に記載の原告所有の営業秘密を共同で侵害した。
付表一番号2に記載の被告李〇、黃〇雪、蔡〇が行った特許出願は、付表二番号1-3の技術内容欄の原告所有の営業秘密を共同で侵害した。
付表一番号5に記載の被告李〇、黃〇雪、蔡〇が行った特許出願は、付表二番号3の技術内容欄の原告所有の営業秘密を共同で侵害した。

事実及び理由
壱、手続きについて
一、各種の独立した攻撃又は防御の方法が、裁判をすることができる程度に至った際に、裁判所が中間判決を下すことができることは、民事訴訟法第383条第1項で明文で規定されている。また、知的財産の侵害に関する民事訴訟について、その損害額の審理を、侵害が成立するかに関する口頭弁論が終結した後に行われなければならないことも、知的財産案件審理細則第35条本文で明文で規定されている。本裁判所は、双方による中間判決、即ち営業秘密及び侵害の認定の部分についての協議が、裁判をすることができる程度に至っていると判断したので、本中間判決を下す。

二、原告が本裁判所2016年度民営訴字第12号民事訴訟、台湾高雄地方裁判所2019年度智訴字第2号刑事付帯民事訴訟の二つの事件において、「被告易華公司が悪意でヘッドハンティングし、被告李〇らが不正な方法で原告の営業秘密を入手し、また原告によるエッチング加工技術の完全な易華公司への移転により、易華公司が2104年にエッチングの生産ラインを再開してCOF製品を生産できるようにしたが、それが正常な取引秩序に影響を与え、原告のCOF出荷量を減少させ、損害をもたらした」と主張したことと、本事件の訴訟における「被告李〇らが2018、2019年に原告の営業秘密の内容を特許甲から己の出願に使用したことにより、その営業秘密が公開されたので、この漏洩行為は原告に侵害をもたらし」との原告の主張は、その両者の侵害時期、侵害行為及び原告が主張している損害を受けた範囲がいずれも異なり、訴訟物も完全に同一ではないので、同一の事件ではなく、自ずと原告は本事件の訴訟を提起することができるので、同一の事件をさらに請求するものではない。

弐、実体部分について
一、原告の主張
(一)欣宝公司はCOFを生産する製造メーカーであり、2014年8月1日に原告と合併した後、原告がその存続会社となり、欣宝公司に所属する営業秘密である「付表二番号1から4に記載の技術文書AからD」を含むすべての資産及び権利義務を引き継いだ。一方、被告易華公司もCOFを生産する製造メーカーであり、原告との間に直接的な競争関係がある。
(二)原告は2019年8月から、被告易華公司が出願し、且つ知的財産局により査定された特許甲から己の内、特許甲、乙、丙の技術特徴が、付表二番号1-1から1-4の技術内容欄に記載の原告所有の技術文書Aと同一であること、また特許丁、戊、己の技術特徴が、付表二番号2から4の技術内容欄に記載の原告所有の技術文書B、C、Dと同一であることを次々と発見した。
(三)原告の請求
1.原告が特許甲から己の共同出願権者であることを確認する。
2.被告らは、原告にX万台湾ドルを連帯して支払わなければならず、及びいずれも2019年12月12日から弁済日まで、年利5パーセントで計算した利息を支払わなければならない。もし上記の内、一人の被告が既に支払った場合、他の被告はその支払い範囲内で支払い義務が免除される。 

二、被告の主張
(一)技術文書AからDはいずれも営業秘密に該当しない。たとえ技術文書AからDが営業秘密であり、且つ李〇、黃〇雪、蔡〇、夏〇及び林〇が技術文書 AからDに接触したことがある又はそれを被告易華公司に持ち込んだと認定されたとしても、当該技術文書の内容は既に公開されていて秘密性がないので、特許甲から己の出願行為を以て、技術文書AからDが公開されたから損害を受けたと原告が主張することはできない。
(二)被告の請求
1. 原告の訴え及び仮執行の申立てをいずれも棄却する。
2. もし不利な判決を受けた場合、担保を供することができるので、仮執行免除の宣告を請求する。
3. 訴訟費用は原告の負担とする。

三、双方当事者が争わない事項
(一)被告李〇、黃〇雪元々はそれぞれ欣宝公司の総経理と副総経理であり、2013年半ばに退職した後、2014年7月1日に被告易華公司に招聘され、それぞれ総経理と副総経理に就任した。被告蔡〇、夏〇、林〇は元々はいずれも欣宝公司の上層幹部であり、2013年末に退職した後、2014年4月1日に被告易華公司に赴任した。
(二)被告易華公司は、2018年から2019年の間に次々と知的財産局に特許出願をしており、また査定されて特許甲から己の特許権を取得した。被告蔡〇、夏〇、林〇はそれぞれ特許甲から己の発明者又は創作者である。

四、本裁判所が心証を得た理由
(一)付表二番号1-1から1-3、3の技術内容欄に記載の技術文書A、Cは原告が所有する営業秘密である。
1. いわゆる「秘密性」は、「業界の基準」によるものであり、即ち、「一般大衆」が知らないものでなければならないほか、「関連専門分野の者」も知悉していなくて始めて「秘密性」の要件を満たす。この要件は自ずと営業秘密の所有者が挙証責任を負わなければならないので、もし所有者が既に挙証責任を果たしたのにもかかわらず、相手方がやはり前記事実を認めない場合、自ずと相手方はこの自らに有利な事実、即ち当該情報が「既に当該情報にかかわる者に知られていた」ことについて、挙証責任を負わなければならない。
2. いわゆる「経済的価値」とは、ある情報が時間、労力、コストの投入を経て得られたものであり、使用上、他の情報に従属する必要がなく、独立して存在するものを指し、また、それに伴った有形の金銭的収入のほか、市場シェア、研究・開発の能力、業界をリードした時間等の経済的利益又は競争の優位性もやはり含まれる。他人による無断入手、使用又は漏洩は、秘密の所有者の経済的利益の損失又は競争の優位性の減少を招くに足るものである(最高裁判所107年度〔2018年度〕台上字第2950号刑事判決)。経済的価値には、実際の経済的価値が含まれるのみならず、潜在的な経済的価値も含まれるので、もし他の競争者の営業秘密の入手により学習時間又は錯誤の減少ができ、試行錯誤のコストが削減できるならば、やはり潜在的な経済的価値がある。
3. いわゆる「合理的な秘密保持措置」は、秘密の所有者に主観的にそれを保護する意思があり、且つ客観的に秘密保持のために積極的な行為があり、当該情報を秘密として守る意思を有する姿勢を見せることを指す。所有者が講じる秘密保持措置は「有効」でなければならず、そうして始めてその情報の秘密性を維持することができる。ただし、「一滴の水も漏らさない」程度に達する必要までは求められておらず、所有者がそのマンパワー、財力に基づき、またその情報の性質により、社会において通常考えられる方法又は技術を以て、当該専門分野の者に知悉されていない情報を簡単に任意に接触されない方法で管理して秘密保持の目的を達成することができるのであれば、「合理的な秘密保持措置」の要求を満たしている。例えば、当該営業秘密を取扱う者に対する内部統制、文書における「機密」又は「閲覧禁止」等の目印の表示、営業秘密の資料についての施錠、パスワードの設定、セキュリティ対策の徹底(例えば、訪問者が機密文書保管所に近づくことを制限する)等を総合的に判断する。
4. 調べたところ、付表二番号1-4、2、4の技術内容欄に記載の技術文書A、B、Dは、「秘密性」がないため、自ずと営業秘密に該当しない。一方、付表二番号1-1から1-3、3の技術内容欄に記載の技術文書A、Cは、「秘密性」、「経済的価値」があり、及び「合理的な秘密保持措置」も講じていたので、自ずと原告所有の営業秘密に該当する。

(二)被告が提示した証拠を総合的に見て、特許甲から己の特許請求の範囲に記載された技術特徴、即ち解決しようとする問題又は達成効果の構想、及び当該構想を達成するための技術手段は、名義上の特許権者、登記発明者又は創作者が発想したものであるかを判断すると、特許甲請求項13、特許乙請求項1、特許戊請求項1は、それぞれ付表二番号1-2、1-3の技術内容欄に記載の技術文書A、付表二番号3の技術内容欄に記載の技術文書Cと実質的に同一を構成し、且つ前記技術内容から派生して獲得したものであると認定すべきである。したがって、李〇、黃〇雪、蔡〇、夏〇、林〇が原告の同意又は許諾を得ずに原告に帰属する「付表二番号1-2、1-3の技術内容欄に記載の技術文書A」、「付表二番号3の技術内容欄に記載の技術文書C」の情報を、特許甲、乙、戊として出願する方法で公衆に公開したことは、自ずと原告の営業秘密侵害に該当する。

(三)一方、被告「黄〇能」の部分について、原告は以下の通り主張した。被告黄〇能は易華公司の代表者であり、彼は遅くとも2016年8月25日に検察・調査機関による捜索と押収の後に既には被告李〇が無断で原告の営業秘密の複製にかかわったことを知悉したにもかかわらず、やはり被告李〇らがそれを易華公司の名義で特許出願することに同意して授権し、さらに公開の方法で実質的な技術内容を漏洩したことで、営業秘密法第10条第1項第2号で定める営業秘密の侵害に該当する云々。しかし、原告が提出した台湾高雄地方検察署宛の起訴状によると、被告「黄〇能」は当該案件の被告人ではなく、且つ捜査非公開の原則に基づけば、同人が2016年8月25日に検察・調査機関による捜索と押収の際、被告李〇らが無断で複製した原告の営業秘密が何であるかを知悉することができるか、さらには当該営業秘密の技術内容を確認することができるかについては、実に疑わしい。なおまた、被告易華公司は確かに2018、2019年に係争特許甲から己を出願した行為があるが、上述の特許甲、乙、戊の「一部の請求項」が確かに原告の技術文書A、Cの付表の技術内容欄に記載の「一部の情報」と実質的に同一である状況を除き、他の部分の請求項はいずれも被告易華公司自らの技術又は公開の情報を通じた出願であったので、被告「黄〇能」が主観上被告易華公司が特許甲から己を出願することができると考えていたことについても、辻褄に合わないと認めることが困難であり、したがって同人に故意又は過失で原告の営業秘密を侵害した事情があると認定することはできない。よって、被告「黄〇能」は被告李〇らと連帯で損害賠償の責任を負わなければならないという原告の主張は、根拠がないものである。

(四)法人はその取締役又はその他代表権を有する者が職務の執行によって他人に加えた損害に対し、その行為者と連帯して損害賠償の責任を負わなければならないと、民法第28条に明文で規定されている。いわゆる職務の執行とは、外観上は機関の職務行為、社会通念上は職務行為と適切な関係性のある行為であると考えるに足りるすべてのものが、これに該当する。したがって、職務上の機会、及び職務執行の時間又は場所と密接な関係のある行為を利用することで、客観上職務執行と関係があって他人の権利を不正に侵害したと十分に認められるものも、自己の利益のための違法行為に該当するので、「職務の執行」に含まれる(最高裁判所107年度〔2018年度〕台上字第33号判決参照)。調べたところ、被告李〇は被告易華公司の総経理であり、易華公司の実際の運営の執行及びその責任を負い、当該公司内部の最高経営責任者であり、対外的に当該公司の代表権を有する者に該当すると考えられる。被告李〇が被告易華公司の名義で特許甲、乙、戊を出願取得したことは、総経理の立場で職務執行の際に行ったことなので、当該行為が付表二番号1-2から1-3、3に記載の技術内容の通りである原告所有の技術文書A、Cを侵害した以上、被告易華公司は当然のことながら被告李〇が賠償しなければならない金額について、民法第28条における侵害賠償の法人連帯責任を負わなければならない。

(五)他方、被告易華公司が民法第28条の規定により被告「黄〇能」、黄〇雪と連帯して損害賠償を負わなければならないこと、及び被告易華公司が公司法第23条第2項の規定により被告「黄〇能」、李〇、黄〇雪と連帯して損害賠償を負わなければならないという原告による主張の部分について、原告は、原告の権利に対して被告「黄〇能」にどのような不正侵害の行為があったのかに関して挙証して証明しておらず、何故被告黄〇雪が会社の董事又は他の代表権のある者に該当するかの事実も説明しておらず、又は関連証拠も提示していない。さらに原告は、本事件の共同侵害者は特許甲から己に記載の発明者又は創作者及び被告「黄〇能」、李〇、黄〇雪であると述べているが、被告易華公司が本事件の共同侵害者ではない以上、被告「黄〇能」、李〇、黄〇雪も公司法第23条第2項によりそれと連帯することはありえず、同主張は当該条項の構成要件を満たしていない。したがって、この部分についての原告の主張はいずれも採用することができない。

五、以上を総じると、付表二番号1-1から1-3、3の技術内容欄に記載の技術文書A、Cは、原告所有の営業秘密である。被告李〇、黄〇雪、蔡〇は特許甲、乙を出願して共同で、それぞれ付表二番号1-2から1-3の技術内容欄に記載の技術文書Aに関する原告の営業秘密を侵害した。被告李〇、黄〇雪、蔡〇、夏〇、林〇は特許戊を出願して共同で、付表二番号3の技術内容欄に記載の技術文書Cに関する原告の営業秘密を侵害した。本件訴訟における原告の訴えについては、上記の判断を前提としてさらに審理を続ける必要があるので、主文の通り、先に中間判決を下す。

2023年2月24日
知的財産第三法廷裁判官潘暁玫
上記の正本は原本に基づいて作成されたものである。独立して控訴してはならない。
書記官李建毅

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