独アディダス社と旅東貿易股份有限公司の将門(Jump)商標に係わる係争

2014-05-14 2011年

■  判決分類:商標

I 独アディダス社と旅東貿易股份有限公司の将門(Jump)商標に係わる係争

■ ハイライト
「Jump」商標との類似訴訟、アディダスが知的財産裁判所の第二次差戻審で勝訴
独アディダス(Adidas AG )と旅東貿易股份有限公司(Lutong Enterprise Corp.、以下「旅東」)は「将門(Jump)」商標をめぐって行政裁判所で6年余りにわたり争ってきた。今年2月最高行政裁判所は知的財産裁判所の審理(第二次差戻審)へ本件を移送していたが、知的財産裁判所は昨日アディダスの勝訴を言い渡した。これにより今後「adidas」と「Jump」の両ブランドが台湾市場で併存していくことが決定した。
知的財産裁判所の判決理由によると、経済部は両社の商標の図案と指定商品を比較した結果だけで両商標に「商標の近似」、「商標の類似」があると判断しadidas商標を取り消したが、消費者に誤認混同を招くおそれに関する重要な因子が存在するかどうかについては考慮していなかった。ましてやadidas商標の登録出願当時には、商標法には消費者に誤認混同を招くおそれがある場合は商標を登録できないという商標近似に関する規定がなかった。
知的財産裁判所は、知的財産局によるadidas商標登録取消処分及び経済部訴願委員会による知的財産局の原処分を支持する訴願決定をいずれも取り消すことを命じる判決を下した。
これまでadidas商標は台北高等行政裁判所において二度にわたり敗訴し、Jump商標に近似しているため商標を登録できないという判決を受けていた。

II 判決内容の要約

■ 基礎データ
知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】 99年度行商更(二),4
【裁判期日】 2010年9月30日
【裁判事由】 商標の無効審判 

原 告 (ドイツ企業の台湾法人)‧亞得脫士‧沙洛蒙股份公司(Adidas AG)
被 告 経済部知的財産局
参加人 旅東貿易股份有限公司(Lutong Enterprise Corp.)

以上の当事者間での商標の無効審判をめぐり、原告が経済部による2004年9月3 日経訴字第09306225250号訴願決定を不服として行政訴訟を提起した。台北高等行政裁判所は参加人に対して訴訟に独立参加することを命じて93年度訴字第3622号、96年度訴更一字第131号の判決を下したが、最高行政裁判所は99年度判字第189号判決をもって原判決を破棄して本件を本(知的財産)裁判所へ移送し、本裁判所は以下のように判決を下した。

主文
訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。
第一審及び移送前第二審の訴訟費用を被告が負担するものとする。

一 事実要約
(ドイツ企業台湾法人)亞得脫士股份公司(Adidas AG、原告の前身)は1996年12月17日に「adidas&3-stripe device」商標(以下、「係争商標」。添付図1を参照)を第54342号「adidas」商標(添付図1-3を参照)の連合商標として、当時の商標法施行細則第49条に示されている商品及び役務の区分表第25類のシューズ、マフラー、帽子、ソックス等商品における使用を指定し、経済部中央標準局(その後1999年1月26日知的財産局へ組織再編)に対して登録を出願した。1997年11月28日第798026号連合商標として登録査定を受け、1998年3月1日に登録され、同年4月1日に公告された。2003年1月24日参加人は係争商標の登録が商標法第37条第1項第12号の規定に反しているとして、無効審判を請求した。被告は審査した結果、同年7月1日中台評字第920022号商標審決書をもって係争商標登録を無効すべきとする処分を下した。原告はこれを不服として訴願を提起した。経済部は同年11月19日に経字第09206223820号訴願決定書をもって原処分を取り消し、被告に改めて適法な処分を行うよう命じた。その後商標法改正案が同年11月28日に施行され、第86条第1項規定に基づき係争商標は独立の登録商標とみなされるようになった。被告が再審査した結果、2004年4 月16日中台評字第920530号商標審決書によって「係争商標の登録は取り消すべき」との処分を下した。原告はこれを不服として訴願を提起したが、経済部から2004年9 月3 日経訴字第09306225250号訴願決定書で棄却されたため、台北高等行政裁判所に行政訴訟を提起した。台北高等行政裁判所は2005年11月2 日に93年度訴字第3622号判決をもって原告の訴えを棄却した。原告はこれを不服として最高行政裁判所に上訴した。最高行政裁判所は2007年7 月12日に96年度判字第1214号判決をもって原判決を破棄し、台北高等行政裁判所の審理に差し戻した。その後台北高等行政裁判所は2008年4 月24日96年度訴更一字第131号判決をもって原告の訴えを棄却した。原告は最高行政裁判所へ上訴し、最高行政裁判所は2010年2月25日に99年度判字第189 号判決をもって原判決を破棄し、本(知的財産)裁判所の審理へ移送した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告:原処分及び訴願決定の取消を請求する。
(二)被告:原告の訴えを棄却することを請求する。

三 本件の争点
係争商標(添付図1)と参加人の引用商標(添付図3)の図形が近似しているかどうか?係争商標と引用商標が併存することで誤認混同が生じるおそれはあるのかどうか?
(一)原告側の主張:略。判決理由の要約を参照。
(二)被告側の主張:略。判決理由の要約を参照。

四 判決理由の要約
(一)係争商標と引用商標の図案にはいずれも識別性があり、かつ両者の図案が近似している。
係争商標の図案は右から左方向へ長さが逓減する3本の斜線(左上斜めから右下へ)の図形とその下方にあるアルファベット小文字「adidas」で構成されている(添付図1の通り)。引用商標の図案は右から左方向へ長さが逓減する3本斜線(右上から左下へ)、最も左側に位置する丸い点、その上方と下方にある中国語の「強普」とアルファベット大文字の「JUMP」、又は星が並ぶ外周部分の内側に配置された前述の図形、アルファベット大文字の「JUMP」、又は中国語の「将門」、大文字の「JUMP」から構成されている(添付図3の通り)。商標の図案を比較すると、主な構図はそれぞれ3本の斜線(係争商標)、3本の斜線と丸い点(引用商標)であり、さらに中国語やアルファベットが加わり、いずれも高い識別性をそなえている。さらに当該図形が特殊であり、且つ中央部分に配置されているため、一般消費者の注意をひきやすい。その図案全体を普通の知識経験を有する消費者が時間と場所を異にして隔離的に観察して購買する際に普通の注意を施す場合、全体の外観が極めて似ており、近似の商標を構成している。
(二)係争商標と引用商標の指定商品は同一、類似しており、且つ類似の程度が高い。
係争商標の指定商品は「シューズ、マフラー、帽子、ソックス……」、引用商標の指定商品は「シューズ」、「男性用シューズ、女性用シューズ、レジャー用シューズ、スポーツシューズ、子ども用シューズ、サンダル」、「帽子」、「ソックス、ストッキング」である。一般的な社会通念と市場取引の状況に基づき、係争商標と引用商標の指定商品は同一、類似しており、且つ類似の程度が高いといえる。
(三)係争商標が登録査定を受けた時(1997年11月28日)、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがなかった。
1.原告が行政訴訟の段階で係争商標が国内で大量に使用され普及している証拠資料を提出して、係争商標と引用商標が市場に長年併存していることを証明している。
2.調べたところ、原告は1949年から「adidas」の図案を各種のスポーツシューズやスポーツ用品に使用し、1970年からは台湾でその商品を販売し始め、1970年4月から台湾で多くの商標(登録第44653、44792、44815、45241、46167、47115、54482、54562、54422、54532、54533、70924 、71526 、72937 、95399 号等)を出願している。その商標の図案は長さ、角度、湾曲度等の異なる配列と組み合わせを持つ3本のラインで構成されている。1989年には添付図1-2に示された「adidas Equipment」商標の図案をデザインし、その後発売された「adidas Equipment」シリーズ商品に使用してきた。1995年には係争商標が各種のスポーツシューズ、ソックス及び帽子等の商品に使用され始め、1992~1997年において多くの新聞に原告のスポーツウェアやスポーツ用品を使用する運動選手に関するニュース、並びに原告の(係争商標の図案が標示されている)スポーツシューズ、帽子の写真が掲載されている。これらから、1997年11月28日に係争商標が登録査定されるまでに原告が世界各国で長年にわたりスポーツ関連商品を販売してきたことを十分に知りえる。つまり1989年に添付図1-2の図案(係争商標との差異はわずかにアルファベット「Equipment」の部分のみで、係争商標と同一性を有する)を使用し、1995年から係争商標の図案が各種スポーツシューズ、ソックス及び帽子等の商品に使用され、且つ世界で多数の運動選手たちも原告の製品を使用してきた。関連する新聞メディアの報道から、係争商標が1997年11月28日登録査定を受けた当時には、原告が国内ですでに高い名声を得ており、係争商標が原告の積極的な使用によって台湾の関連する消費者に広く知悉されていたと認識できる。
3.係争商標と引用商標の図案の構成が近似している原因はそれぞれ3本の斜線、3本の斜線と丸い点が主な構図であるためであり、これが係争商標と引用商標が市場で併存し誤認混同のおそれがあるかどうかを判断するポイントとなる。添付図4-1~4-3の図案は社会一般の通念に基づき引用商標の図案の同一性を失っておらず、引用商標の使用態様に属しているが、添付図4-4と4-5の図案は社会一般の通念に基づき引用商標との同一性は失われていると認めることができる。
4.参加人が提供する証拠資料を総合的にみると、参加人が1997年11月28日に係争商標が登録査定を受ける以前の1975年に「将門」ブランドを立ち上げ、1986年2 月~1991年9月までに引用商標と同一性を有する添付図4-1~4-3の図案を使用してきた。
(四)以上をまとめると、係争商標と引用商標がいずれも識別性をそなえ、係争商標の図案にある「3本の斜線の図」と引用商標の図案にある「3本の斜線と丸い点の図」は近似に属し、指定商品も同一、類似に属するが、原告は1989年から添付図1-2の図案(係争商標との差異はわずかに添付図1-2の図案にある細いアルファベット「Equipment」のみであるため、係争商標とは同一性を有する)を使用し始め、1995年には係争商標の図案を各種スポーツシューズ、ソックス及び帽子等の商品に使用し始めた。参加人は1986年2 月~1991年9月までに引用商標と同一性を有する添付図4-1~4-3の図案をスポーツシューズに使用してきた。係争商標が1997年11月28日に登録査定を受けた時には、係争商標と引用商標の図案は台湾のスポーツ用品、シューズ、各種靴、帽子、ソックス等に関連する市場において長年併存して使用されてきた。且つ係争商標と引用商標は「3本の斜線の図」と「3本の斜線と丸い点の図」以外に、それぞれ「adidas」と「JUMP」、「将門」等の文字が組み合わされており、関連する消費者はすでに係争商標と引用商標を認識しているため、原告の商品と参加人の商品のソースを区別することができ、実際に消費者が係争商標を引用商標と誤認する事情があると証明できる証拠がないため、客観的に係争商標は関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれはない。

原処分及び訴願決定は商標の図案と指定商品を比較しただけで係争商標の登録を取り消し、関連する消費者に誤認混同のおそれがあるかどうかの重要な因子が存在するか、或いは誤認混同の衝突を排除する要素が存在するかについて考慮していない。また原告が行政訴訟段階で提出した関連の商標使用資料についても斟酌せずに、係争商標の登録取消の処分を下したことは妥当ではない。原告が請求する訴願決定と原処分の取消には理由があるため、許可すべきである。


99年度行商更(二)字第4号判決の添付図

添付図1(係争商標の図案)
登録第798026号
(商標審決ファイル第1冊14~17頁)
(商品区分025類のブーツ・シューズ、マフラー、帽子、ソックス、服飾用手袋、防寒用手袋)
798026

 

 

添付図1-1(原告のその他の登録商標の図案)
登録第581617号
(商品区分043類のスクールバッグ、スーツケース・ハンドバッグ、旅行バッグ、財布、スポーツバッグ)
581617

 

 

登録第856401号
(商品区分025類の衣服)
856401
添付図1-2(原告の 「adidas Equipment」商標の図案)
1-2

 

 

添付図1-3 (係争商標の根拠商標の図案)
登録第54342号
(商品区分:各種スポーツシューズ)

 

 

 54342
 

 

 

添付図2(原告のその他の登録商標の図案)

添付図2-1
登録第177410号
(商品区分048類のシューズ、スポーツシューズ、カジュアルシューズ。)
2-1
 
添付図2-2
登録第186653号
(商品区分044類のスポーツウェア、Tシャツ、衣服。)
2-2

添付図2-3
登録第682287号
(商品区分075類の時計とそのコンポーネント)
(商標審決ファイル11頁)
2-3

 

 


添付図3 (引用商標の図案)

 

 

添付図3-1
登録第191460号
(商標審決ファイル第1冊28頁)
(シューズ)
3-1

 

 

添付図3-2
登録第741627号
(商標審決ファイル第1冊27頁)
 (男性用シューズ、女性用シューズ、レジャー用シューズ、スポーツシューズ、子ども用シューズ、サンダル)
3-2

添付図3-3
登録第359277号
(商標審決ファイル第1冊21~23頁)
(帽子)
3-3

添付図3-4
登録第438897号
(商標審決ファイル第1冊24~26頁)
(シューズ)
3-4
 
添付図3-5
登録第203597号
(商標審決ファイル第1冊18~20頁)
(ソックス、ストッキング)
3-5
 

 

添付図4(参加人が使用する商標の図案)

 

添付図4-1
4-1
添付図4-2
4-2
 
添付図4-3
4-3
添付図4-4
4-4
 
添付図4-5
4-5

 

 

 

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