「香奈爾當舖」はシャネル(香奈兒)のイメージを損なうか? 改名命令の判決

2014-05-14 2011年

■ 判決分類:商標

I 「香奈爾當舖」はシャネル(香奈兒)のイメージを損なうか? 改名命令の判決

■ ハイライト
高雄市の質屋が香奈「爾」という商号を用いた。国際的に著名なシャネル(香奈兒)とは一字違いだが、シャネルは裁判所に対して改名命令を請求した。裁判所は香奈爾當舖がシャネルのファッショブルなイメージを損ない、商標権を侵害したと認め、香奈爾當舖は改名すべきであるとの判決を下した。
有名ブランドのバッグはフランス製、英国製、英国製にかかわらず、様々なブランドがある。香奈爾は中古高級ブランド品販売店であるようにみえるが、実際は質屋であり、世界のブランドであるシャネルに告訴を提起された。香奈爾當舖のマネージャーである蘇斐鈺は「(創業)当初からわが社はこの社名を使用し、高雄市政府から許可された公文書も発給されている」と述べている。
すでに許可を取得して4年になる質屋の商号が香奈爾であり、店舗とともにネット上にもサイトを設置している。商号はシャネル(香奈兒)と一字違いだが、(中身の)違いは極めて大きい。有名ブランドであるシャネルは香奈爾當舖が商標と業務上の評価を侵害しているとして改名を要求したが、質屋は改名するどころか規模を拡大したため、業務上の評価に対する損害賠償金350万新台湾ドルを請求した。
知的財産裁判所は、香奈爾當舖が同意を得ずに香奈爾を商号とし、同様に高級ブランド品と宝飾品の売買に従事したことは、確実にシャネルのファッショナブルなイメージを減損しているとして、商号の変更とサイトの登録取消を命令する判決を下した。(TVBS 2011/04/26)

II 判決内容の要約

■ 基礎データ

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】99,民商訴,32
【裁判期日】2011年4月21日
【裁判事由】商標権侵害の財産権に係わる係争等

原告 シャネル(外国語名:CHANEL SARL、中国語名:瑞士商香奈兒股份有限公司)
原告 英属開曼群島商香奈兒精品股份有限公司台湾分公司(Chanel Inc.,Taiwan Branch)
被告 蔡嘉信即ち香奈爾當舖
被告 阿邦師名牌精品鑑定有限公司
法定代理人 李哲政
被告 李正邦
被告 余培齡

上記当事者間での商標権侵害の財産権に係わる係争、公平交易法違反等の事件をめぐり、本裁判所は2011年3月31日に口頭弁論を終結し、以下のように判決を下るものである。

主文
被告の蔡嘉信即ち香奈爾當舖は「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字をその商号名称の主要部分として使用してはならず、さらに高雄市政府経済発展局に対してその商号を「香奈兒」又は「香奈爾」の文字を含まないものに変更しなければならない。
被告の阿邦師名牌精品鑑定有限公司は「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字をその会社名の主要部分として使用してはならない。
被告は「CHANEL」と同一又は類似した文字をそのドメイン名の主要部分として使用してはならず、さらにドメイン名「http//www.chanel-pawnshop. com」の登録取消手続きを行わなければならない。
被告は「CHANEL」、「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字を含む看板、名刺、広告、サイト又はその他販売に係わる物件を使用してはならない。
被告は「CHANEL」、「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字を含む看板、名刺及びその他販売に係わる物件を滅却しなければならない。
被告は経費を負担して、本件判決書の案件番号、当事者、裁判事由欄及び主文の全文を新細明体10ポイントのフォントを用いて聯合報全国版第一面に一日掲載しなければならない。
原告のその他の請求及び仮執行宣言申立はいずれも棄却する。
訴訟費用は被告の蔡嘉信即ち香奈爾當舖、余培齡及び李正邦が三分之一、被告の阿邦師名牌精品鑑定有限公司と被告の李正邦が三分之一を負担し、その他を原告が負担する。

一 事実要約
(一) 原告である瑞士商香奈兒股份有限公司(以下「シャネル」)はシャネルグループに属し、世界的に有名な香水、化粧品、衣料品、靴、バッグ及び宝飾品等の商品を取り扱う会社であり、1912年から「CHANEL」を商標として使用しており、付表に示される商品と役務における使用を指定している。1960年には台湾においても付表に示される「CHANEL」、「香奈兒」及び「香奈爾」等の商標登録(以下「係争商標」)を次々と取得した。さらに台湾において巨額の広告費を投入し、「CHANEL」、「香奈兒」及び「香奈爾」ブランドでの販売を行っている。原告である英属開曼群島商香奈兒精品股份有限公司台湾分公司(以下「シャネル台湾支社」)はグループの関連企業であり、台湾において係争商標を使用して、衣料品、化粧品、時計、宝飾品、香水等の商品の卸売及び小売事業に従事しており、係争商標はすでに台湾における著名商標となっている。
(二) 被告の阿邦師名牌精品鑑定有限公司(以下「阿邦師公司」。訳注:2011年2月21日に改名以前は「香奈爾珠寶銀樓有限公司」、以下「香奈爾珠寶公司」)は原告の業務上の評価に便乗して利益を得るため、2008年3月に原告が所有する「香奈兒」商標を利用し、「香奈爾」の文字を会社名として香奈爾珠寶公司を設立した。代表者は李哲政である(訳注:改名前の代表者は李正邦)。被告の余培齡、被告の蔡嘉信は原告が所有する「香奈兒」商標を利用し、前後して「香奈兒」及び「香奈爾」の文字を質屋の商号とし、質屋の代表者となった。販売目的に基づき、2007年から高雄市○○○路88号の外部に「香奈兒精品當舖」という看板を掲げ、「香奈兒精品當舖」という名刺を使用し、ブランドバッグ、高級品、腕時計、ダイヤモンドの質受、委託販売及び小売等の業務に従事した。被告の前記行為は関連の消費者を誤認混同させるのみならず、原告が所有する「香奈兒」商標の識別性と信用・名声を減損させた。思いがけず被告は営業規模を拡大し、更に高雄市○○路309号に営業拠点を設置し、「香奈爾精品當舖」を看板、名刺に使用し、同じ業務に従事した。販売目的に基づき、原告の「CHANEL」商標と同じ文字をサイトのドメイン名に使用し、http//www.chanel-pawnshop.com とした。「香奈爾精品當舖www.chanel-pawnshop.com」、「香奈爾精品當舖」、「香奈爾珠寶銀樓有限公司」等の名義を以てネット上で対外的に宣伝し、「香奈爾精品當舖」の名義で新聞広告を掲載し、「更多香奈爾流當品資訊www.chanel-pawnshop.com(シャネル流質物の更なる情報はwww.chanel-pawnshop.comへ)」、「高價收購鑽石、名牌精品(高値でダイヤモンド、高級ブランド品を買い入れ)」と明記し、各種の動産商品の質受、流質物の販売、商品の委託販売、ダイヤモンド及び高級品の売買等の業務に従事し、関連の消費者を誤認混同させ、係争商標の識別性と信用・名声を減損させた。
(三) 被告が従事する高級ブランド品の委託販売、小売及び流質物の売買等の業務は、原告が所有する第151961号「香奈兒」商標の指定商品である「衣料品、服飾品、宝飾品、靴、バッグの小売」と同じであるため、商標法第29条第2項第1号の規定に違反している。たとえ被告が提供する役務が、原告の指定役務と同じではなくても、質屋が市場で営む業務は、前述の質受以外に、それに続く流質物の競売、陳列及び販売等の行為が含まれ、これと小売サービスは外観上、各種商品を特定の場所に集め、消費者に見せて、商品を選ばせるという点で同じである。且つ被告の看板、名刺、売場での陳列、サイト上の資料、新聞広告等から、被告らが高級ブランド商品を経営の重点としているほか、流質物の販売以外に、有名ブランド商品売買、中古ブランド商品の委託販売及び展示販売等のサービスも提供していることをうかがい知ることができる。有名ブランド商品は市場において価値を維持でき、数量限定商品の場合はさらに値上がりする余地があるため、消費者はこの特性を利用し、市場で中古品の販売又は融資借入を行っている。双方は同じ消費者層を持っており、社会通念と市場取引に基づいて、たとえ同じ役務に属していなくても、高い関連性を有する類似の役務に属する。被告が使用する「香奈爾」商標はその字形と呼称がいずれも原告が所有する第151961号「香奈兒」商標に極めて近似しており、且つ被告が使用する「CHANEL」商標は原告が所有する第151961号「香奈兒」商標の英語原文である。さらに、「香奈兒」、「CHANEL」商標はいずれも原告の著名登録商標で、強烈な識別性を有し、両者はすでに高度に近似している。商標識別性の強弱、商標の類似の程度又は役務の類似の程度のいずれから観察しても、被告が「香奈兒」、「香奈爾」及び「CHANEL」商標を対外的な販売行為に使用することは、通常の知識経験を有する関連の消費者が、通常の識別と注意を施し、隔離的に観察した場合、被告の役務が原告と同一の出所からの系列の役務だと誤認させたり、被告の経営する香奈兒精品當舖、香奈爾精品當舖と原告との間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させたりして、関連の消費者が誤認混同する虞があり、その行為は商標法第29条第2項第2号、第3号の規定に違反し、商標法第61条第2項の商標権侵害に該当する。
(四) 被告は係争商標が原告の著名商標及び登録商標であると明らかに知りながら、係争商標と同じ「香奈兒」、「香奈爾」及び「CHANEL」という文字を自らの商号、会社名、ドメイン名に使用し、さらにそれらの経営主体及び出所を表彰する標識としてそれを看板、名刺、新聞広告及びサイト上に用いて大々的に対外に販売を行い、それによって社会価値観念上、原告の持つ精緻、ファッショナブル、スタイリッシュというイメージとは大きな落差がある質屋業務を宣伝した。被告の行為は関連の消費者に係争商標が質屋を経営する印象をもたらし、係争商標が原告の商標、役務であると強く表す識別性を希釈し、係争商標の象徴する精緻、ファッショナブル及びスタイリッシュというイメージに対して関連の消費者にネガティブな連想をもたらした。これにより商標法第62条第1項第1号に定められる商標権侵害行為を構成している。商標識別性の強弱、商標の類似の程度又は役務の類似の程度にかかわらず、被告等が「香奈兒」、「香奈爾」及び「CHANEL」等の文字を使用する行為は、関連の消費者に被告の役務が原告と同一の出所からの系列の役務だと誤認させたり、被告の経営する質屋と原告との間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させたりするため、(その行為は)商標法第62条第2号の商標権侵害行為を構成すると認定すべきである。
(五) 係争商標はすでに関連の事業又は消費者が原告の提供する商品又は役務を区別するのに用いる表徴となっている。被告が間接的に係争商標を侵害する行為は、公平交易法第20条第1項第2号で定められる「混同」という結果をもたらす。原告は数十年にわたって大量の資金と努力を投入した結果、一般大衆の心の中に係争商標が表彰する原告の商品及び役務が持つ精緻、ファッショナブル、スタイリッシュという業務上の評価の表徴を確立し、市場における極めて高い知名度を得た。思いがけず被告はそれが販売する商品、提供する役務に対して関連の消費者に精緻、ファッショナブル、スタイリッシュという特性の連想をもたらし、その質屋の各業務を推進する助けとするために、原告の業務上の評価に便乗し、上記の方法を以て係争商標を対外販売に使用している。たとえ被告の行為が公平交易法第20条第1項第2号で定められる状況を構成しないと認められたとしても、被告の行為は公平交易法第24条で定められる企業が行ってはならない「その他取引秩序に影響するに足りる欺罔又は著しく公正さを欠く行為」と認定すべきである。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1. 被告の蔡嘉信即ち香奈爾當舖は「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字をその商号名称の主要部分として使用してはならず、さらに高雄市政府経済発展局に対してその商号を「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字を含まないものに変更しなければならない。
2. 被告の阿邦師名牌精品鑑定有限公司は「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字をその会社名の主要部分として使用してはならない。
3. 被告は「CHANEL」と同一又は類似した文字をそのドメイン名の主要部分として使用してはならず、さらにドメイン名「http//www.chanel-pawnshop. com」の登録取消手続きを行わなければならない。
4. 被告は「CHANEL」、「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字を含む看板、名刺、広告、サイト又はその他販売に係わる物件を使用したり、或いはその他の販売を目的として「CHANEL」、「香奈兒」又は「香奈爾」等と同一又は類似した文字を使用したりする行為に従事してはならない。さらに「CHANEL」、「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字を含む看板、名刺及びその他の販売に係わる物件を撤去、滅却しなければならない。
5. 被告の蔡嘉信即ち香奈爾當舖、李正邦及び余培齡は原告に対して350万新台湾ドル、並びに起訴状副本の送達翌日から賠償金支払い完了日まで年5%の割合による利息を連帯で支払わなければならない。
6. 被告の阿邦師公司、李正邦は原告に対して350万新台湾ドル、並びに起訴状副本の送達翌日から賠償金支払い完了日まで年5%の割合による利息を連帯で支払わなければならない。
7. 第5項及び第6項の請求について、その中の一被告が賠償を完了した場合、その他の被告は賠償完了の範囲内において同じく支払いの義務を免じる。
8. 被告は経費を負担して、本件判決書の案件番号、当事者、裁判事由欄及び主文の全文を新細明体10ポイントのフォントを用いて聯合報全国版(A、B版)第一面にそれぞれ一日掲載しなければならない。
9. 第5項、第6項及び第7項の請求について、(原告は)担保を提供するので、仮執行宣言を申し立てる。
(二)被告の請求:原告の請求を棄却すべきである。もし不利な判決を受けた場合は、担保を提供するので仮執行免除を申し立てる。

三 本件の争点
1. 被告の阿邦師公司、李正邦は商標法第61条第2項、第62条又は公平交易法第20条第1項第2号、第24条の規定に違反するか否か。
2. 被告の余培齡、蔡嘉信即ち香奈爾當舖は商標法第61条第2項、第62条又は公平交易法第20条第1項第2号、第24条の規定に違反するか否か。
3. 原告の請求の第5、6、7項で、被告は不真正連帯損害賠償責任を負うべきだとする(原告の)請求には理由があるか否か。
4. 原告のその他の請求は妥当であるとして許可されるべきか否か。このため、本裁判所は双方の上述係争を参酌し、先ずは被告の行為が商標法又は公平交易法の規定に違反しているか否かを検討すべきである。違反がある場合は、続いて被告間で連帯責任を負うべきか否かを認定する。最終的に原告の請求が妥当であるか否かを審判する。

四 判決理由の要約
一.商標権の直接的侵害行為:
双方の争点は被告に係争商標に対する直接的侵害行為があったか否かにある。ゆえに本裁判所は原告が係争商標権者であるか否か、被告が係争商標を使用したか否か、被告の行為は商標法第29条第2項の商標権の直接的侵害の類型に該当するか否かを検討すべきである。ここで以下の通りに論述する。
(一) 原告のシャネルは香水、化粧品、衣料品、靴、バッグ及び宝飾品等の商品を取り扱い、1912年から「CHANEL」を商標として使用している。原告のシャネルは米国、スイス、フランス、日本、オランダ、スペイン、アルゼンチン等の国で商標登録を行っているほか、1960年には台湾においても付表に示される「CHANEL」、「香奈兒」及び「香奈爾」等の商標登録(以下「係争商標」)を次々と取得し、付表に示される商品と役務における使用を指定している。シャネル台湾支社はグループの関連企業であり、台湾において係争商標を使用して、衣料品、化粧品、時計、宝飾品、香水等の商品の卸売及び小売事業に従事している。これらの事実については、原告が知的財産局に提出した商標資料検索の添付書類があり、調べることができ(本裁判所ファイル第25~30頁の原告証拠1を参照)、双方とも争っていない。つまり原告は係争商標権者であり、係争商標は付表に示される商品又は役務における使用を指定しており、それには衣料品、化粧品、時計、宝飾品及び香水等の商品又は役務が含まれる。
(二) 被告は係争商標の使用行為を否認しており、原告が被告に係争商標権の直接的侵害行為があると主張するならば、被告が係争商標を使用する事実について挙証すべきであり、それによって初めて係争商標の侵害という法律関係を主張できるとしている。
(三) 被告は「香奈兒」又は「香奈爾」を会社名又は質屋の商号としているほか、看板と名刺にも「香奈兒」又は「香奈爾」を標示しており、サイト及び新聞には「香奈爾」の名称で商品を販売している。被告の前述の行為は被告が係争商標名を自らの会社又は商店の名称としていることを説明するだけで、被告がその販売する商品又は役務に係争商標を標示し、関連の消費者に係争商標が被告の商標であると誤認させることを証明できない。つまり被告は「香奈兒」又は「香奈爾」の名称を使用しているが、前述の説明から引証すると、商標使用の要件に該当せず、係争商標権の直接的侵害行為は成立しない。

二.商標権の間接的侵害行為:
原告は係争商標が著名商標であり、被告が係争商標を使用する行為は関連の消費者を誤認混同させ、原告の所有する「香奈兒」商標の識別性と信用・名声を減損させた等と主張している。被告は商標識別性の減損若しくは誤認混同の行為はない云々と抗弁している。つまり、双方の争点は被告の行為が商標権の間接的侵害行為であるか否かにある。ゆえに、本裁判所は係争商標が著名商標であるか否か、被告の行為に係争商標の識別性又は信用・名声の減損し、商標法第62条第1号に規定される商標権の間接的侵害の類型に該当するか否か、被告の行為は関連の消費者に誤認混同させ、商標法第62条第2号に規定される商標権の間接的侵害様態が成立するか否かを審判すべきである。ここでは以下のように検討する。
(一)1.原告の主張によると、原告のシャネルは香水、化粧品、衣料品、靴、バッグ及び宝飾品等商品の販売に従事しており、台湾において巨額の広告費を投入し、「CHANEL」、「香奈兒」及び「香奈爾」ブランドでの販売を行っている。原告のシャネル台湾支社はグループの関連企業であり、台湾において係争商標を使用して、衣料品、化粧品、時計、宝飾品、香水等の商品の卸売及び小売事業に従事しており、係争商標はすでに台湾における著名商標となっている。本裁判所は知的財産局註冊第1293547 号商標無効審判ファイルを調べたところ事実であり、係争商標が著名商標であると認定するに足る。
2.原告の主張によると、2009年年3月3日原告は弁護士に委託して被告が係争商標を侵害していることを被告に書面で通知した。被告の李正邦は2009年10月22日に「香奈爾精品當舖」の文字を以て知的財産局に商標登録を出願した。審査の結果、原告の係争商標は著名商標であると認定され、被告の李正邦の商標登録出願は拒絶された。すでに原告から提出された弁護士書簡、知的財産局2010年7月30日(99)智商0508字第09980361530号拒絶査定書という証拠(本裁判所ファイル第37~39、77頁の原告証拠6、12を参照)があり、被告がそれを争わなかったことは、係争商標を著名商標であると判断するに益するものであり、被告も以上の状況を知悉していた。このため、被告は原告から同意を得ずに係争商標の中の文字を自らの会社名、商号、ドメイン名又はその他の経営の主体又は出所を表彰する標識としてはならない。
(二)いわゆる識別性の減損とは、著名商標が他人によって襲用され、関連の消費者の認知において、当該著名商標とそれが表彰する商品又は役務の出所との関連性が弱化することを指す。
1.原告の主張によると、被告の阿邦師公司は2008年3月に原告が所有する「香奈兒」商標を使用し、「香奈爾」の文字を会社名の一部とし、香奈爾珠寶公司を設立して、被告の李正邦がその代表者となった。被告の余培齡、被告の蔡嘉信は原告が所有する「香奈兒」商標を利用し、前後して「香奈兒」及び「香奈爾」の文字を質屋の商号とし、質屋の代表者となった。
2.被告は係争商標が原告の著名登録商標であると明らかに知りながら、原告の同意を得ずに、係争商標と同じ「香奈兒」、「香奈爾」及「CHANEL」という文字を自らの商号、会社名、ドメイン名に使用し、さらにそれらの経営主体及び出所を表彰する標識として、看板、名刺、新聞広告及びサイト上に用いて対外に販売を行い、それによって社会価値観念上、原告の持つ精緻、ファッショナブル、スタイリッシュというイメージとは大きな落差がある質屋又は低価格宝飾品等の業務を宣伝した。このため被告の行為は係争商標が原告の商標、役務を表徴する識別性を低減し、係争著名商標の識別性に減損、価値低減、希釈の危険をもたらした。
3.いわゆる信用・名声の減損とは、他人が低品質の商品又は役務を提供することで、商標権者の真正品の社会的評価に影響を及ぼすことを指す。しかしながら取引の常況から判断すると、被告は質物又は低価格宝飾品の売買業務に従事しており、関連の消費者は被告が提供する商品又は役務を知悉しているはずであり、その価格は品質と正の相関関係を呈し、精緻、ファッショナブル又はスタイリッシュを重視する係争商標の商品又は役務とは比べることはできないため、係争商標が表彰する商品又は役務は社会的評価において損害を受けていないはずである。
4.上記内容に基づき、被告が係争商標と同じ「香奈兒」、「香奈爾」及び「CHANEL」等の文字を商号、会社名、ドメイン名に使用し、対外的に経営の主体又は出所を表彰する行為は、係争商標の信用・名声に損害を与えるに至っていないものの、係争商標の識別性の減損は明らかである。つまり被告の行為は商標法第62条第1号で定められる商標権の間接的侵害であると認める。
(三)いわゆる誤認混同の虞とは、商標又は標章が関連の消費者にそれが表彰する商品又は役務の性質、出所又は提供する主体に関して誤認混同させる虞があることを指す(最高行政裁判所98年度判字第455号判決を参照)。
1.被告が宝飾品、流質物の売買及び融資等の業務に従事しており、係争商標の指定商品である衣料品、宝飾品、靴、バック等の小売サービスとは同じではなく、被告の看板、名刺、サイト上の資料、新聞広告等から、関連の消費者は被告が質品、宝飾品を売買し、融資をしていることをうかがい知ることができるが、その係争商標が表彰する精緻、ファッショナブル及びスタイリッシュ等の特質を有する高級な役務又は商品は、中古品の売買、低価格宝飾品の販売、または融資サービスの出所ではない。双方が経営する事業には明らかな差異があり、社会的通念及び市場取引の区分を参酌し、関連の消費者に双方の表彰する商品又は役務の性質、出所又は提供の主体に対して誤認混同を生じさせる虞はない。
2.双方の関連の消費者には市場の区分があり、通常の識別と注意を施した場合、被告が経営する質物の売買、低価格宝飾品の売買又は融資が、原告と同一の出所からの系列の商品又は役務であると誤認させたり、被告が経営する質屋又は会社が、原告との間に関連企業、使用許諾関係、加盟関係又はその他これらに類する関係が存在すると誤認させたりするには至らない。従って、被告の行為は商標法第62条第2号に規定される商標権の間接的侵害の類型に該当する云々とする原告の主張は、誤解があるようだ。

三.商品又は役務の表徴の模倣:
双方の争点は被告に係争商標名を模倣する行為、又はその他取引秩序に影響するに足りる欺罔又は著しく公正さを欠く行為が有るか否かにある。本裁判所は先ず被告に商品又は役務の表徴を模倣する行為が有るか否かを審判し、続いて公平交易法第24条規定を適用するか否かを検討する。
(一) いわゆる表徴とは、ある種の識別力又は二次的意義を有する特徴を指し、それは商品又は役務の出所を表彰することができ、関連のある事業者又は消費者にそれを用いることによって異なる商品又は役務を区別させるものである。双方が提供する役務又は商品は、関連の消費者が明らかに区分されており、前述した通り、双方が提供する商品又は役務の出所に対して混同は発生せず、不公正競争があるとはいい難い。ゆえに公平交易法第20条第1項第2号の禁止事項には該当しない。
(二) 被告は係争商標の名称を以て経営の主体の名称を表彰しており、この他人の業務上の評価への便乗行為は、欺騙又は重要事実の隠蔽等の他人を錯誤させる方法とは異なり、関連の消費者と被告の取引の目的は、質屋営業又は中古品の買取にあり、原告が属する関連の消費者グループが減少することでビジネスチャンスが喪失されたり、公正性が失われたりすることはない。たとえ被告のサイトがchanel-pawnshopという名称であっても、pawnshopには質屋の意味があり、原告が質屋ではなく、pawnshopは「chanel」を表徴する原告がネット市場でビジネスチャンスを獲得するのを阻止することはできず、競争機能に違反して、取引の秩序に明らかな公正性が失われる事情はないため、被告の行為も公平交易法第24条の禁止行為には該当しない。

四.差止請求権:
(一) 侵害の停止及び防止のための請求権は、侵害又は侵害の虞等の事実が発生しただけで主張することができ、その主観的帰責事由を考慮せず、商標権侵害行為者に故意又は過失であることを要件とはしない。
(二) 被告が係争商標と同じ「香奈兒」、「香奈爾」及び「CHANEL」等の文字を商号、会社名、ドメイン名として使用し、係争商標名称で経営の主体又は出所を表彰することは、商標権の間接的侵害が成立すると、すでに前述している。被告の香奈爾當舖が係争商標名称を使用することで、すでに係争商標に対する侵害が発生しており、原告が被告の香奈爾當舖に対して侵害停止請求権を行使することには、法的根拠がある。
(三) 香奈爾珠寶公司は2011年2月21日に被告の阿邦師公司と社名を変更し、会社名には「香奈爾」又は「香奈兒」等の文字はないが、香奈爾珠寶公司は2008年3月27日に設立されて以来係争商標名称を使用しており、係争商標の侵害行為がすでに存在しており(本裁判所ファイル第31頁の原告証拠2を参照)、その後本件訴訟中に阿邦師公司へと変更している。本裁判所は被告の阿邦師公司による以前の係争商標侵害期間が3年を越えていることを斟酌し、既存の危険な状況から判断すると再度侵害される可能性が極めて大きく、事前に防止の必要がある場合、原告が被告の阿邦師公司に対して侵害防止請求権を行使することには理由がある。

五.滅却請求権:
商標法第61条第3項に規定されている。商標権は無形財産権であり、準物権の性質を有する。商標権者による滅却請求権の行使は行為者又は所持者に故意又は過失がある場合に限らず、それは民法第767条第1項中段の所有権妨害排除請求権に類似している。侵害物品及び侵害物品を製造するための原料、器具を滅却し、市場に流入させないようにすることにより、権利侵害の損害又は危険を最低限に減らすことができる。保全手続きと比べると、保全手続きは現状維持又は侵害物品の市場流入差止めを行うことができるにとどまり、滅却請求権は商標権者をより周到に保護できる。被告は係争商標名称を看板、名刺、広告宣伝及びネット販売に使用していることは、前述の通りである。つまり、原告が被告に対して、「CHANEL」、「香奈兒」又は「香奈爾」と同一又は類似した文字の看板、名刺、その他販促物品を滅却し、原告が上述物品を所有し続けることを差止めるよう請求して、市場に流入して係争商標を侵害することを防止することには理由があるため、本裁判所は主文第5項に示す通り判決を下すものである。

六.損害賠償請求権:
双方の争点は被告による係争商標の侵害行為において、被告が負うべき損害賠償額をどのように算定するかにある。本裁判所は先ず被告が係争商標の侵害行為によって利益を取得したか否かを審判すべきである。
(一) 被告の香奈爾當舖は1991年8月16日から現在まで、及び被告の阿邦師公司は2008年3月27日から2011年2月21日まで、いずれも係争商標の間接的侵害行為がみられた。被告の李正邦、余培齡及び蔡嘉信はこの期間において、それぞれ被告の阿邦師公司、香奈爾當舖又は香奈爾珠寶公司の代表者を担任していた。
(二) 1.被告が提出した財政部高雄市国税局左營稽徴所(訳注:「稽徴所」は税務署に相当)の「営業税査定課徴核定税額繳款書(訳注:事業税の納付書)」の記載を参照すると、被告の香奈爾當舖は国税局が確定した営業税額が3ヵ月毎に3,000新台湾ドルであることがわかり、前述の規定で算出した営業収入は被告の香奈爾當舖の年収を証明できるが、被告の香奈爾當舖が係争商標名称を使用したことでどれだけの利益を得たかは証明できない。
2.被告の香奈爾當鋪が3ヵ月毎に3,000新台湾ドル、年間で合計12,000新台湾ドルの営業税を支払っており、営業税率2%から推算すると、その年商は60万新台湾ドルとなり、ゆえに2007年1月1日から2011年3月末末までの営業收入は255万新台湾ドルを超えていることを知りえる云々という原告の上記主張は、たとえ事実であったとしても、被告の香奈爾當舖の年商を説明できるだけで、被告の香奈爾當舖が係争商標名称を使用したことと、その営業収入との間に大きな因果関係があると証明することはできない。前述の説明を引証すると、原告は商標法第63条第1項第3号に基づいて被告に財産上の損害50万新台湾ドルの賠償を請求する云々と主張することには、法的根拠がない。

七.業務上信用・名声の損害:
双方の争点は被告の行為が原告の業務における信用・名声を減損したか否かにある。
(一) 「商誉権」は経済的な評価を保護するものであり、業務上の評価が侵害されたか否かの判断については、社会的評価が低下して初めて該当するものであり、権利侵害行為のみに基づいてすぐに認定してはならない。被告は(原告の)業務上の信用・名声が係争商標権の侵害により受けた非財産損害を賠償すべきである云々と原告が主張しているが、現在までに被告の係争商標侵害によって業務上の評価が侵害され、社会的評価が貶められた、又は低落したという事実を本裁判所の審判のために供していない。
(二) 被告が質品又は低価格宝飾品等の売買業務に従事する地域型商店と、原告が経営する国際的に著名なグループ又は高級品チェーン店とでは、両者の経営規模及び特性ともに差異性が甚大であり、関連の消費者は被告が提供する商品又は役務を知悉しており、その価格は品質と正の相関関係を呈し、精緻、ファッショナブル又はスタイリッシュな係争商標の商品又は役務とは比べることはできず、係争商標が表彰する商品又は役務は、同業者及び関連の消費者の観念において貶められたり損害を受けたりしていないはずである。ゆえに被告が係争商標の業務上の評価に便乗して、原告の業務上の評価を減損し、被告に対して商業法第63条第3項で定められる業務上信用請求権を主張する云々という原告の主張には、法的根拠がない。

八.新聞掲載請求権:双方の争点は本判決を新聞掲載する必要があるか否か、必要であるならばその掲載範囲はいかなるものかにある。
(一) 商標法第64条では商標権者は新聞掲載を請求してもよいとのみ規定されており、裁判所は具体的な状況を斟酌して必要の有無を判断しなければならない。
(二) 本裁判所は被告が地域の事業体であり、経営規模が中小型に属するため、たとえ被告の係争商標侵害行為により原告の信用・名声を侵害していたとしても、被告は本件判決書の案件番号、当事者、裁判事由欄及び主文の全文を新細明体10ポイントのフォントを用いて聯合報全国版第一面に一日掲載すれば、社会に知らしめること、即ち原告の信用・名声を保障・回復させることができると認める。

九.以上をまとめると、原告は商標法第61条、第62条、第63条第1項、第64条、公平交易法第20条第1項第2号、第24条、第30条、第31条、第32条第2項、民法第28条、第185条及び公司法第23条第2項等の規定に基づいて主張している主文第1~第4項の侵害差止方法、第5項の物品の滅却及び第6項の新聞掲載の内容にはいずれも理由があるため、許可すべきである。この範囲を超えるものは理由がないため、棄却すべきである。原告の請求の第5~7項における損害賠償及び業務における信用・名声の損害について、本裁判所は理由がないと認め、棄却する。それらの担保提供による仮執行宣言申立については、付する理由がすべて失われているため、併せて棄却するものとする。

2011年4月21日
知的裁判所第三法廷
裁判官 林洲富
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