中国の著名ミネラルウォーター「農夫山泉」商標係争 中国側が勝訴

2013-12-30 2012年

■ 判決分類:商標権

I 中国の著名ミネラルウォーター「農夫山泉」商標係争 中国側が勝訴

■ ハイライト
 中国の著名なボトル入り飲料水ブランド「農夫山泉」が商標係争において台湾の「農夫山泉」に勝訴した。最高行政裁判所は、双方の商標が高度に類似しており、いずれもミネラルウォーター等の商品において使用されているため、知的財産局に対して台湾「農夫山泉」の商標登録を取り消すべきであるとの判決を下した。
 裁判官によれば、台湾「農夫山泉」商標の出願人である尤○誠は飲料水関連の業務に従事しており、台湾で商標登録を出願する以前から中国を幾度にもわたり訪れており、中国「農夫山泉」の存在を知りながら、台湾で先取り登録したに違いない。
 中国「農夫山泉」公司が提出した資料によれば、同社が生産するボトル入り飲料水は、中国の大型小売業者及び消費者市場における総合市場シェアが全国一となったことがある。
 一方、台湾「農夫山泉」は尤○誠が2002年に知的財産局に対して商標登録を出願し、包装飲料水、ミネラルウォーター、カップ入り飲料水での使用を指定した。中国の「農夫山泉」はこれを発見した後、異議を申し立てたが、知的財産局が異議不成立と決定したため行政訴訟を提起した。最終的に知的財産裁判所は知的財産局に敗訴の判決を下し、最高行政裁判所もその判決を維持した。
 中国「農夫山泉」側に主張によれば、同社は中国、韓国、シンガポールにおいていずれも商標を登録しており、世界的な知名度がある。2010年第5回江陳会談で締結された「海峡両岸知的財産権保護協議(the Cross-Straits Intellectual Property Protection Cooperation Agreement)」により、商標は保護されるべきである。
 中国「農夫山泉」はさらに、両商標の相違点は「農」という文字が繁体字か簡体字かのみであり、観念、呼称はいずれも識別しがたく、消費者に両商標が同一の出所であると容易に連想させてしまうため、類似商標を構成している、と主張した。
 台湾「農夫山泉」も、該商標は合法に登録したもので、中国地区とは異なり、国情、字体、文化も異なるものであり、模倣の意図もない、と主張したが、最高行政裁判所はこれを受け入れなかった。(2012年4月6日/聯合報/A23面)

II 判決内容要約

最高行政裁判所判決
【裁判番号】101年度判字第286号
【裁判日期】2012年3月22日
【裁判事由】商標異議申立

上訴人 農夫山泉股份有限公司(即ち原審参加人)
上訴人 経済部知的財産局 (即ち原審被告)
被上訴人 中国地区‧農夫山泉股份有限公司(即ち原審原告)

上記当事者間での商標異議申立事件をめぐり、上訴人は2011年11月3日知的財産裁判所2011年度行商訴字第63号行政判決に対して訴訟を提起した。本裁判所は以下のように判決を下すものである。

主文
上訴を棄却する。
上訴審の訴訟費用は上訴人が負担するものとする。

一 事実要約
尤○誠は2002年5月15日「農夫山泉」商標(以下「係争商標」)について、商標法施行細則(当時)第49条に定める商品及び役務の区分表第32類のサイダー、炭酸水、炭酸飲料、ソーダ水、ミネラルウォーター、湧き水、スポーツドリンク、カルシウムイオン水、サルシ(Sarsae)、野菜ジュース、ミルクティ、包装飲料水、純水、カップ入り飲料水、フレーバーウォーター、活性水、水(飲料)、電解イオン水、ミネラルウォーター製造用配合材料、飲料品製造用配原料等の商品における使用を指定するとともに、図案の中にある「山泉」について専用権放棄を声明し、上訴人である経済部知的財産局(以下「上訴人の知財局、即ち原審被告」)に対して登録を出願した。審査の結果、登録第01045230号商標として許可査定を受けた。その後、被上訴人(即ち原審原告)は2003年5月14日に係争商標が商標法(当時)第37条第7、14号の規定に違反しているとして、異議申立を行った。上訴人の知財局は審理期間において、商標法(2003年11月28日改正施行)を適用して本件の審理を行い、係争商標が改正前の商標法第37条第14号及び改正後商標法第23条第1項第14号に違反していると判断し、「係争の登録第1045230号『農夫山泉』商標の登録を取り消すべきである」との処分を下した。尤○誠はこれを不服として行政訴願を提起したが棄却されたため、行政訴訟を提起した。台北高等行政裁判所は訴願決定及び原処分のいずれも取り消すよう判決を下した。間もなく尤○誠は係争商標を上訴人の農夫山泉股份有限公司(原名「好農夫國際貿易股份有限公司」、以下「上訴人の農夫山泉公司、即ち原審参加人」)に譲渡し、上訴人の知財局は2006年5月2日移転登録を許可した。その後、上訴人の知財局は上記判決主旨に基づいて改めて審理し、「異議不成立」の処分を下した。被上訴人はこれを不服として行政訴願を提起したが棄却されたため、原審裁判所(知的財産裁判所)に対して行政訴訟を提起した。原審裁判所は上訴人の農夫山泉公司に対して上訴人の知財局の訴訟に独立参加するよう命じた後、訴願決定及び原処分を取り消すべきであり、上訴人の知財局に対して登録第01045230号「農夫山泉」商標異議申立案件に係わる異議成立・登録取消の処分を下すべきであるとの判決を下した。上訴人はこれを不服とし、本件上訴を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一)被上訴人の起訴主張:訴願決定及び原処分を取り消す判決を求める。上訴人の知財局は登録第01045230号「農夫山泉」商標に対する異議成立及び該商標登録取消の処分を下すべきである。
(二)上訴人の知財局の主張:本件の係争商標と引用商標とを比較すると、両者はもとより高度に類似する商標である。然るに、引用商標である「農夫山泉」商標は係争商標が2002年5月15日に登録出願した時点で、我が国の関連の事業又は消費者が普遍的に認知する著名度に達しておらず、他人の商標又は標章がすでに「著名」に達している必要があるという要件に適合しないことから、係争商標は改正前の商標法第37条第7号及び改正後の商標法第23条第1項第12号の規定を適用しない。また、本件の被上訴人が主張する関連条項は、改正前の商標法第37条第7号、14号及び改正後の第23条第1項第12号、14号である。改正前後の第14号について、被上訴人が提出した資料は係争商標の前商標権者(即ち尤○誠)が引用商標の存在を知っていたことを直接的に証明することはできない。改正前の第7号、改正後の第12号の要件は引用商標がすでに著名な程度に達していることであるが、被上訴人が提出した証拠資料はほとんどが中国で使用した証拠資料である。それに対して上訴人の農夫山泉公司が提出した使用証拠によると、係争商標登録前に係争商標の前商標権者がすでに関連する新聞雑誌に広告を掲載し、係争商標は却って国内の関連する消費者に熟知された商標となっていたため、改正前の第7号、改正後の第12号の規定を適用しない。被上訴人の請求を棄却することを求める。
(三)上訴人の農夫山泉公司の主張:上訴人の農夫山泉公司は合法的に出願しており、上訴人の知財局は係争商標の使用に同意している。さらに地域が異なり、国情、字体及び文化も異なる。民国80年代(1990年代)に引用商標はまだ中国でも有名ではなく、上訴人の農夫山泉公司には模倣の意図はない。

三 本件の争点
上訴人の上訴主旨の概略:「係争商標の前商標権者である尤○誠は1996年7月26日から2003年1月15日までに中国地区を訪れていた。尤○誠が中国地区へ出入りしていたため、尤○誠には地縁関係があり、引用商標の存在を知悉していたはずである」と原審裁判所が認定したことは、経験法則に反するだけではなく、判決が理由を欠いているという誤りがあり、さらに商標法第23条第1項第14号のいわゆる「地縁関係」の定義を拡大して適用しており、法令適用が不適切であるという誤りもある。また、原判決では係争商標の登録出願は引用商標を剽窃し、先取り登録したものだと認定されており、これは経験法則と論理法則に反している。次に、原判決は商標法第23条第1項第14号で規定されている「その他の関係」を「国内外で関連する又は競争する同業間」と拡大解釈している。但し、原審裁判所はこれらを見落とし、両者には同業(者間)競争の関係があると述べ、競争関係があると認定した依拠については詳細に説明していない。また、競争関係によって他人の商標の存在を知悉しているとすぐに判断することは、事実認定が証拠に基づいて行われていないという誤りがあり、判決が理由を欠いている。

四 判決理由の要約
(一)本法(商標法)が2003年4月29日に改正施行される以前に既に異議申立が行われ、且つまだ異議申立の決定が行われていない案件については、本法改正施行前及び本法改正施行後の規定によりいずれの違法の事由にも該当するときに限り、その登録が取り消されることが、商標法第90条には明記されている。次に、「同一の商品又は類似の商品における他人の先使用にかかる商標と同一又は類似であり、出願人が当該他人との間で契約関係、地縁、業務取引又はその他の関係を有することにより、他人の商標の存在を知悉していたとき」、登録出願してはならないこと、「同一又は類似の商品又は役務における他人の先使用にかかる商標と同一又は類似であり、出願人が当該他人との間で契約関係、地縁、業務取引又はその他の関係を有することにより、他人の商標の存在を知悉していたとき」登録してはならないこと、がそれぞれ改正前商標法第37条第14号及び改正後商標法第23条第1項第14号において明記されている。
(二)本件の係争商標と引用商標が高度に類似しており、且つ引用商標が同一又は類似のミネラルウォーター、ボトル入り飲料水等の商品に先使用している事実は、すでに原審が論明してその心証を得た理由でもあり、判決には法規の不適用、又は不適切な適用という法令に違反する状況はみられない。
(三)次に調べたところ、原審はすでに引用商標が中国又は特定の省、市における市場シェア、知名度、販売状況を証明できると論明している。証拠資料の多くは係争商標が登録される前のもので、いずれも中国における使用に限られた資料であるが、係争商標が登録出願される前に引用商標が中国で既にかなりの知名度があったことを見ることができる。
(四)係争商標の前商標権者である尤○誠には地縁関係があり、引用商標の存在を知悉していたはずであり、被上訴人と係争商標の前商標権者である尤○誠はいずれも飲料水関連の業務に従事し、同業(者間)競争の関係があるはずであるため、係争商標の前商標権者である尤○誠と被上訴人との間に業務取引がなかったとしても、国内外で関連する又は競争する同業(者)間において地縁又は業務経営の関係により被上訴人が先使用する商標の存在を知悉しながら先取り登録した、と原審が認定することは、なお経験法則又は論理法則に反しているとはいえない。上訴人は、原審が商標法第23条第1項第14号のいわゆる「地縁関係」の定義を不適切に拡大して適用しており、法令適用が不適切であるという誤りがあると主張している。原審の証拠取捨、事実認定の職権行使事項が再び争われているが、これは法律上の見解が異なる主張に属し、原判決に法令違反の状況があるとはいい難い。
(五)原審が「その主張を採用しない」、又は「認定には誤りがある」等々と上訴人が主張している。これは原審の証拠取捨が当事者の望むものと異なり、その事実認定が該当事者の主張と異なる部分を争っているもので、判決に理由がないという違法状況には該当せず、原判決に法令違反の状況があるとはいい難い。
(六)従って原審は、係争商標の登録が改正施行前の商標法第37条14号及び改正後の商標法第23条第1項第14号の規定に違反していると判決している。上訴人の知財局による商標異議決定書における「異議不成立」の処分は適宜ではなく、訴願決定を維持したことも法令に適合しないため、被上訴人の請求により原処分及び訴願決定を取り消すとともに、上訴人の知財局に対して異議成立及び商標登録取消の処分を行うよう命じることは、上記説明により合法である。上訴主旨は原判決に法令違反があると指摘し、原判決破棄を請求しているが、これには理由がなく、請求を棄却すべきである。

上記論結により、本件上訴には理由がない。知的財産案件審理法第1条、行政訴訟法第255条第1項、第98条第1項前段により、主文の通り判決を下すものである。

2012年3月22日
最高行政裁判所第三法廷
裁判長 吳明鴻
裁判官 帥嘉寶
裁判官 江幸垠
裁判官 林金本
裁判官 陳國成

 

 

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