松崗科技が松崗資産を商標権侵害で提訴、知的財産裁判所は敗訴の判決

2014-07-29 2013年

■ 判決分類:商標権

I 松崗科技が松崗資産を商標権侵害で提訴、知的財産裁判所は敗訴の判決

■ ハイライト
松崗科技股份有限公司(以下「松崗科技」)は台湾でコンピュータ専門の雑誌と書籍を27年にわたって販売し、高い知名度を有しており、最近一度に松崗資産管理股份有限公司(以下「松崗資産」)、松崗国際股份有限公司(以下「松崗国際」)、徳育資訊股份有限公司(以下「徳育資訊」及び松崗電脳図書有限公司(以下「松崗電脳」)等4社(松崗国際、徳育資訊、松崗電脳はいずれも松崗資産の子会社)を相手取り、商標権を侵害しているとして336万新台湾ドルの賠償を請求したが、裁判所は敗訴の判決を下した。
知的財産裁判所の歐陽漢菁裁判官は判決文において以下のように述べている。社名の目的は取引の主体を識別し、他の企業と区別して、法律行為と権利義務の帰属の同一性を確保するものであるのに対して、商標は主に商品や役務の出所を表彰するものであり、社名と商標の意義と機能は異なり、互いに制約するものではない。
松崗科技は2002年2月にコンピュータ関連図書出版及びビジネス向けソフトウェア販売の業務を松崗資産の前身である文魁資訊股份有限公司(以下「文魁資訊」)に売却し、文魁資訊に「松崗」商標をコンピュータ関連図書出版及びビジネス向けソフトウェア販売の業務に利用することを許諾している。したがって松崗科技がこれらの商品又は役務に「松崗」を利用する時、又は松崗科技の「松崗」商標権の効力が商品又は役務に及ばない時は、商標権の侵害を構成しない。
また松崗科技は松崗資産等の会社が公平交易法に違反していると主張しているが、松崗科技はコンピュータ関連図書出版とビジネス用ソフトウェア販売の業務を文魁資訊に売却するとともに、文魁資訊に「松崗」商標をこれらの業務で利用することを許諾し、自らは「松崗」商標でコンピュータゲーム業務を経営しており、明らかに自ら「コンピュータ関連図書出版及びビジネス用ソフトウェア販売業務」と「コンピュータゲーム」の分野を異なる競争市場として区分しているため、松崗資産と松崗科技は同じ市場競争の中にあり、不公正な競争の状況があるとはいいがたい、と裁判官は認めている。
さらに、松崗科技は「松崗」が消費者に普遍的に認知されている著名商標であることを証明できず、また松崗資産等の会社が「松崗」を社名に使用することで消費者が誤認するという因果関係が存在することを証明できていない。したがって松崗資産等が法に抵触しているため、被告の松崗資産等に対して「松崗」商標及びそれを社名の主要部分として使用することを差し止め、賠償するよう求める松崗科技の請求について、裁判官は理由がないと認定し、松崗科技の請求を棄却するとの判決を下した。【2013年5月30日/工商時報/A22面】

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】101年度民商訴字第42号 
【裁判期日】2013年5月10日
【裁判事由】商標権侵害に係る財産権争議等

原        告 松崗科技股份有限公司
被        告 松崗資産管理股份有限公司
兼法定代理人 朱国栄
被        告 松崗国際股份有限公司
兼法定代理人 洪秀惠
被        告 徳育資訊股份有限公司
兼法定代理人 朱国栄
被        告 松崗電脳図書有限公司
兼法定代理人 林慶川

上記当事者間における商標権侵害に係る財産権争議等事件につき、本裁判所は2013年4月17日口頭弁論を終結したので、次のとおり判決する。

主文
原告の請求と仮執行宣言申立をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告の起訴の趣旨:
原告(改名前は「松崗電脳図書資料股份有限公司」、2002年「松崗科技股份有限公司」に改名)はコンピュータ教育の推進に力を入れ、1985年から前後して添付図1に示されている商標を登録してきた。それらの商標は使用される分野がコンピュータ関連図書及び各種コンピュータ・ハード・ソフトウェアであり、かつ原告がそれらの商標を使用して代理及び運営しているオンラインゲームの売上高は極めて高く、関連の賞を次々と獲得している。さらに関連の見本市では露出頻度が高く、添付図1の商標は27年間にわたって使用され、「松崗」という二文字から人々が連想するものは原告である。さらには関連消費者を惹きつけ、原告は中華圏最大のコンピュータゲームサイト「巴哈姆特電玩資訊站」及び「維基百科(Wikipedia)」でその情報が編集されており、また最大のサーチエンジンGoogleの検索サイトで「松崗」というキーワードを入力すると、原告が(検索結果の)一件目として掲載され、関連する事業者及び消費者に普遍的に認知されており、したがって「著名」商標に属する。しかしながら被告の松崗資産管理股份有限公司(改名前「文魁資訊股份有限公司」、以下「文魁資訊」)は添付図1の商標の存在を明らかに知りながら、悪意を以って侵害した。被告の松崗電脳図書有限公司、松崗資訊股份有限公司(改名後は「徳育資訊股份有限公司」)、松崗国際股份有限公司はいずれも被告が100%出資した子会社であり、これら3社も「松崗」二字が原告の著名登録商標の中国語部分であると知りながら、添付図1の商標の文字を自らの社名の主要部分とし(被告は「松崗」シリーズ商標が原告の所有する著名商標であると知悉していたにもかかわらず、2009年故意に親会社及び子会社の社名主要部分をすべて「松崗」に変更登記している)、たとえ異なる業種で使用されたとしても、原告と被告等の会社が提供する商品又は役務は高度に類似しており、関連する消費者は原告がオンラインゲームの経営に成功しているため、業務をコンピュータ関連図書出版及び3C商店の経営に拡大し経営の多角化を進めていると極めて誤認しやすく、さらには関連する事業者及び消費者にこれらの会社の間には関連企業、加盟関係、又はその他の類似する関係がある、さらには同じ会社であると極めて容易に誤認させてしまう。また、「維基百科(Wikipedia)」における「松崗時尚廣場」の情報には原告が被告の組織する「松崗集團」の一部であると誤った記載がある。「Yahoo!奇摩知識+(日本の「Yahoo!知恵袋」に相当)」にも「あなたが言いたいのは松崗電脳図書有限公司ではないのか。それは文魁資訊が投資した会社で、松崗電脳図書有限公司は主に図書を出版しているが、海外のゲームの代理も行っている」という誤った回答がある。被告の松崗電脳と原告が改名する前の「松崗電脳図書資料股份有限公司」は高度に類似しており、被告の松崗電脳は公式サイトの会社プロフィールにおいて「PC時代の到来に対応し、文魁は経営を多元化するため、2002年に松崗電脳図書を合併買収し…」云々と記載している。その「合併買収」の文字は、原告が文魁資訊(当時)に合併され消滅したと消費者に誤認させやすい。これは「松崗」の二文字が著名商標であることを被告等が知りながら、「故意」に自らの社名主要部分に盗用し、原告の信用・名声に便乗して、関連する事業者及び消費者に誤認混同を生じさせ、添付図1商標の識別力を減損(希釈)したことを間接的に証明したものであり、改正前商標法第61条第1、3項、第62条第2号、第63条、改正後商標法第69条第1項前段、第3項、第70条第2号、第71条、公平交易法(公正取引法)第20条第1項第1号、第30条第1項前段、第31条、第32条第1項、民法第28条、第185条第1項、第195条、公司法(会社法)第23条第2項に基づいて本件訴訟を提起する。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.被告の松崗資産、松崗国際及び松崗電脳は「松崗」と同一又は類似する文字をそれらの社名の主要部分として使用してはならず、台北市政府に対してそれら社名の主要部分を「松崗」と同一又は類似しない名称に変更登記すべきである。
2.被告の松崗資産、松崗国際、松崗電脳及び徳育資訊は「松崗」と同一又は類似する文字を看板、名刺、広告、サイト又はその他の販売関連物品に使用してはならない。
3.被告の松崗資産、松崗電脳、松崗国際、徳育資訊及び朱国栄、洪秀惠、林慶川は連帯で原告に336万新台湾ドルと起訴状送達翌日から支払い済みまでの年5%の割合による利息を支払うべきである。
4.第3項の請求について原告は担保を立てるので、仮執行宣言申立の許可を請求する。

(二)被告の請求:原告の請求と仮執行宣言申立のいずれも棄却すべきである。不利な判決を受けた場合は、担保を立てるので、仮執行免脱宣言申立の許可を請求する。

三 判決理由の要約
心証を得た理由:
(一)原告は見本市への出展や優れた賞の受賞に係る写真を多数提出しているほか、「巴哈姆特電玩資訊站」によってゲームメーカー名詞データベースに収録され、かつ原告が「巴哈姆特電玩資訊站」においてニュースリリース1千件余りを発表している云々と主張しているが、それらは事実そのものを証明できるだけで、添付図1の商標が関連する消費者に普遍的に認知されると推断するには十分ではない。「維基百科(Wikipedia)」はだれでも自由に編集、変更、削除ができる百科事典であり、これについては説明の頁があり、参考することができる。誰でもインターネットに接続して自由に項目を立ち上げることができる。原告の項目を誰がどのような目的で編集したかは不明であり、原告の情報が「維基百科(Wikipedia)」に収録されているというだけで、添付図1の商標を著名商標だと認めるには不十分である。
原告はGoogleのアクセス数で検索結果の順位を決定できると証明しておらず、たとえそれが確かであっても、Googleにおいて「松崗」をキーワードとして検索した結果、原告が検索結果の一件目となる事実は各検索結果の間における相対的な知名度を証明できるだけであり、一件目にあったからといってすぐに著名であると証明することはできず、添付図1の商標が著名商標であることを証明できない。
したがって、添付図1の商標は著名商標であり、被告がその著名商標における中国語の文字を自社名に用いることは、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれ又はその商標の識別力又は信用・名声を減損(希釈)するおそれがあるとする原告の主張は、現行商標法第70条第2号規定の構成要件を満たさないため、採用できない。

(二)さらに、たとえ添付図1の「松崗」商標が著名商標でないとしても、被告は現行商標法が改正される以前に「松崗」を社名の主要部分としているため、同時に改正前商標法第62条第2号の「他人の登録商標であることを明らかに知りながら、その商標にある文字を、自らの社名、商号名、ドメインネーム又はその他営業主体又は出所を表す標識として、商品又は役務の関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの」は商標権侵害とみなされ、これは「著名商標」をもって要件とするものではない云々、と原告は主張している。ただし、改正前商標法第62条第2号の商標権侵害行為を構成すると見なされるには、「その商標にある文字を、自らの社名、商号名、ドメインネーム又はその他営業主体又は出所を表す標識とする」ことと「商品又は役務の関連する消費者に誤認混同を生じさせる」こととの間に因果関係があることを前提としなければならない。調べたところ、原告は2002年2月8日にコンピュータ関連図書出版及びビジネス向けソフトウェア販売の業務を被告である松崗資産の前身である文魁資訊に売却し、原告はその部門とは同質の業務を今後行わないことを約束したが、ゲームソフト関連の業務はそれに限られるものではない。原告は2002年11月14日文魁資訊と利用許諾契約を締結し、原告が所有する添付図2に示される商標を被告に対して独占的に利用許諾するよう約定し、その利用許諾の範囲にはコンピュータ関連図書及びビジネス向けソフトウェアの販売に限られている。被告が「松崗」を社名とする以前に、それらはすでに原告の利用許諾の下、添付図2に示されている「松崗」商標を以ってコンピュータ関連図書及びビジネス向けソフトウェアの業務に従事しており、たとえ消費者が原告と被告を同一である又は関連があると誤認混同したとしても、被告が「松崗」の社名を使用したことによる、又は被告が添付図2の「松崗」商標を使用したことによるとは論断しがたい。原告が提出した「Yahoo!奇摩知識+」のページをみると、2005年4月25日付の「あなたが言いたいのは松崗電脳図書有限公司ではないか。それは文魁資訊股份有限公司所が投資した会社で、松崗電脳図書有限公司は主に図書を出版しているが、海外のゲームの代理も行っている」という回答から2009年に被告の松崗資産、松崗国際及び徳育資訊が「松崗」を社名に使用する以前に、原告と被告が同一又は関連する会社だと誤認していることが分かる。以上をまとめると、消費者に誤認混同を生じさせていたとしても、被告の社名が「松崗」であることとの因果関係が存在するとは認めがたい。

(三)社名の目的は取引の主体を識別し、他の企業と区別して、法律行為と権利義務の帰属の同一性を確保するものである一方、商標は主に商品や役務の出所を表彰するものであり、社名と商標は意義と機能が異なり、互いに制約するものではない。ただし、企業が社名を使って業務を経営し、社名が商品又は役務の出所と機能を表彰する機能を併せ持つときに初めて境界線を越えて商標の識別機能を併せ持ち、商標権と抵触し合い、法律規定の要件を満たす状況において、社名命名の自由は商標権に対して譲歩させられ、商標権の侵害と見なされる。本件の状況において、原告は以前コンピュータ関連図書及びビジネス向けソフトウェアの業務を被告の松崗資産の前身である文魁資訊に譲渡しており、文魁資訊に添付図2に示される商標を上記業務に利用することを許諾している。被告が添付図2の「松崗」商標をそれらの商品又は役務に使用するとき、又は添付図1の商標の効力が及ばない商品又は役務であるときは原告の添付図1の「松崗」商標に対する侵害を構成しない。この点については原告も争うものでない。したがって、原告は本件において被告が「同一又は類似の商品又は役務に同一又は類似の商標を使用すること」による商標権侵害を主張しないと強調している。被告が「松崗」商標を使用する「商標使用」行為はなお添付図1の商標の商標権侵害を構成しないのであるから、被告が(商品又は役務の出所と機能を表彰する機能の)強度のより低い「松崗」を使用して社名主要部分とする「社名命名」行為を原告の商標権侵害と「見なす」ことはさらに好ましくない。

(四)被告が「松崗」を以って社名の主要部分とすることは、関連する事業者又は消費者が普遍的に認知する原告の社名と原告の添付図1の商標と同一又は類似のものの使用であり、原告の営業又は役務の設施又は活動と混同させるに到っており、公平交易法第20条第1項第2号に違反している云々、とする原告の更なる主張について、原告は「松崗」と添付図1の商標が関連する事業者又は消費者が普遍的に認知するものであると証明していない上、原告は以前コンピュータ関連図書出版及びビジネス向けソフトウェア販売の業務を被告の松崗資産の前身である文魁資訊に売却しており、文魁資訊に対して上記業務における添付図2の「松崗」商標の利用を許諾して、自らはコンピュータゲーム業務を経営している。これは明らかに自ら「コンピュータ関連図書出版及びビジネス用ソフトウェア販売業務」と「コンピュータゲーム」の分野を異なる競争市場として区分して各自経営しているものである。このため被告と原告が同じ市場競争の中にあり、不公正な競争の状況があるとはいいがたい。

(五)以上の次第で、原告の請求にはいずれも理由がなく、棄却すべきである。

2013年5月10日
知的財産裁判所第一法定 
裁判官 歐陽漢菁
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