他人の商標を意図的に模倣し、それに便乗した商標登録出願の認定

2026-06-24 2025年

■ 判決分類:商標権

I 他人の商標を意図的に模倣し、それに便乗した商標登録出願の認定

II 判決内容要約

知的財産及び商事裁判所行政判決
【裁判番号】113年度行商訴字第64号
【裁判期日】2025年06月11日
【裁判事由】商標異議

原告 渡邊食品股份有限公司
被告 経済部知的財産局
参加人 東正股份有限公司

主文
一、原告の訴えを棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告である渡邊食品股份有限公司(旧社名:渡邊屋餐飲股份有限公司)は、2021年5月21日、単なる中国語の「渡邊」を商標図案とし、第43類の「飲食店、日本料理店、……、レストラン、……、飲食サービスの提供」等のサービスを指定使用し、被告である経済部知的財産局に登録を出願した。被告による審査を経て許可され、2022年4月16日に登録第2260578号商標(以下「係争商標」という)として公告された。
その後、参加人である東正股份有限公司(著名タレントの蕭敬騰と日本人シェフの渡邉信介が共同で開設した日本料理店「渡邉」の実際の経営者)は、係争商標の登録が商標法第30条第1項第12号の規定に違反することを理由として、2022年7月15日に異議を申立てた。被告は審査を経て、2024年5月31日、「異議成立、係争商標の登録は取消すべきである」との処分(以下「原処分」という)を下した。原告はこれを不服として訴願を提起したが、経済部は申立てを棄却した。原告はなお承服できないため、知的財産及び商事裁判所に本件行政訴訟を提起した。

二 双方当事者の請求内容
原告(渡邊食品股份有限公司)の請求
 1.訴願決定及び原処分をすべて取消す。
 2.訴訟費用は被告の負担とする。
被告(経済部知的財産局)の請求
 1.原告の訴えを棄却する。
 2.訴訟費用は原告の負担とする。
参加人(東正股份有限公司)の請求
 1.原告の訴えを棄却する。
 2.訴訟費用由は原告の負担とする。

三 本件争点
係争商標の登録は商標法第30条第1項第12号の規定の適用があるか。
商標法第30条第1項第12号に「同一又は類似の商品又は役務について、他人の先使用に係る商標と同一又は類似であり、出願人が当該他人との間に契約、地縁、業務取引又はその他の関係を有する為に、他人の商標の存在を知っており、意図的に模倣して登録出願したものは、登録を受けることができない。」と規定されている。

四 判決理由要約
裁判所は係争商標の登録が商標法第30条第1項第12号に違反する事実があると認定し、原告の訴えを棄却するとの判決を下した。その理由は以下のとおりである。
(一)参加人は引用商標「渡邉及び図」を先使用していた。
裁判所は参加人が異議申立及び訴訟段階において提出した証拠を斟酌し、「渡邉及び図」商標(以下引用商標という)が係争商標の出願日(2021年5月21日)以前に飲食サービスにおいて確かに先使用されていたと認定した。その理由は以下のとおりである。
 1.アップルニュースが2020年11月17日、「【スクープ】蕭敬騰が日本のミシュランシェフとタッグを組み、高級日本料理店『渡邉』を来月オープン」との標題の記事を掲載し、レストランの準備過程、シェフの経歴及び店名「渡邉」について詳しく紹介した。また、参加人も2020年10月20日にFacebookページ「渡邉」を開設し、2020年11月から複数の予告や宣伝投稿を公開した。Instagramの公式アカウントも2020年11月から関連コンテンツを投稿している。オープンした後、多くの報道機関が「渡邉」が11月19日に開業した事実を報道した。
 2.上記報道機関による報道、PR活動の証拠で、引用商標「渡邉及び図」が係争商標出願日(2021年5月21日)以前に日本料理店サービスに先使用されていた事実があったことを証明することができる。
(二)原告による「渡邊」商標先使用の主張は信用できない。
原告は2020年5月以前に「渡邊屋餐飲股份有限公司」を設立し、並びに同年10月に「渡邊屋和風料理」をプレオープンし、参加人よりも早くから「渡邊」商標を使用していたと主張しているものの、裁判所は次のとおり認定した。
 1.原告会社の最初の登録名称及びプレオープン時に使用した看板、名刺はいずれも「渡邊屋」であり、これは3文字の商標であり、係争中登録出願の2文字商標「渡邊」とは異なる。原告は出願日以前に「渡邊」を独立した商標の主要部分として使用していたことを証明できていない。原告は2020年11月頃に社名を「渡邊食品」に変更し、「渡邊日本料理」のページを開設して宣伝を行ったが、その各行為の時点はいずれも参加人「渡邉日本料理」がページを開設し(10月20日)、商標図案を公開し、メディアへの披露及び正式オープン(11月19日)を行ったスケジュールよりも遅かった。原告のプレオープンに関する証拠は、「渡邊屋」の使用を証明するに過ぎないので、「渡邊」商標を先に使用していた事実を認定することはできない。
 2.原告は2020年5月29日の設立時、及び渡邊勝夫が同年7月24日に原告の被保険者なったとき、原告はいずれもFacebookページを開設していなかったのに、参加人が同年10月20日にFacebookで「渡邊」のページを開設した後、原告も同年11月4日、5日に相次いでFacebookに「渡邊日本料理」、「渡邊食品」のページを開設したので、原告が主張する、総料理長「渡邊勝夫」を招聘したため、「渡邊」を会社名、店名、商標とし、且つ参加人より先に「渡邊」商標を使用していたといった事情は採用できるものとは認め難い。
(三)両商標は類似を構成する
係争商標「渡邊」及び引用商標「渡邉及び図」は、いずれも中国語の「渡邊」/「渡邉」を主要な識別部分としている。そのうち「邉」は「邊」の異体字であり、発音及び概念は完全に同一で、字形や画数にわずかな違いがあるに過ぎない。通常の知識と経験を有する消費者が、異なる時間、場所で全体を分離して観察した場合、そのわずかな字形の差異を見落としやすく、両者が同一またはシリーズ商標であるとの連想を生じやすい。よって、両商標は外観及び観念のいずれにおいても高度に類似している。
(四)両商標が使用されているサービスは同一または極めて類似している
係争商標は「飲食店、レストラン…」等、すべての飲食サービスに使用指定されており、一方、引用商標は「日本料理店」のサービスに実際に使用されており、引用商標が先使用されていた日本料理店のサービスと比較すると、両者のサービスの性質、内容または目的は、一般社会通念及び市場取引状況により、一般のサービス利用者に、それ等が同一または同一ではないが、関連性のある出所からのものと誤認されやすいので、同一または極めて類似したサービスに該当するはずである。
(五)原告は参加人と同業競合関係にあり、参加人が先に使用していた引用商標の存在を知っていて、模倣の意図をもって登録を出願した。
 1.原告は「渡邊」が一般的な氏名であり、その使用は善意に基づくものであると主張しているが、裁判所は「渡邊」は確かに日本の氏名ではあるものの、引用商標文字「渡邉」の「邉」という文字は「邊」の異体字であり、よく見かける氏名とは言えず、その表彰するサービス内容の説明とは直接的な関連性がなく、消費者はこれをサービスの出所を指示して区別する標識だと思うので、国内消費者の認識では、引用商標は全体として相当な識別性があると認定した。
 2.原告と参加人はいずれも日本料理店を経営しており、両者の営業地点はともに台北市にあり、直接的な競合関係がある同業者であり、且つ地理的な近接性もある。同業者間では、市場動向、競合相手の情報について、当然ながらより詳しく把握し、注目しているものである。
 3.参加人レストランがオープンの前に、原告が「渡邊」を商標としてレストランを経営していた事実はなく、且つ参加人がFacebookページで「渡邉」を使用し 、及び参加人「渡邉」日本料理店がオープンして、メディア報道により公表された後に、はじめて会社名を「渡邊食品股份有限公司」に変更し、「渡邊」をもって頻繁に関連サービス情報を発信したことから、原告が引用商標と極めて類似する「渡邊」を係争商標として登録出願し、日本料理と同一または極めて類似するサービスに使用指定したことが、客観的に偶然であるとは言い難い。
(六)以上を総合し、裁判所は係争商標の登録は確かに商標法第30条第1項第12号に違反し、登録を取り消すべきであると認定した。

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