ピカソ(畢卡索)がピカソ(畢加索)を訴えて敗訴

2014-05-14 2011年

■ 判決分類:商標

I ピカソ(畢卡索)がピカソ(畢加索)を訴えて敗訴

■ ハイライト
畢卡索国際開発有限公司(以下「畢卡索公司」)は畢加索国際企業股份有限公司(英文名Picasso International Incorporated、以下「畢加索公司」)がネット上で「PICASSO」商標を使用したため、使用の差し止めを請求する訴えを起こした。台北地方裁判所は審理した結果、畢加索公司はすでに中国で商標を登録しており、会社の所在地も中国であるため、本日畢卡索に敗訴の判決を言い渡した。
裁判所の判決によると、畢加索公司がネット上で畢卡索公司の「PICASSO」商標を使用したため、畢卡索公司は商標権侵害であるとして民事訴訟を提起し、畢加索公司に使用の差し止めを請求した。畢卡索公司はさらに詮勝國際股份有限公司(英文名Allwin Sports International Corp.、以下「詮勝公司」)が「PICASSO」の文字をビジネスバッグ等の商品に使用していることを不服とし、詮勝公司に対しても「PICASSO」商標の使用差し止めを請求する訴訟を提起し、畢加索公司とともに連帯賠償を行うよう求めていた。
台北地方裁判所の裁判官は審理した結果、商標法は「属地主義」を原則としており、畢加索は中国で「PICASSO」商標を登録していること、畢加索公司の所在地が中国であること、同社サイトも中国語簡体字で記載されていることから台湾の「PICASSO」とは異なると判断し、畢卡索公司に敗訴の判決を言い渡した。
詮勝公司が畢卡索に商標法違反で刑事告訴された部分については、不起訴処分になっている。
しかしながら、裁判官の判断によると、詮勝公司が生産するスクールバッグ、キャリーバッグ等の商品上にある「PICASSO」の図案は畢卡索公司のものと類似しており、消費者に混同誤認を招かせる可能性があり、確かに畢卡索公司の商標権を侵害しているため、詮勝公司に対して「畢卡索」、「PICASSO」等の文字の商品上における使用を差し止めるとともに、畢卡索公司に対する賠償金243万新台湾ドルを支払うことを命じた。本件はさらに上訴することができる。(2011年3月25日)

II 判決内容の要約

■ 基礎データ

台北地方裁判所民事判決
【裁判番号】99,智,14
【裁判期日】2011年3月25日
【裁判事由】商標権侵害の排除

原   告 畢卡索国際開発有限公司
被   告 畢加索国際企業股份有限公司(Picasso International Incorporated)
被   告 詮勝国際股份有限公司(Allwin Sports International Corp.)

主 文
被告・詮勝国際股份有限公司に「畢卡索」、「PICASSO」、「Picasso」の文字を付表1番号1~3に示される専用商品及びその類似商品あるいは前掲の商品の包装、タグに使用することを差し止めるとともに、前掲の商品を販売する店舗、看板あるいは前掲の商品を販売することを目的として製作する広告、サイト、その他のメディアにも使用することを差し止めるものである。
被告である詮勝国際股份有限公司及び何棰鏡は前項の商品、包装、タグ、店舗、看板、宣伝、サイト及びその他のメディアにおける「畢卡索」、「PICASSO」、「Picasso」の文字を撤去又は削除するとともに、商標権を侵害する商品の在庫を廃棄するものとする。
被告である詮勝国際股份有限公司及び何棰鏡は原告に対して243万4000新台湾ドルを連帯で支払うものであり、2010年9月11日から完済日までに年利5%で利息を計算する。
原告のその他の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の詮勝国際股份有限公司、何棰鏡が連帯で四分の一を負担し、残りを原告が負担するものとする。
本判決第三項については、原告が82万新台湾ドルを担保として供出すれば、仮執行を行うことができる。
しかしながら被告である詮勝国際股份有限公司及び何棰鏡が243万4000新台湾ドルを原告に担保として供出した場合は仮執行を免れることができる。
原告のその他の仮執行請求は棄却するものとする。

一 事実要約
原告は法に基づいて会社を設立し、それぞれ経済部中央標準局(経済部知的財産局の前身)に対して特許登録番号、特許期日、特許登録公告期日、商標図案、商標名称、専用期限、専用商品及び指定区分が付表1に示されている通りの商標及びその図案を登録しており、それらがすべて専用期限内にある。被告・林達光が経営する被告・畢加索公司は特許登録番号、特許期日、特許登録公告期日、商標図案、商標名称、専用期限、専用商品及び指定区分が付表2に示されている通りの商標及びその図案の商標権者であり、前掲の原告が所有する商標とは異なる。被告・畢加索公司が最終的にサイトにおいて「PICASSO」でその商品と役務を表彰するとともに、紳士服、紳士用バッグ、紳士靴、万年質、文房具、靴下、携帯電話、寝具、婦人服及びその他の商品に「PICASSO MAN」、「PICASSO LEATHER」、「PICASSO SHOES」、「PICASSO PEN」、「PICASSO HOME TEXILE」、「PICASSO LADIES」等の文字を使用しており、明らかに被告・畢加索公司は前掲の商品すべてに「PICASSO」の商標権を所有している。被告・何棰鏡が経営する被告・詮勝公司がサイトhttp://www.allwinsports.comで「PICASSO」ブランド代理権を所有すると自称し、無断で「PICASSO」商標の文字を皮革財布、ビジネスバッグ、スーツケース、バックパック等の商品本体又はタグに使用するとともに、ネット上で商品を販売し、訴外人である林逢椿、蔡金德、陳美慧、陳美貞に転売していることを、原告がインターネット上で発見した。

二 両方当事者の請求内容
原告の請求:
(一) 被告・畢加索公司は「畢卡索」、「PICASSO」、「Picasso」の文字を付表1番号1~11に示される専用商品及びその類似商品あるいは前掲の商品の包装、タグに使用してはならない。また前掲の商品を販売する店舗、看板あるいは前掲の商品を販売することを目的として製作する広告、サイト、その他のメディアにも使用してはならない。被告・詮勝公司は「畢卡索」、「PICASSO」、「Picasso」の文字を付表1番号1~3に示される専用商品及びその類似商品あるいは前掲の商品の包装、タグに使用してはならない。また前掲の商品を販売する店舗、看板あるいは前掲の商品を販売することを目的として製作する広告、サイト、その他のメディアにも使用してはならない。
(二) 被告は第1項の請求に違反して商品、包裝、タグ、店鋪、看板、広告、サイト及びその他のメディアに使用している「畢卡索」、「PICASSO」、「Picasso」の文字を撤去又は削除するとともに、商標権を侵害する商品の在庫を廃棄しなければならない。
(三) 被告は民事判決書の案件番号、当事者、案件事由、主文全文及びその付表を、高さ24㎝、幅35㎝のスペースを用いて自由時報第1面に1日、高さ12㎝、幅35.6㎝のスペースを用いて蘋果日報第1面に1日掲載するとともに、http://www.picasso.com.tw/、http://www.allwinsports.com/、及びhttp://www.btu.com.tw/のサイトのホームページにそれぞれ180日掲載しなければならない。
(四) 被告は原告に496万8000新台湾ドルの賠償金と本起訴状副本送達翌日から完済日までの年利5%金利で計算した金利を連帯で支払わなければならない。
(五) 原告は担保を供出するので、仮執行宣言を許可されたい。

被告の請求:原告の請求を棄却する。不利な判決を受けた場合、被告は担保を供出するので、仮執行免脱宣言を許可されたい。
 
三 本件の争点
(一) 被告・銓勝公司が「PICASSO」、「Picasso」等の文字のプレスやラベルを付加している皮革財布、ビジネスバッグ、スーツケース、バックパック等の商品を製造、販売し、それが設置したサイトhttp://www.allwinsports.com/で「PICASSO」が自らのブランドであると説明することは、原告の商標権を侵害するのか。侵害するのであれば、被告・銓勝公司には商標権侵害の故意又は過失により損害賠償責任を負う必要があるのか。被告・銓勝公司の法定代理人である何棰鏡は連帯責任を負う必要があるのか。被告・畢加索公司及びその法定代理人である林達光はこの部分について連帯責任を負う必要があるのか。原告はこれに基づく請求に理由があるのか。
(二) 被告・畢加索公司は自社サイトhttp://www.picasso.com.twに「PICASSO」を以ってその商標を表彰することは、原告の商標権を侵害することになるのか。

(一)原告主張の理由:略。判決理由の説明を参照。
(二)被告答弁の理由:略。判決理由の説明を参照。

四 判決理由の要約
(一) 被告・詮勝公司の前掲の商品に使用されている「PICASSO」、「Picasso」等の文字のプレスやラベルを付加している商品を付表1番号1、2、3の商標図案と対比してみると、同一又は類似に属することは確かであり、且つ被告・詮勝公司が前掲の文字を使用している皮革財布、ビジネスバッグ、スーツケース、バックパック等の商品も原告の付表1番号1~3に示されている商標の指定商品と同一であることは疑いの余地がない。さらに被告・詮勝公司が使用する「Picasso」の文字が原告の付表1番号1~3に示される商標と十分に類似し、同一の商品に使用されていることを斟酌した結果、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるといえる。従って、被告・詮勝公司が商標権者の同意を得ずに同一商品において原告の登録商標と同じ商標を使用し、同一の商品にその登録商標に類似した商標を使用することは、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあり、原告の商標権を侵害する行為である。
(二) 原告が所有する付表1番号1~3の商標はすでに登録と公告が行われているため、公衆は調べて閲覧し知ることができる。況してや被告・詮勝公司はブランド代理とブランド商品販売に従事している会社であり素人ではないため、商標を標示することが他人の商標権を侵害していないかより高い注意を払う義務がある。従って、被告・詮勝公司は被告・畢加索公司が付表2番号1、2、11に示される商標の使用権受諾範囲を逸脱し、商標権者、つまり原告に同意を得ずに付表1番号1~3に示される商標を皮革財布、ビジネスバッグ、スーツケース、バックパック等の商品に直ちに標示したことは、少なくとも過失がなかったとはいい難い。従って、原告が権利侵害行為の法律関係系に基づき、被告・詮勝公司に損害賠償を請求することには理由があるといえる。
(三) さらに商標法第61条第1項、第63条第1項第3号の規定に基づいて、商標権者がその商標権を侵害された場合、損害賠償を請求することができ、また押収した商標権侵害に係る商品の小売単価の500倍から1500倍までの金額を損害額とする計算方法を選択することができる。いわゆる小売単価とは他人の商標権を侵害する商品が実際に販売された商品価格である(最高裁判所90年度台上字台324号、91年度台上字1411号判決を参照のこと)。
(四) 多種の権利侵害商品を押収した場合は、各種権利侵害商品の小売単価を一定倍数で掛けた後合計して損害賠償額とする。各種権利侵害商品の平均単価に一定の倍数を掛けて計算するものではない。原告が主張する被告・詮勝公司の権利侵害商品の最低単価は、キャリーバッグが1980新台湾ドル、ビジネスバッグが1190新台湾ドル、バックパックが690新台湾ドル、皮革財布が1008新台湾ドル等であることについては、発票(領収書)がファイルされており調べることができる。被告が販売した係争商品の単価の500倍を賠償金額とすると、被告は243万4000新台湾ドル【計算式:(1980+1190+690+1008)x500=243万4000)】を賠償するのが妥当である。また「会社の責任者が業務の執行において、法令に違反して他人に損害を与えた場合は、その他人に対して会社とともに連帯賠償任を負うものとする」と会社法第23条第2項に規定されている。調べたところ、被告・詮勝公司が原告の商標権を侵害して原告に損害を与えたことは前述した通りである。そこで原告は会社法第23条第2項に基づいて被告・詮勝公司の責任者である何棰鏡と被告・詮勝公司に前掲の損害について連帯賠償責任を負うよう請求することには根拠があるといえる。
(五) さらに原告が商標法第64条の規定に基づき被告に対して本件の民事判決書の案件番号、当事者、案件事由、主文全文及びその付表を自由時報第1面に1日、蘋果日報第1面に1日掲載するとともに、http://www.picasso.com.tw/、http://www.allwinsports.com/、及びhttp://www.btu.com.tw/のサイトのホームページにそれぞれ180日掲載するよう請求している部分については、商標法第64条が信用回復に係わる規定を考察すると、信用・名声が侵害された場合はもとより信用・名誉の回復のための妥当な処分を請求できるが、いわゆる妥当な処分とは当該処分が客観的にみて被害者の信用・名声を回復するに足るものであるべきであり、なお且つ必要な場合を指す(司法院大法官釈字第656号を參照)。ゆえに商標法第64条は商標権者が新聞掲載を請求できると規定しているだけで、裁判所は個別の状況を斟酌して必要かどうかを判断することができる(知的財産裁判所98年民商上字第10号、最高裁判所99年台上字第1259号民事判決は参考にできる)。調べたところ、原告はその信用・名声に損害を受けたと述べているが、挙証していない。市場では被告の「芸術臉譜(訳注:「臉譜」は隈取のような化粧)商標」の知名度の方がより高いという前掲の状況を参酌し、本裁判所は原告の信用・名声が侵害されたとは認定しがたく、原告の新聞掲載に関する請求は許可しがたい。原告はその信用・名声が被告・詮勝公司の権利侵害行為によって損害を受けたと証明することができず、前述した通りであるため、信用・名声損失に対する賠償金10万新台湾ドルを請求することも理由がない。
(六) 被告・畢加索公司は中国大陸ですでに「PICASSO」商標を所有し、簡体字のサイトを設置し、当該商標で販売を行っている。たとえ台湾からインターネットで当該サイトにリンクすることができても、被告・畢加索公司が台湾で「PICASSO」商標を使用したとはみなされない。さもなくば商標の「属地主義」原則はインターネットの世界において存在しなくなってしまう。つまり、被告・畢加索公司の前掲サイトの内容だけでは、被告・畢加索公司が台湾で「PICASSO」商標を使用したと認めることはできない。なお、被告・畢加索公司がhttp://www.picasso.com.twというサイトにおいて「PICASSO」でその商品を表彰した行為を以って原告の台湾における商標権を侵害していると認定するには足りない。従って、原告はまだ被告・畢加索公司がその商標権を侵害したことを証明できておらず、当該事実に基づき、被告・畢加索公司に対する請求はいずれも認めがたい。

五 関連条文抜粋
商標法 第29条
商標権者が登録を経てその指定商品又は役務について商標権を取得する。
本法第30条の別途規定を行う場合を除き、次に掲げる状況においては商標権者の同意を得るものとする。
一.同一の商品又は役務について、その登録商標と同一の商標を使用する場合。
二.類似の商品又は役務について、その登録商標と同一の商標を使用し、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある場合。
三.同一又は類似の商品又は役務について、その商標登録に類似する商標を使用し、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある場合。

商標法 第61条
商標権者はその商標権を侵害した者に対して損害賠償を請求することができ、その侵害排除を請求することができる。侵害のおそれがある場合は、その防止を請求することができる。
商標権者の同意を得ず、第29条第2項の各号の一つに該当する場合は、商標権侵害とする。
商標権者が第1項の規定に基づいて請求を行う場合は、商標権侵害に係る物品又は侵害行為に用いられた原料又は器具に対して廃棄又はその他の必要な処分を請求することができる。

商標法 第63条
商標権者が損害賠償を請求する場合、次の号に掲げる一つを選択してその損害を計算することができる。
一.民法第216条の規定による。ただし、その損害を証明する証拠方法を提供できない場合、商標権者はその登録商標を使用することにより通常得られる利益から、侵害された後に同一の商標を使用して得られた利益を差し引いた差額を以って損害額とすることができる。
二.商標権侵害行為により得られた利益による。商標権侵害者がその原価又は必要経費を挙証できない場合は、当該商品を販売した収入の全部をその所得利益とする。
三.押収した商標権侵害に係る商品の小売単価の500倍から1500倍までの金額を損害額とする。ただし押収した製品が1500点を超える場合は、その総額で賠償金額を定める。
前項の賠償金額が明らかに相当しない場合は、裁判所はそれを参酌し減額することができる。
商標権者の業務上の信用・名声が侵害により被害を受けた場合は、別途相当する金額を請求することができる。

商標法 第64条
商標権者は、商標権侵害者が費用を商標権侵害案件の判決書全文又は一部を新聞に掲載する費用の負担を請求することができる。

公司法(会社法)第23条
会社の責任者は忠実に業務を執行し、善良な管理者としての注意義務を尽くすものとし、違反により会社に損害を与えた場合は、賠償の責任を負うものとする。
会社の責任者が業務の執行において、法令に違反して他人に損害を与えた場合は、その他人に対して会社とともに連帯賠償責任を負うものとする。
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