靴メーカー「鞋將」が商標権侵害、62足販売に賠償金100万新台湾ドル

2013-12-30 2012年

■ 判決分類:商標権

I 靴メーカー「鞋將」が商標権侵害、62足販売に賠償金100万新台湾ドル

■ ハイライト
3年前、世界のブランド、英バーバリー(BURBERRY)は台湾メーカー「鞋將」製の婦人靴が商標権を侵害しているのを発見した。その後、双方は再犯がみられた場合、100万新台湾ドルの損害賠償金を支払うという内容を含む承諾書を交していた。思いがけず昨年6月に(鞋將による)再犯が発覚した。しかし「鞋將」は同タイプの靴を62足しか販売しておらず、販売額は1万元余りなので、賠償金が高すぎると主張していた。板橋地方裁判所は、承諾書が交された際に各条件についてはすでに考慮されているはずなので、違約金減額には理由がないとして、100万新台湾ドルの賠償を命じる判決を下した。(2012年7月29日中国時報A9面)

II 判決内容の要約

台湾板橋地方裁判所民事判決
【裁判番号】100年度智字第8号
【裁判期日】2012年7月25日
【裁判事由】違約金支払等

原告 バーバリー・リミテッド(中国語名:英商布拜里公司、英語名:Burberry Limited)
法定代理人 Stuart Lo.
被告 鞋將実業有限公司(Shoe Master Fashion Shoes Co.,Ltd.)  
法定代理人 張○

上記当事者間での違約金支払等の事件をめぐり、本裁判所は2012年6月20日に口頭弁論を終結し、以下のように判決を下すものである。

主文
被告の鞋將実業有限公司、張○は原告に対して100万新台湾ドルと2012年5月18日から支払済みまでの年5%の割合による利息を連帯で支払うものとする。
原告のその他の請求は棄却する。
訴訟費用は36%を被告が負担し、残りを原告が負担するものとする。
本判決第一項について、原告が14万新台湾ドルを担保として提供した場合は、仮執行することができる。但し、被告が100万新台湾ドルを原告に対して担保として供した場合は、仮執行を免れることができる
原告のその他の仮執行宣言申立は棄却する。

一 事実要約
被告の鞋將実業有限公司(以下「鞋將公司」)が2009年8月、原告のバーバリー・リミテッド(以下「バーバリー」)の同意または使用許諾を得ずに、それが販売する婦人靴に原告の係争商標図案を使用した。原告は書簡にて通知し、被告の鞋將公司は商標権侵害を認めるとともに和解の意向を示し、さらに2009年8月31日には係争承諾書を原告と交わした。被告の鞋將公司は原告の同意を得ずに原告の係争商標を使用した婦人靴を販売したことを認め、係争承諾書第1条において「すでに商標権侵害商品の販売を停止しており、今後も自ら又は他人を通じて商標権侵害の商品若しくは原告の登録商標と同じ又は近似した図案を複製したコピー商品を製造、陳列、輸送、輸出若しくは輸入、広告・販促したり、景品として使用したり、その他の方法で散布したり、又はその他の原告の権益を侵害したりする行為を決して行わないことを保証する」ことを承諾している。被告の鞋將公司は20万新台湾ドルの賠償金を原告に支払った他に、さらに承諾書第5条において「前記のいかなる虚偽不実、不誠実な履行がみられた場合、若しくは前記のいかなる承諾又は保証に対して違反した場合は、ただちに無条件で懲罰的違約金100万新台湾ドルを原告に支払うことに対して異議を唱えない」ことを承諾しており、被告の鞋將公司は係争承諾書に署名し、原告の登録商標と同じ又は近似した図案を付したコピー商品を決して再び販売しないと承諾していたにも関わらず、原告は被告の鞋將公司が2011年6月に原告の係争商標図案を使用した婦人靴(以下「係争婦人靴」)を再び販売しているのを発見した。被告の鞋將公司が販売した係争婦人靴にはチェック柄のリボンがあり、その色と縞のデザインが原告の係争商標図案と完全に同一であった。いずれも地の色がキャメル色で、連続する赤い格子の中を黒3本、白2本から成る太い縞模様が貫通しており、被告の鞋將公司には明らかに原告の係争商標と同じ又は近似している図案を付した商品を陳列、販売する行為が有り、承諾書第1条の約定に違反しているため、承諾書第5条の約定に基づいて、被告の鞋將公司は承諾した行為に違反したことに対して、100万新台湾ドルの懲罰的違約金を原告に支払わなければならない。原告はさらに商標法第63条第1項第3号の規定に基づいて、係争婦人靴の販売単価である1800新台湾ドルの1000倍に相当する180万新台湾ドルを損害賠償金として請求した。つまり原告は被告等に対して合計280万新台湾ドルと法定利息を請求した。

二 両方当事者の請求内容
(一)原告の請求:
1.被告の鞋將公司と張○は原告に280万新台湾ドルと 2012年5月18日から支払済みまでの年5%の割合による利息を連帯で支払うべきである。
2.原告は担保を提供するので、仮執行宣言の許可を申し立てる。
(二)被告の請求:
  1.原告の請求を棄却すべきである。
  2.不利な判決を受けた場合、被告は担保を提供するので仮執行免除を申し立てる。

三 本件の争点
(一)被告の鞋將公司が販売した係争婦人靴には、原告の係争商標権の侵害が有ったか否か。
(二)原告が係争承諾書に基づいて被告の鞋將公司及び張○に対して100万新台湾ドルの違約金を連帯で支払うよう請求することには、理由が有るか否か。また金額が高すぎるか否か。
(三)原告が被告の鞋將公司及び張○に対して180万新台湾ドルの損害賠償金を連帯で支払うよう請求することには理由が有るか否か。また金額が高すぎるか否か。

原告の主張(略)
被告の答弁(略)

四 判決理由の要約
一.第一の争点である「被告の鞋將公司が販売した係争婦人靴には、原告の係争商標権の侵害が有ったか否か」の部分について
(一)商標が近似しているか否かについては、両商標について商標全体を総括し、混同又は誤認の虞の有無を隔離的に観察することによって判断すべきであり、両商標を対比する観察のみを基準とすることはできない(行政裁判所26年判字第48号、29年判字第22号、30年判字第1号の判例趣旨を参照)。つまり、両商標が近似しているか否かは、その商品に関連する消費者が持つ全体的な印象(即ち外観、呼称、又は観念から成るもの)を以て近似の有無を判断すべきものであり、全体観察原則に反して任意に商標の図案を分割観察してはならない(最高行政裁判所91年度判字第1559号の判決趣旨を参照)。本裁判所は地の色と縞模様の数及び色等の細部を対比したところ、係争婦人靴のリボンは確かに係争商標図案とほぼ完全に同一であるといえる程度に及んでいた。たとえ縞の太さや色の明度に多少の差異があったとしても、全体観察原則並びに時間と場所を異にした隔離的観察原則に基づいて対比し、通常の知識経験を有する商品消費者が購買時に普通の注意を施したところ、なお誤認混同の虞を免れることができず、少なくとも極めて近似していることに疑義の生じる余地はない。
(二)客観的な状態から見ると、被告の鞋將公司はリボンを以て自らの商品の特色又は出所を表彰する意図があり、商品の出所を連想させる目的を達するため、この特色を以て消費者に該リボンを販売の依拠としたに違いない。従って、本裁判所は係争婦人靴上の該リボンの位置、サイズ及び顕著性などの客観的要素を参酌し、該リボンには係争婦人靴を表彰、区別、販売するための商標として使用する目的が存在すると合理的に推論するものである。ゆえに係争商標を使用したことに疑義の生じる余地はない。
(三)被告の鞋將公司及び張○は係争承諾書に署名する際、すでに係争商標図案を添付資料(本裁判所ファイル(一)第35頁参照)としており、係争商標図案の色や縞模様構成を知らなかったと言い訳することはできず、また盗用、模倣及び商標権侵害の主観的意思がなかったとは言い難い。
(四)以上をまとめると、被告の鞋將公司が販売した係争婦人靴に、原告の係争商標権侵害があったことは、疑義の生じる余地はないはずである。

二.第二の争点である「原告が係争承諾書に基づいて被告の鞋將公司及び張○に対して100万新台湾ドルの違約金を連帯で支払うよう請求することには、理由が有るか否か。また金額が高すぎるか否か」の部分について
(一)違約金の約定は当事者の契約自由の原則、私的自治の原則を体現するものであり、双方が契約を結んだとき、自らの契約履行の意思、経済力、相手が契約に違反した場合に自らが受ける損害の程度等の主観的、客観的要素を観察、分析しており、自由意思及び平等な地位で自ら決定したものである。債務者が約定した違約金が高すぎ不公平であると主張、挙証し、それに対して裁判所が社会正義を実現するために、約定した法律の規定に基づいて、約定の金額が高すぎるのか、妥当な金額まで如何に引き下げるかを参酌することができるという場合を除き、当事者はいずれも該違約金に関する約定の拘束を受け、裁判所もこれを尊重するべきであり、これによって契約約定の本旨に適うことができる(最高裁判所92年度台上字第2747号、93年度台上字第909号の判例趣旨を参照)。調べたところ、本案件被告の鞋將公司は懲罰的違約金100万新台湾ドルが高すぎるため、減額すべきであるなどと主張しているが、原告の係争商標権を侵害している係争婦人靴(ベージュ)の販売量が62足で、利益は1万1533新台湾ドルにすぎず、販売期間も短く、侵害状況は軽微である云々と述べるのみで、いかなる証拠資料も提出しておらず、被告の鞋將公司は違約金が高すぎると主張する事実について挙証の責任を果たしているとは言い難い。
(二)双方が前回の商標権侵害により係争承諾書において定めた和解金20万新台湾ドルを合理的であるとしていること、原告が被告の鞋將公司又は張○の前回の商標法違反に関する民事及び刑事責任を追及しないとする条件、及び違約行為を構成する基準も厳しくないこと、商標法が商標権を保護し、侵害を禁止する規定を再び申し述べていること(係争承諾書の射程範囲の認定に関しては以下に詳細を述べる)等の状況を鑑みて、被告の鞋將公司及び張○が係争承諾書を署名する際、すでに自らの契約履行の意思、経済力等の主観的、客観的要素を観察、分析しており、自由意思及び平等な地位で自ら決定したものであり、自由意思を強制される、又は双方の地位が明らかに対等ではないという状況が無いことから判断して、被告の鞋將公司又は張○が約定した違約金額が高すぎると後から主張することは受け入れられない。これによって私的自治の原則、契約自由の原則、及び係争承諾書の本旨に適うことができる。従って懲罰的違約金100万新台湾ドルが高すぎるので減額すべきである云々という被告の鞋將公司からの主張には理由がない。

三.第三の争点である「原告が被告の鞋將公司及び張○に対して180万新台湾ドルの損害賠償金を連帯で支払うよう請求することには理由が有るか否か。また金額が高すぎるか否か」の部分について
(一)法人も権利主体であるが、組織体であるだけで、独立した思考、行為はなく、主観的に故意又は過失であったとは言い難く、法律の特別規定がない場合は、権利侵害行為の行為者ではない。
(二)我が国における司法実務の通説及び見解からみても、主観的に法人には故意又は過失がないと言える。権利侵害行為の行為者ではなく、侵害行為が成立する可能性はない。本案件の原告が180万新台湾ドルの損害賠償金を請求している部分については、改正前の商標法第61条第1項前段部分に定められる商標権侵害の侵害行為は法律関係の訴訟対象であり、自ずと前述の司法実務、見解の拘束を受ける。以上述べたところに基づき、原告は被告の鞋將公司を実際に係争商標権の侵害行為者だとし、被告の鞋將公司が損害賠償責任を負うべきだと主張しているが、証拠がない。さらに被告の張○も連帯責任が無いと言える。従って、原告が商標法第61条第1項前段規定に基づいて被告の鞋將公司及び張○に180万新台湾ドルの損害賠償金を連帯で支払うよう請求することについては、理由がないものである。

四.以上をまとめると、原告は係争承諾書の約定に基づき、被告の鞋將公司及び張○に対して原告に100万新台湾ドルと2012年5月18日から支払済みまでの年5%の割合による利息を連帯で支払うよう請求することは、理由があるため、許可すべきである。前記範囲を越える請求については証拠がなく、棄却すべきである。

2012年7月25日
民事第三法廷裁判長 陳財旺
裁判官 高文淵
裁判官 賴彦魁
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