刑事告訴権を持たずに告訴した中華音楽著作権協会、カラオケプレーヤー業者に与えた損害に賠償責任あり

2014-05-15 2011年

■ 判決分類:著作権

I 刑事告訴権を持たずに告訴した中華音楽著作権協会、カラオケプレーヤー業者に与えた損害に賠償責任あり

■ ハイライト
中華音楽著作権協会(MUST)は4年前に音圓国際股份有限公司(Inyuan Technology Inc.、以下「音圓公司」)を相手取り日本楽曲の著作権を侵害したとして告訴した。音圓公司もこれを不服とし反対にMUSTを提訴して損害賠償を請求した。知的財産裁判所は、MUSTには告訴権がないにも関わらず告訴して音圓公司に損害を負わせたため、MUSTと当時の董事長(理事長)を務めていた芸能人の包小松に対して150万新台湾ドルを連帯で賠償するよう命じる判決を下した。
裁判所の調査によると、MUSTは日本音楽著作権協会(JASRAC) と提携し、台湾における日本の楽曲の複製権をJASRACに代わって管理している。4年前にMUSTは法務部調査局の嘉義県調査站(Field Office)に対して、当時カラオケプレーヤーの最大手だった音圓公司のカラオケプレーヤーに入っている日本の楽曲数十曲が著作権を侵害していると告訴を提起し、法執行機関が100台余りのカラオケプレーヤーを押収した。
当時著作権侵害事件としてマスメディアが大きく取り扱ったため、音圓公司はグッドウィルを損なわれたとしてMUSTおよび当時の董事長である包小松に損害賠償請求を行っていた。【2011-05-16/聯合報/A8面/社会】

II 判決内容の要約

基礎データ

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】99,民他上更(一),1
【裁判期日】2011年5月5日
【裁判事由】知的財産権の不当行使に係わる係争事項
上  訴  人 音圓国際股份有限公司(Inyuan Technology Inc.)
法定代理人 荘嘉賓
被上訴人   社団法人中華音楽著作権協会(MUST)
法定代理人 呉楚楚
被上訴人   包小松
           黄慶元
           方致怡

以上の当事者間の知的財産権不当行使係争事件をめぐり、上訴人は台北地方裁判所2009年3月27日97年度智字第66号第一審判に対して上訴を提起し、最高裁判所は第一次差戻審を行うよう命じた。知的財産裁判所は2011年4月21日口頭弁論を終え、以下のように判決を下した。

主文
原判決(確定部分を除く)における後述の被上訴人側の主張第二項の棄却と被上訴人に対する訴訟費用の負担命令をいずれも破棄する。
前述の破棄部分については、被上訴人である社団法人中華音楽著作協会ならびに包小松は上訴人に対して150万新台湾ドルならびに2008年6月10日から支払日までの期間の年利5%で計算した利息を連帯で支払うものとする。
その他は上訴を棄却するものとする。
第一審(確定部分を除く)、第二審および差戻前の第三審の訴訟費用は上訴人が二分の一を負担し、残りを被上訴人である社団法人中華音楽著作協会と包小松が連帯で負担するものとする。

一 事実要約
(同ハイライト,略)

二 両方当事者の請求内容
(一) 上訴人の起訴主張:被上訴人である包小松および方致怡は2007年3月に被上訴人MUSTの董事長および総経理の任にあった。被上訴人は上訴人による訴外人・一般社団法人日本音楽著作協会(原名:社団法人日本音楽著作協会、以下「JASRAC」とする)の著作権侵害が故意ではないと知りながら、2007年5月3日法務部調査局嘉義県調査站(以下「嘉義県調査站」)に通報、告訴し、上訴人が生産するカラオケプレーヤーの中の日本楽曲部分に著作権法違反があると指摘した。それにより上訴人のカラオケプレーヤー300台近くが押収された。この事が国内の大手マスメディアによって大々的に報道され、被上訴人MUSTはその後告訴の取り下げを拒否した。上訴人は被上訴人が刑事告訴の提起を濫行したことにより、上訴人は社会における評価が毀損され、メーカー特約店および消費者は上訴人が生産するカラオケプレーヤーに対して疑惑を抱き、市場における販売台数が大幅に減少し、上訴人は売上高の損失を受けた。そこで民法第184条第1項、第195条第1項、民法第28条、第188条第1項前半の規定に基づき、被上訴人に対して連帯で損害賠償支払いを行うよう請求する。10,000,000新台湾ドルならびに起訴状副本が送達された翌日から支払日までの期間の年利5%で計算した利息を支払うことを被上訴人に命じる判決を請求する。ならびに担保の供託を希望し、仮執行の宣告を請求する。
(二) 被上訴人の抗弁:被上訴人MUSTが国際提携を通じてJASRACと締結した実施許諾契約書を以て、JASRACは被上訴人MUSTにJASRACが管理する楽曲の「複製権」実施を許諾している。著作権仲介団体条例第36条の規定に基づき、被上訴人MUSTは専用実施権許諾の管理権限を取得した。上訴人のカラオケプレーヤー内にあるMIDI形式の「日本の旋律、日本の歌詞」の音楽部分が著作権法第91条の複製権に関する規定に抵触したとして、被上訴人MUSTは2007年6月15日に法に基づいて告訴を提起した。また被上訴人MUSTはJASRACの複製権を管理し、善良な管理人の責任を尽くしており、いかなる違法もない。ゆえに被上訴人は法に基づき告訴権を行使した権利侵害行為の故意または過失はない。さらに上訴人は被上訴人MUSTの告訴によって営業損失、商品押収などの損害を受けたと主張しているが、上訴人は受けた損害の挙証責任を果たしていない。法執行機関が捜索を発動した後、著作権侵害に係わる物品を押収したのは、捜索を行う公務員が法に基づいて行った強制処分であり、権利侵害による損害とは認められない。
(三) 原審では上訴人に対して敗訴の判決を言い渡した。上訴人はそのうち3,000,000新台湾ドルの元金利息について不服として上訴したが、その他の7,000,000新台湾ドルの元金利息については不服を表明せず、この部分の判決は確定している。当裁判所98年度民他上字第4号判決では上訴人の上訴を棄却し、その後最高裁判所99年度台上字第629号判によって判決破棄と当裁判所への審理の差戻しを決定した。
(四) 上訴人による当裁判所の差戻審での補充主張:1.被上訴人MUSTの仲介業務には音楽著作の「複製権」は含まれておらず、かつ被上訴人MUSTがJASRACと2005年5月1日に交わした機械的複製権契約の第I条第(1)項、第(2)項、第II条の約定において、被上訴人MUSTはJASRACを「代表」または「代理管理」する台湾における楽曲複製権を取得したにすぎず、楽曲複製権の「専用実施権許諾」ではない。被上訴人MUSTは2007年5月3日にJASRACの複製権を専用実施する被許諾人として自分の名義で上訴人を相手取りJASRACの複製権を侵害したとして告訴した。これは上訴人の権利、信用を故意かつ違法に侵害した権利侵害行為に属する。2.たとえ被上訴人MUSTが専用実施権許諾を取得していないと明確に知らなかったとしても、過失による権利侵害行為責任を負わなければならない。3.被上訴人MUSTが違法に刑事告訴を提訴し、捜索を請求したことで上訴人は型番「S-2001 XR480」カラオケプレーヤーおよびハードディスクを押収され、使用できなかったため収益を得ることができなかった。これは上訴人の権利行使に対して妨害を構成している。
(五) 被上訴人による当裁判所の差戻審での追加抗弁:被上訴人MUSTはJASRACが管理する楽曲の複製権を専用実施することを許諾されており、2005年5月1日に機械的複製権契約を締結している。ゆえに被上訴人MUSTはJASRACの複製権を侵害した上訴人を告訴したことは、権利の合法的行使であり、権利侵害行為とは言えない。たとえJASRACが事後MUSTに専用実施権許諾したとしても、告訴権の補正に属し、被上訴人であるMUSTの上訴人に対する告訴は合法だといえる。

三 本件の争点
(一)被上訴人MUSTがJASRACの複製権を専用実施する被許諾人の身分で上訴人を相手取りJASRAC複製権の告訴を提起したことは上訴人の権利、信用を侵害しているのか否か。
(二)上訴人は民法第184条第1項前半、第195条第1項、第28条の規定に従い、被上訴人が連帯で賠償責任を負うことを請求できるのか否か。

四 判決理由の要約
(一) 被上訴人MUSTは2007年5月28日上訴人を著作権違法で告訴した:
被上訴人MUSTは2007年5月3日に刑事告訴及び捜索申立書を作成し、さらに馮懷生に委任して同年同月28日に嘉義県調査站に対して著作権侵害の告訴を提出しており、被上訴人が供述したように被上訴人MUSTは検察官が同年6月5日に搜索を完了した後に告訴状を提出したのではなかった。
(二) 被上訴人MUSTは複製権を専用実施する被許諾人という身分で自らの名義を用い、本件の告訴を提起している:
被上訴人MUSTが2007年5月3日に作成した刑事告訴及び捜索申立書には、被上訴人MUSTがJASRACから付表1に示されている音楽著作の複製権の全権管理を許諾・委託されていること、被上訴人MUSTはすでにJASRACとの契約締結によって専用実施権許諾の管理権限を取得していること、上訴人は被上訴人MUSTが管理する付表1に示される音楽著作の複製権を侵害したこと等が記載されており、本件の重点は被上訴人が以前告訴を提起した時点ですでにJASRACの専用実施権許諾を受けていたかどうかにある。
(三) 被上訴人MUSTはJASRACから付表1に示される音楽著作の複製権に関する専用実施権許諾を受けていなかった:
被上訴人MUSTは上訴人に対して刑事告訴を提起したが、音楽著作複製権を専用実施する被許諾人として上訴人がJASRACの複製権を侵害したと指摘した。被上訴人は2007年5月28日に告訴を提起した時点で、その組織規約第6条第1項規定により、その管理する権利の範囲には音楽著作の複製権が含まれていなかった。
被上訴人MUSTは付表1に示される音楽著作の専用実施権の被許諾人ではなく、単にJASRACの代理人としてJASRACのために付表1に示される音楽著作の複製権を代理管理しているにすぎなかった。しかし2007年5月28日に複製権を専用実施する被許諾人として自らの名義を用い上訴人に対して本件の告訴を提起しており、これには疑義が認められる。
(四) 被上訴人MUSTが構成する権利侵害行為:
被上訴人MUSTは同年11月29日の時点でその組織規約第6 条第2項規定に基づき、JASRACとは委任契約を結び、JASRAC名義で複製権の代理管理を行うことしかできず、専用実施する被許諾人の立場で自らの名義を用い上訴人に対して刑事告訴を提起することはできないとわかっていた。被上訴人MUSTは告訴権がないと知りながら、故意に本件の告訴を提起し、検察官に捜索手続きを発動させたことで、上訴人が所有するカラオケプレーヤー「音圓電脳伴唱機(製品)」136台等の物品を押収され、かつ多数の新聞メディアによって上訴人が販売するカラオケプレーヤーが著作権を侵害し、検察の取り調べを受けた等と報道がされるという事態を招いた。被上訴人MUSTは故意に上訴人の押収物品に対する所有権と信用を侵害した。
被上訴人MUSTが直接自らの名義で本件の告訴を提起し、検察官が捜索手続きを発動し、上訴人が所有するカラオケプレーヤー(製品)等の物品は2007年6月5日に押収された。法による押収という強制処分ではあるが、押収された期間中は上訴人が自由に処分、使用、販売することができない。現在カラオケプレーヤーの競争は厳しく、製品のライフサイクルは短い。被上訴人MUSTはこの状況を予見していた可能性があり、客観的にみて上訴人の当該押収物品に対する所有権の正常な行使は妨害されており、これは所有権の侵害にあたる。
当時上訴人は台湾最大規模のカラオケプレーヤーメーカーであり、同市場で高いシェアを占めていた。そのカラオケプレーヤーに内蔵されている音楽著作に権利侵害の問題があるとなれば、客観的にみてそれを知った一般大衆(業界関係者、メーカー特約店、小売店、消費者等を含む)は上訴人の経済活動における信頼性に否定的な評価を持ち、上訴人が築いてきた信用は損なわれ、低落して、上訴人のグッドウィルと信用は損害を受けてしまう。
嘉義地検署は本件の捜索請求以前に、被上訴人MUSTに合法的な告訴権があるかどうかを確認してから捜索の請求を行うべきだった。しかしながら検察官は告訴で犯罪容疑者が分かっていたため即刻調査を開始しなければならなかった。被上訴人MUSTが単にJASRACの代理人でJASRACの名義で訴訟を行うべきであり、自らの名義では告訴を提起する権利がないと分かっていたはずだった。しかしながら2007年5月28日に専用実施する被許諾人として嘉義県調査站に訴追の意志を表明している。当時提出した証拠は著作権仲介団体設立許可証、法人登記証書、機械的複製権契約原本、カラオケプレーヤー、唱歌集、楽曲選択画面の写真、統一発票(領収書)、名刺で、中国語翻訳は添付されていなかった。有効に著作権を保護するため、嘉義地検署の検察官と嘉義県調査站は被上訴人MUSTが提出した告訴の内容と証拠を調べた後、被上訴人MUSTの陳述を信じて上訴人に犯罪の容疑があると判断した。関連の捜索によって、被上訴人MUSTの告訴行為は本件搜索・押収、その後の新聞報道とは大いに因果関係がある。
被上訴人MUSTは組織規定第6条第2項の代理管理規定に基づくことなく、直接自らの名義で本件の告訴を提起し、検察官に捜索・押収の強制処分手続きを発動させ、上訴人および荘嘉賓の著作権法違反の容疑の有無を取り調べたことは、上訴人が合法的訴追手続きにおいて正当な手続きの保障を受けることに影響を及ぼしている。被上訴人がその後民事裁判所に上訴人がJASRAC著作権を侵害したと認定された行為を以って、直接被上訴人MUSTが告訴を提起するという瑕疵を正当化し、その責任を逃れることは許されない。
以上をまとめると、上訴人は民法第184条第1項、第195条第1項前半の規定に基づいて被上訴人MUSTに損害賠償責任を負うことを請求するのに法的根拠がある。
(五) 被上訴人包小松は被上訴人MUSTと連帯で権利侵害の損害賠償責任を負うものとする:
1. 法人はその董事またはその代表権を有する人員が職務執行により第三者に損害を与えた場合、当該行為者と連帯で賠償責任を負わなければならないと、民法第28条に明文化されている。
2. 本件の告訴行為は被上訴人包小松が被上訴人MUSTを代表して行ったもので、被上訴人包小松が職務を執行した際に上訴人の権利を侵害したため、民法第28条の規定に基づいて、被上訴人MUSTは包小松と連帯で上訴人に対して損害賠償責任を負わなければならない。
(六) 損害賠償の範囲:
1.押収されたカラオケプレーヤーの部分:
当裁判所は民事訴訟法第222条第2項の規定に基づいて上訴人が押収されたカラオケプレーヤー(製品)合計136台から斟酌する。上訴人は訴訟経済の考慮に基づいて、「S-2001(XR480)」69台についてのみ賠償を主張し、かつ双方はいずれも1台当たりの価値が35,000元という点では争っていない。それに使用されているIDEインターフェースのHDDがすでに製造停止となっており、現在市場で使用されているSAGAインターフェースとの互換性の問題がある。また本件は押収されてから現在まですでに4年経過しており、「多媒体電脳伴唱機(カラオケプレーヤー)」の耐用年数が7年であり、上訴人の生産するカラオケプレーヤーは一定のコストを支払わなければならない。また、もし荘嘉賓(上訴人の法定代理人)が適切に押収物品を維持保管していれば、後日当該機種を販売または再使用することができる。且つ被上訴人MUSTは当初、上訴人が製造したカラオケプレーヤー内にJASRACの音楽著作権を侵害したとして本件の告訴を提起し、その後民事裁判所も押収されたカラオケプレーヤー(製品)内の付表2に示される音楽著作権について確かに著作権の係争があると認定した。これと被上訴人MUSTが直接自らの名義で告訴したという行為は上訴人が損害(すなわちカラオケプレーヤー押収)を受けた共通の原因である。また上訴人はその損害の発生について過失があるため、やはり七分の三は過失責任を負わなければならない。本件の賠償額は1台あたり20,000新台湾ドル(NT$35,000×4/7=NT$20,000)、合計1,380,000新台湾ドル(NT$20,000×69=NT$1,380,000)が妥当である。
2.信用侵害の部分:
被上訴人MUSTが直接自らの名義で上訴人に対し本件の告訴を提起し、検察官が捜索手続きを発動したため、事件発生後新聞メディアが相次いで上訴人が販売するカラオケプレーヤーが日本の音楽著作を侵害し、検察の取り調べを受けた等の報道が行い、上訴人のグッドウィルと信用が損害を受けるという事態を招いた。前述の通り、上訴人はその損害発生について過失があり、七分の三の過失責任を負うべきだ等の一切の状況から、上訴人の非財産的損害は210,000新台湾ドルであるため、上訴人は120,000新台湾ドル(NT$210,000×4/7=NT$120,000)の賠償を請求でき、この金額は妥当である。

以上をまとめると、上訴人が被上訴人MUSTと被上訴人包小松に連帯で1,500,000新台湾ドル(NT$1,380,000+NT$120,000=NT$1,500,000)ならびに起訴状副本の送達翌日(つまり2008年6月10日、原審ファイル40~41ページ頁参)から支払日まで年利5%で計算した利息を請求したことは理由があり、許可するべきである。これを超える請求には理由がなく、棄却するべきである。
上記論結に基づいて、本件上訴には一部に理由があり、一部に理由がない。民事訴訟法第450条、第449条第1項、第79条、第85条第2項に基づいて、主文の通り判決するものである。
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