農薬の商品における標識は商標使用になるのか

2023-06-21 2022年

■ 判決分類:商標権

I 農薬の商品における標識は商標使用になるのか

■ ハイライト
上訴人は次のように主張した:上訴人は原判決の添付図一、二の商標(以下、併せて「係争商標」という)の商標権者であり、該商標は第5類農薬の商品での使用を指定している。被上訴人である台湾正豊植保股份有限公司は農薬の加工及び卸売事業を経営しており、2017年11月8日以降は上訴人の同意又は許諾を得ずに、添付図三、四の「加保扶」、「固殺草」という農薬の商品(以下、併せて「係争商品」という)上に、係争商標と同一の又は高度に類似の正豊冬、正豊固殺草等の表示(以下「係争文字」という)を使用しており、係争商標権を侵害している。被上訴人は次のように抗弁した:係争商品に使用した標識は係争商標と類似を構成していない;表示行為は商標使用を構成していない;しかも係争商標侵害の故意、過失はない;係争商標には商標法第63条第1項第2号等の(商標登録の)取消及び無効の事由があり、上訴人は係争商標権を主張してはならない。原審は第一審による上訴人敗訴を維持し、正豊公司が係争商品包装上に使用した係争文字はブランド名の表示にすぎず、関連する消費者に農薬の有効成分を判別するのに提供する重要な表示方法であり、係争商標の一部と同じであるが、商品の内容を表示している他、商品そのもの、名称、性質についての説明は取引習慣に合致する信義誠実の方法であり、商標使用には該当しないこと、並びに農薬メーカーがブランド名と一般名を包装上に列記するのは、一般的な慣例であり、関連する消費者は係争文字を農薬のブランド名とみなすにすぎず、係争商標と誤認混同するには至らず、商標法第68条第3号の商標侵害行為を構成しないことを判決理由とした。上訴人は第二審判決を不服としてさらに上訴(上告)し、本件は最高裁判所により原判決が破棄され、知的財産及び商事裁判所へ差し戻された。

II 判決内容の要約

最高裁判所民事判決
【裁判番号】111年度台上字第835号
【裁判期日】2022年5月25日
【裁判事由】商標権侵害に関する財産権紛争等

上訴人 林虹均
被上訴人 台灣正豊植保股份有限公司(以下、正豊公司)
兼法定代理人 徐添発

上記当事者間の商標権侵害に関する財産権紛争等事件について、上訴人(上告人)が知的財産及び商事裁判所による2021年10月7日付第二審判決(110年度民商上字第3号)に対して上訴(上告)を提起した。本裁判所は、次のとおり判決する

主文
原判決を破棄し、知的財産及び商事裁判所に差し戻す。

一 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の主張:
1.被上訴人は連帯で500万新台湾ドル及び訴状副本送達の翌日から起算した法定遅延利息(遅延損害金)を支払え。
2.被上訴人は係争商標と同一の又は類似の文字を使用してはならない(以下「使用禁止」)。
(二)被上訴人の主張:上訴人の訴えを棄却する。

二 本裁判所の判断
(一)販売を目的として、商標を商品又はその包装容器に用いて、関連する消費者にそれが商標であると認識させるに足るものは、商標の使用となることは、商標法第5条第1項第1号規定により自明である。その立法趣旨から、商標の使用は、取引の過程において、その使用が消費者に該商標を認識させるに足るかで判断すべきであることが分かる。商標権者の同意を得ずに、販売を目的として、同一の商品又は役務において、登録商標と同一の商標を使用したとき、同一の又は類似の商品又は役務において、登録商標と類似する商標を使用し、関連する消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるときは、商標権の侵害となることも、商標法第68条第1項第1号、第3号規定から明らかである。農薬表示管理弁法(原文名:農藥標示管理辦法)第5条第1項第14号に「ブランド名を有するものは、ブランド名を注記しなければならない」、第11条に「農薬にブランド名があるものは、その一般名をブランド名の下方に括弧書きし、かつ中国語の字体はブランド名よりも小さくしなければならない」等の規定があり、それらは同弁法第2条の「農薬の表示内容は明確で読みやすくして、識別しやすいようにしなければならない」という目的を達成するもので、農薬管理法第14条第2項の法規制定に関する権限委譲という趣旨に符合し、商標使用の規則とは異なる。即ち商標の使用か、商標権の侵害かはなお商標法で判断すべきであり、それは行為者が農薬表示管理弁法によりブランド名を表示することで異なるものではない。
(二)正豊公司は一般名が「加保扶」、「固殺草」の農薬について、許可証を取得し、それぞれ「正豊冬」、「正豊固殺草」をブランド名として登録した。上訴人はこれについて、農薬許可証の交付、更新を申請する時、業者はブランド名の未記入を選択できること、被上訴人の農薬許可証に上記ブランド名が記載されており、それが自発的に記載されたこと等を主張し、行政院農業委員会動植物防疫検疫局(以下「防検局」という)が公布した農薬許可証の交付申請における提出資料と該局首長メールボックスの返信メールを提出し、防検局は農薬許可証を請求する時、ブランド名又は図が商標登録されているならば、商標登録証のコピーを添付しなければならないことを認めており、農薬許可証に記載されているブランド名と商標権侵害とは別の事であると主張している。もしそれが事実であれば、被上訴人が農薬の一般名と無関係な「正豊冬」、「『正豊』固殺草」をブランド名として、さらには係争商品の包装に表示したことは、商標の使用に該当するのか、そして上記説明により、農薬表示管理弁法によりブランド名を表示することは、いわゆる商標の使用及び侵害に該当しないのかは、なお明らかにすることが待たれる。かつ正豊公司が係争商品標にブランド名を表示することが、商標使用と無関係であると認定できるのかに否かに関して、上訴人の上記主張はなお重要な攻撃方法であり、原審では論じられておらず、判決の理由不備という誤りがある。
(三)正豊公司はそれが生産する係争商品の包装上に係争文字を表示したことは、原審で認定されている。上訴人はこれまで、正豊公司が係争商品を包装している紙箱に「正豊冬」という文字を印刷し、その横には明らかに「Ⓡ」という登録商標の記号が標記されており、係争商品上の係争文字を商標として使用していることが明らかであると、繰り返して主張して、紙箱の写真を証拠として提出している。もし採用できるならば、正豊公司は係争文字の表示について、出所を明らかにするために商標として使用する意図が全くなかったのか、関連の消費者は商標として認識できるのか。また知的財産局の商標検索システムで検索した結果、許可を受けた21種類の「加保扶」の農薬(係争商品一を含む)は、本件の正豊冬加保扶以外に、12のブランド名がすでに商標として使用されている。もしそうなら、ブランド名を販売を目的せず商品に使用するといえるのか。斟酌の余地がすでにないとはいえない。さらに、係争商標一の漢字と係争商標二は、良く見かけられる単語ではなく、知的財産局の商標資料検索サービスにおける拒絶査定書の検索結果によると、係争商標は独創的商標であり、識別力が高いと認定されており、関連する消費者が係争文字を商標使用と認識したならば、係争商標と誤認混同するおそれがあるかについてさらに審理が待たれる。原審は上記証拠が上訴人に有利な認定を受けるに十分かどうかを究明しておらず、正豊公司の係争文字の使用は、商標としての使用ではなく、関連する消費者はブランド名としか見なさず、係争商標と誤認混同が生じるに至らないと直接に認定しており、これは即ち速断であり、かつ判決の理由不備という違法がある疑いがある。
(四)上訴の趣旨で、原判決には法令違背があると指摘し、破棄を請求することには理由がある。最後に調べたところ、上訴人は係争商品がいずれも係争商標権を侵害していると主張しているが、係争商品一の販売額のみを本件賠償額としており、かつ該賠償額は訴えの声明での金額より高いため、一部の請求であるのか、本件を差し戻すにあたり、併せてこれに注意して説明されたい。

三 以上の次第で、本件上訴には理由がある。民事訴訟法第477条第1項、第478条第2項により、主文のとおり判決する。

2022年5月25日
最高裁判所民事第三法廷
裁判長  沈方維
裁判官 鍾任賜
裁判官 張競文
裁判官 陳麗芬
裁判官 方彬彬

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